封印の門-07◆「運命の集い」
■ジョフ大公国/宮殿/大広間
「おはよう!」
ヒラリーが入り口に視線を振ると、グランを先頭に主だった面々が広間に入ってくるところだった。窓際を離れると、挨拶のために片手を上げる。
「おはよう、レアラン大公女。良い朝だな、グラン」
気さくに挨拶をするグランと、その横に付き従うジョフのレアランに挨拶を送る。二人とも、これまでの重荷が取れたのか、どこか和らいだ表情を浮かべている。
──良い表情だな。
自然に、こちらも笑みが浮かんでくるような、自然な笑みだった。その後ろに目を向けると、深い、吸い込まれるような漆黒の視線が見返してくる。
「紫の騎士さま。おはようございます」
「レムリア姫──おはよう」
マーガレット・レムリア・オフ・ヴェロンディ──“灰の予言者”の娘である真理査、コーランド女王ラーライン、冒険者キース・ウィンザーの妹シザリオン・ウィンザーと共に、現存する“夢見”の一人。光と闇を、自身に秘めた不思議な女性。
──“魔剣士”エリアドのパートナーである、と言うだけでも類稀なることだが。
丁寧に朝の挨拶をする可憐な娘の向こう側に、不意に非常に不愉快に感じる軽薄で薄っぺらいヘラヘラ顔が目に入った。自分でも、表情が険しくなるのが判る。
「おっはよ〜う、マイ・ダーリ・・・」
『めぎっ!!』
皆まで言わせず、“フォウチューン”の小尻を、そのにやけ面にめり込ませる。無論、鞘に入ったままだが──それでも十二分にダメージが伝わる。
何事もなかったかのように、踵を返す動作のまま、更に“フォウチューン”で後方にとどめの一撃を見舞う。これが、性懲りもなく最初の打撃から瞬間復活してきた強者の鳩尾に綺麗に決まる。
「一騎撃沈、ですね」
レムリアの結果判定を待つまでもなく、地面に崩れ落ちて黒い小山となるディンジル。
「莫迦者が。」
冷厳な口調で言うと、何事もなかったかのように、皆が座る大テーブルの席に着く。だが。
「ははは、死ぬかと思ったよ。」
「・・・」
笑顔で、隣に腰掛けていたのは黒の剣聖。当代きっての剣の使い手にして、エルスを守護するWARDENの一人──しかし、先の“アルカナの舞”に加わる過程でどこか人格が破壊されたと密やかに噂されているナイスガイだ。
「タフだな。」
「それだけが取り柄なんだよ、ハニー」
「・・・どうしても、今日を新しい記念日としたいのか?」
「キミといる限り、毎日が記念日だよ、ハニー」
「・・・」
──こやつと話していると、わたしまで良からぬ影響を受けてしまう・・・
深い溜息と共に、こめかみに指先を当てる。この不幸な状況に抗議するかのように、頭がズキズキと脈打っていた。
「お待たせしております。まだジャンニさまがお見えになっておりませんが、折角のお料理が冷めてしまいますので、先に始めていましょう。」
レアランの朗らかな声が、この膠着した状況から引っ張りだしてくれた。感謝の眼差しを大公女に向けると、ヒラリーは気を取り直して給仕が注いだ紅茶のカップを手に取った。
周囲を見回すと、グラン、レアランが上座に座り、レアランから時計回りにレムリア、エリアド、空席、大莫迦者(注:ディンジル)そして自分、そして再び上座のグラン、と座っている。
──ジャンニは、確か朝は早いはずだが・・・何をしているのだろうか? ふむ・・・。
思案顔で、紅茶のカップを傾けるヒラリーだった。
読み難かった部分をの修正を行いました。登場人物が減っていますが、後の話には影響がありませんので、平にご容赦を。