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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第二節 天才
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第二節 -4- 侵攻開始

「さて。そろそろ征くか」

 魔王の前には数十の魔族が跪いていた。

「待ちくたびれましたよ、魔王様」

「第七だけでなく、第十五、第十八、第二十四までもが今までに殺され、しかし、ずっと待機をしてきました。しかし、やっと、できるのですね」

 歓喜が声に滲み出ていた。それほどまでに、彼らは喜んでいた。

「左様。テストも予想通りであったからな。千分の七。それだけしか、此度の襲撃では殺されなかった。それほどまでに、人間どもは、油断している。故に、今こそ、征く時だ」

 魔王がその顔を不敵な笑みに歪めた。

「我が此処に命ずる。人間どもを、駆逐せよ」

 魔族たちは雄叫びで応えた。 

 とある少年が第七エレクトロを殺してから、三年の年月が流れていた。

 エレクトロが殺されてから、魔王は驚くべき命令を下した。

 ――人間を殺すな。 

 それはエレクトロを殺され、激昂していた魔族にとっては尋常もなく難儀なことだった。

 しかし、魔族たちはそれを達成した。

 達成できた理由、それは魔王の命令は絶対であり、正しかったからだ。

 全ての魔族は魔王をこれ以上なく慕っていた。それは、魔王が強かったから、という理由だけではない。

 強さだけでこれほどまでの統治を成すことは不可能だ。しかし、魔王はやってのけた。

 それは魔王がそう言う魔族であった、と言う他ない。

 全ての魔族に、この御方に従おう、と思わせた魔族であった、と言う他はないのだ。

 魔王の強さに惚れ、魔王の意志に惚れ、魔王の思想に惚れた。

 魔族たちは、魔王をこれ以上なく慕っていた。

 故に、人間を殺すな、というような命令を受け入れたのだ。

 そして、その命令は魔族たちが期待した通り、意味ある命令であった。

 人間を完全に駆逐するための、意味が。

 魔族は人間とは違い、その魔力を増やすことはできない。

 しかし、その魔力は自然に回復していくのだ。魔族から奪うことでしか、魔力を回復することのない人間たちと違って。

 故に、魔王は魔族たちに『人間を殺すな』と命じた。

 人間を殺すな――今の彼らに人間を殺す以外の業務は存在せず、故にその命令は、待機しておけという意味だ。

 全ての魔族がそれを実行すればどうなるか。

 その結果が、現在の状況である。

 人間側から攻め込まない限り、人間は魔族を殺すことはできず、つまり、人間は魔族から魔力を奪うことはできない。

 しかし、人間たちにそんな戦力がある者は圧倒的に少ない。

 無論、例外は存在する。エレクトロを殺した人間や、その人間が手を貸したと思われる軍の者。彼らは魔族に攻め込むだけの力を有していたし、実際に、攻め込んだ。その結果、殺された魔族も存在する。

 当然のことながら、攻め込まれた魔族は戦った。人間を殺すな、と命令されていたが、同時に攻め込まれた場合はその限りでないとの命令もされていたのだ。

 しかし、その魔族たちは殺された。

 まず第十五、第十八、第二十四といった将軍。彼らは第七エレクトロを殺した人間が殺したと考えられている。

 その他に殺された魔族は、人間の大国に隣接した場所はその国の軍によってと考えられているが、人間の大国から離れた場所の魔族はすべてエレクトロを殺した人間と同一人物であるとも考えられている。

 そのようにして、魔族は殺された。

 しかし、それは準備でしかなかった。

 魔族が人間に侵攻する、準備でしか。

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