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利己主義勇者と良き魔王 【序】  作者: 雪祖櫛好
第一節 少年と魔王
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第一節 -9- 少年感知

「ん?」

 ピーピリープリーがそんな声を上げた。

「どうしたのだ?」

「いやあ、なんか、侵入者が来たというかー」

 それに魔王は眉をしかめ、しかしすぐにその表情を嬉々としたものに変えた。

「それは良い。……エレクトロ、聞こえておるか?」

《はい。なんでしょうか?》

 エレクトロの声が聞こえた。魔王が通信魔法を使った結果だ。

「全力で向かえ。おそらく、ディープリースの仇はもうそこにいる」

《……承知ッ!》

 エレクトロの興奮した声を聞き、魔王はその表情を大きく歪ませた。

「さて。我も向かう準備をしておくか」

 だが、その望みは叶わない。

「ちょっ……! 魔王様ッ! 結界が、侵食されています!」

「なんだと? それは真か?」

「はい。というか、これ、もしかしたら私より……」

 信じられないとでも言うようにピーピリープリーは狼狽する。それを見て、魔王は大きく舌打ちをした。

「人間。どれほどまで、我らに逆らえば気が済むのだ」


      *


 少年は結界の中に入り、とある魔法を行使していた。

 侵食魔法。相手の魔法を侵食し、自らの力とする魔法だった。

 無論、何の条件もなくそんな力を行使できるはずもなく、この魔法にはある条件があった。単純であり、それ故に、最悪とも言える条件が。

 その条件とは、つまりは『相手の魔法を完全に理解し、それを覆すほどの技術があること』であった。

 知識と技術。その両方が相手以上でなければ、この魔法は行使されないのだ。

 そんな困難な条件を、少年は乗り越えた。

 実のところ、少年にとって、侵食魔法の条件とは、好都合なものだった。

 それは、魔力量が魔族より少ない人間、回復することがなく、魔族から奪うことでしか魔力を増やすことができない人間だからこその思いだった。

 もしも魔力量で条件が変わるのであれば、これほど少年にとって不都合なことはなかった。少年の魔力量は他の人間よりは大きいが、こんな結界魔法を扱えるような魔族より大きいかと問われれば、否と答えるより他はない。

 それ故に、少年にとっては、このような魔法こそが真骨頂だったのだ。

 そもそも、人間は魔法を『理解』することによって初めて行使できるのだ。つまり、最初から二つの条件の内一つはクリアしているようなもの。

 もう一つについては、賭けのようなものだった。少年からしても、これほどまで綿密に編まれた結界を見るのは初めてだった。おそらく、単純な技術では少年はこの結界を張った魔族よりも劣っているだろう。

 しかし、単純な技術でなくとも、良いのだ。

 自らの知識を活用し、その魔法がどうやって編まれたかをその魔力を解析することによって知り、それにより、この結界にだけ通用する魔法を創りだす。

 少年がやったことは、簡単に言えばそんなことだった。

 単純な技術ではなく、それだけに集中することによって、その技術を覆すことのみに全力を尽くし、結果、侵食魔法は成功した。

「七百メートル先、要塞建設地点だ。そろそろ遠視魔法だけにしておけ。さすがに、視認されれば、ばれる。隠蔽魔法は結界に対してしか行使していないからな」

《了解》

 少年の耳にそんな声が響いた。通信魔法を使っていた。既にグローリーとリストは少年の近くにはいない。遠くから見ているだけだ。

 少年は通信魔法を切断した。

 そして、脚に魔力を溜め、地を蹴る瞬間、魔法を発動させる。

 魔力が脚から回転するように噴出し、少年の移動を加速させる。

 数秒もかからず、少年は要塞が建設されている場所まで来た。

 魔王の消滅魔法により、クレーターが出来ている場所に。

 人間の痕跡が消えた場所に。


      *


「誰か来た? いや、見えない。妨害魔法か! だけど、ここまでの妨害魔法を人間如きが? 興味深いと同時に嫌悪感バリバリね! 私の結界を侵食しているってことは、もしかして、要塞も……! ああ! エレクトロ! 頼んだわよ!」

 ピーピリープリーが乱暴に頭を掻き、投げやりに叫んだ。

《承知》

 エレクトロはそれだけを通信し、通信魔法は切断された。

 魔王は玉座で目を瞑り、何かを思案していた。


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