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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第三節 『開戦』
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第三節 -13- 戦闘開始

「……やっと、見付けた」


 勇者は溜息を吐いて、言った。その額は少し汗ばんでいる。後ろにいるサヤはぜえぜえと息を切らしていた。


「なん、で」


 ピーピリープリーが驚愕の面持ちで言う。「なんで、ここに」


「魔法を使わずに来たから、けっこう疲れたぞ。本当に、面倒くさい魔法を創りやがって」


 勇者の言葉は答えになっていなかった――例外を除いて、だが。


 その例外である、ピーピリープリーには、充分に答えになっていた。『魔法を使わずに』。その言葉と、今ここに勇者がいると言う事実だけで、全てを悟った。


 ――魔法を、攻略された。


 ピーピリープリーの魔法は、人間どころか、大多数の魔族――もしかすると、第五くらいまで――にすら、攻略されないほどに高度で複雑な魔法だった。力任せに破壊することなどできず、完全な技術をもってしか、攻略できない魔法なのだ。


 しかも、ピーピリープリーはこれを構築するのに、三か月以上の時間を要した。それほどまでに時間をかけて構築したこの魔法を、これほどの短時間で攻略されるなど、考えられるはずもない。


 ただ想定外だったのは、勇者の『眼』。


 勇者はピーピリープリーの表情を読み、笑みを見せ、言った。


「おそらくだが、お前、この魔法を構築するのに、三か月くらいの時間をかけただろ」


 ピーピリープリーはその言葉に驚愕する。心を読まれた。そう思った。


「心、っつーよりは表情だ。いっつも思うが、魔族の心は読めやす過ぎるぞ。人間とは違って、善良だからか? 表情にしろ、声にしろ、仕草にしろ、全てにおいて、心が読めやすい。お前らの心なんて、魔法を使うまでもなく、読めるさ」


 その言葉に、さらに驚愕するピーピリープリー。おそらく、全ての魔族がこの言葉を聞いた瞬間に、驚愕の谷に落とされるだろう。魔族は魔法を使うことが当然であり、『心を読む』と言えば、それは魔法以外に手段など存在しないはずだったのだ。――そう言えば、第二とか第十三とかには、魔法を使わなくても心を読まれていたような気がするけれど、あれは、魔法の発動を隠蔽していたわけじゃなく、本当に魔法を使っていなかったのかもしれない。ピーピリープリーは第二や第十三といった同胞が自らをからかった時のことを思い出した。


「さて、話を戻すが――三か月? お前、それくらいの時間しか使っていない魔法で、この俺を殺せるなんて思っていたのか?」


「え?」


 ピーピリープリーは唖然としてそんな言葉を漏らす。三か月。それだけの時間、ずっと、一つの魔法の構築に集中していたのだ。元々、ピーピリープリーは魔法構築スピードが他の魔族に比べて速く、技術に関してもかなりのものだと自負している。その自分が、三か月も要した魔法だ。それが、『それくらいの時間』? どういう意味だ。


 だが、その心の内に抱いた問いは、ピーピリープリーの予想もしなかった答えを返されることになった。


「俺は、この『眼』に、数年の月日を費やした」


 そう言って、勇者は自らの『眼』を見せる。緻密すぎて、構造など全く分からない。それほどまでに、微細まで張り巡らされた、魔法。


 ピーピリープリーは最初、我が目を疑った。数年? 一つの魔法に? いや、確かに、あれは、それほどの時間を費やしてもおかしくないような魔法だ。それほどの時間だけで終わったことに驚くような魔法だ。――だが、あれを、人間如きが? 人間如きが、あれほどの魔法を?


 しかし、疑っても、実際に、その『眼』は存在している。ピーピリープリーが構築した、今、彼らがいる空間のような、大規模な魔法ではない。だが、もっと、もっと小さな空間――人間の『眼』に、ピーピリープリーの魔法に満たされた空間にある全ての構造よりも緻密な構造が、内包されていた。これだけ大きな魔法に、これだけ緻密な魔法構造。その時点で、ピーピリープリーはどこか安心していたのかもしれない。これが、破られるはずがないと。この魔法さえあれば、絶対に、仇を討てると。


 だが、それは間違いだった。


 勇者は、その上を行っていた。


 ――だけど。


「だけど、まだ、負けたわけじゃない。この魔法だけが、私の全てだとは、思っていないでしょう?」


 それに、勇者は笑って答えた。


「当然だ。久しぶりに、楽しませてもらうぞ」


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