第二節 -11- 暴力
「フッ! ハッ! ハッ! ハ! ッハ! ァァアアアッハァア!」
特徴的な笑い声と共に魔力が放出され、その魔力はいとも簡単に人間の住む街がある山を一つ消し飛ばした。
「爽快だ! 久しぶりだぞ、こんなにも自由に魔法を行使できるのは!」
巨漢と形容するにふさわしい男。人間であれば東洋人のような短い黒髪と黄色い肌。
人間の男性のような体躯でありながら、一つだけ人間と違うところだあった。角である。その額から、一本の巨大な角が生えていた。
「さぁて、このオレ、第五テドビシュの眼に適う人間は、この地にいるかな」
テドビシュはにんまりと笑った。
*
「えー。なんでそんなのしなきゃなんないのー?」
ベッドの上でごろごろと寝転がっている魔族が言った。
人間の少女のような体躯。淡い水色の長髪に、シルクのような肌。しかし人間とは違うところがあり、それは尾であった。人間がイメージする悪魔が持つような尾を持っていた。
「魔王様の命令です。あと、その身体はお止め下さい」
ベッドから少し離れた場所である魔族が跪つき、言った。
命令で子犬の姿にしたその魔族だが、やはりこの姿にして良かった。可愛いもん、と少女の姿をした魔族は思った。
「でもでもー、これ、楽だしー。ピーピリープリーの気持ちもわかるって感じだしー。このベッドで寝転がるには、これが最適だしー。というか、魔王も人間の姿してるじゃーん」
「……それを言われると、何も言えないのですが」
子犬の姿をした魔族がしょぼんとして言う。やっぱりこの姿にして良かった。少女の姿をした魔族はにっこりと笑う。
「まあ、でも、魔王の命令なら、その仕事くらいはやってあげる。確か、人間を殺せば良いんだよねー?」
「は、はい」
「りょーかーい。じゃあ、ばーん」
少女の姿をした魔族が窓に指を向けて、言った。すると直後、その指から一つの光弾が射出され、目にもとまらぬスピードでどこかへ向かって飛んで行った。
そして、数秒後、少女の姿をした魔族が居座る城すらも揺るがすほどの轟音とともに、空を覆い尽くすほどに眩い光が閃いた。
「はいっ。これで三千は死んだんじゃないかな。まあ、私、第二レプグラムからすれば、こんなの簡単ってわけよ。さて、もうすることないよね? おやすみー」
レプグラムはベッドに身体をうずめた。
*
――魔族たちは少しずつ、人間たちに侵攻し始めた。
様々な方法で、着実に人間を殺していっていた。
だが、魔王は動かない。
ただ、その時に備え、力を温存するために。