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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第二節 天才
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第二節 -10- 青年の目的

 翌日、青年は街に出ていた。

 シェーラに話を聞いた限り、この街に魔族が襲撃したことはないらしい。しかし、人間に襲撃されたことはあるらしく、余所者に対する視線が少々きついものであるのもそのためであろう。

「魔族と戦争してるっつーのに、なんで人間は人間同士で戦うのか。全員、もっと利己的に考えろよ。理性的に利己的に考えれば、全体の利益が個人、つまりは自分の利益につながると言うことが解らないのか。個人の利益のみを追求した場合のデメリットを考えないのかよ。全体を蔑ろにした場合、その個人は全体にとって不利益な存在と思われる。それが既にデメリットだし、それによって様々な不利益が生じることになる。争うのではなく、協力することが人間にとっては最善なんだ。自分が得をして、誰かが損をするのではなく、どちらもが得をするような関係が理想なんだ。誰かが損をするということは、自分が損をするという可能性もあるということだ。自分が誰にも損を与えなくとも誰かが自分に損を与えるかもしれない。だが、自分が損を与えなかったら、誰かが自分に損を与えないようになることは来ない。自分から始めなければ、何も変わりはしないのだから」

 青年は独り言を口にしていた。長年一人旅をしていると、独り言が癖になってしまうのだ。少なくとも青年はそうであった。

「つうか、魔法のおかげでせっかくバベルの塔をぶち壊される以前の状態と同じ状態になったってんだから、戦争はなくなって然るべきなんだがな。言語が統一されたとしても戦争が起こるんじゃあ、神が言語をバラバラにした意味ってなんなんだよ、ってなるしな」

 青年の独り言は周りの者にも聞こえているだろう。しかし、青年はそんなことは気にしない。そんなことを気にしている余裕などないのだ。

 青年はほどんど無意識の内に独り言を口に出し、そして意識的に魔法を使って選別をしていた。魔法の才能の選別。自分の仲間となるべき存在の選別を。

 青年の眼球には現在とある模様が刻まれており、しかしそれは普通の人間に見えるものではなかった。魔法の熟練者であって、ようやく見えるような模様であり、それは驚くほど緻密な魔法であった。

 魔力の消費を最小限にし、かつ精度を最大限に引き出すためには緻密な魔法を編まずにはできなかったのだ。この魔法を青年は一週間以上の時間を費やして完成させた。そして、完成させた今でも毎日のメンテナンスは欠かしていない。

 それほどまでに、青年にとって仲間を探すというのは重要なことだったのだ。青年のような、魔族すらも超える魔法の才を持つ者はこの世界には圧倒的に少ない。グローリーやリスト。あの王や、シェーラでやっと中級の魔族の才を超えるほどなのだ。青年の教えもあって、今では上級魔族と戦えるレベルまでは到達しているかもしれないが、それでも尚、弱過ぎる。

 青年が今までに会った中で、最も強い人間は青年の師匠だった。しかし、あの人でさえ、青年の才には遠く及ばなかった。彼は青年の目の前で殺され、そして、彼を殺した魔族ですら、青年は殺すことができた。十二歳の時点でその域に達するほどの才を、青年は持っていたのだ。

 そして今、青年が探しているのは、そんな自分に匹敵するほどの才能を持つ人間である。

 実のところ、魔王が相手じゃなければ、そんな人間は必要ないと青年は踏んでいた。そもそも、倒した魔族の魔力がそのまま自分の魔力として奪うことができるこの世界において、仲間などは必要がないに等しいのだ。逆に仲間がいればその分、自分が奪うことのできる魔力が少なくなるので、仲間がいない方が良いとも言える。

 しかし、青年は魔王の存在の為に仲間を探していた。青年は魔王を倒す者と自称しているが、自分が魔王を倒せるとは思っていなかった。魔王の魔力量は、それこそ桁外れのものであったのだ。これからの自分の成長から考えて、それでも、遠く及ばない。更には、あの時、北地区に残った魔王の魔法の残滓を見て、青年は確信していた。魔法の技術すら、魔王は驚くほどのものを持っていた。少なくとも、今の青年は超えるほどの技術を。魔王と戦う時には青年も魔王と同じだけの技術を得られると予想してはいる。だが、それ故に、仲間が必要なのだ。

 同じ技術の高さで、圧倒的なまでに違う魔力量。勝てる道理などない。

 しかし、仲間がいれば、その戦術は倍以上に膨らむ。そうすれば、勝つことができる。青年はそう思っていた。

「……本当に、人間は戦争なんかしている場合じゃない。魔族を殺すために、一致団結させなきゃ、な」

 青年は独り、呟いた。

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