第三節 -9- 夢幻無限
「……見つけた」
勇者は呟き、歯を剥き出しにして、獰猛な笑みを見せた。
「なにを見つけたんですか?」
そこらを興味深そうに観察していたサヤが、ひょこひょこと勇者に近づき、首を傾げる。
「魔族だ。この塔を――この大規模魔法を、構築した奴。そいつを、見つけた」
そして、勇者は一瞬で魔法陣を展開。そこに描きこまれた模様は目を凝らさなければそれを『模様』と判断できないほどに複雑であり緻密だった。
「なあ、魔族? これで、お前は絶体絶命だと思うが?」
勇者は魔法陣に向かって話しかけた。それを不思議に思ったサヤだったが、その答えはすぐにわかった。
《面白くもない冗談は、やめてほしいなー。とゆーか、通信したいんだったら、言ってくれれば良かったのに。この魔法内の事象の全ては私の意のままなんだから》
声が、聞こえてきた。
どこから?
魔法陣からだ。
勇者が展開した魔法陣――それは、通信魔法の陣だった。
「そうか。だが、冗談でもないぞ? お前に『こちらから』通信魔法をしたんだ。妨害魔法の膨大さに辟易したが、魔法陣の補助あって、捕捉した。そう、『捕捉した』んだ」
《あは。それが既に、私の魔法だという可能性は考えないのー?》
「それはありえるな。だが、それならば、力づくでするだけだ」
《……力づくって?》
魔法陣の先の声は、訝しむような声で、言った。
それに、勇者は不敵に笑い、
「本当は無駄遣いはしたくないんだが、俺の全ての魔力を使ってでも、この塔ごと壊す」
《そう。とりあえず、言っておくわ。『ダウト』》
その言葉に勇者の眉はぴくりと動いた。しかし、声は無視して続ける。
《あなたも、気付いているんでしょう? この魔法に。あ、答えなくてもいいよ。もう、わかっているから。言ったよね? この魔法内の事象の全ては私の意のままだって。あなたがそれに気付いていることくらい、知っているわ》
そうして、声は――『第二十』は、言った。
《ここは夢幻の無限の空間。あなたは既に夢幻に惑わされ、無限に続く獄の中。自己紹介がまだだったわね。私は第二十、ピーピリープリー。この時を待ち望んでいたわ。亡き同胞の仇を、私は、やっと、討てる》
勇者はその顔から笑みを消し、じっと、魔法陣を見た。
《無限に夢幻を味わって、無間へと逝きなさい、人間》