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封印の門  作者: 冬泉
第一章「冒険者集う時」
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封印の門-06◆「叡智の夢見姫」

■ジョフ大公国/宮殿/廊下


「おはようございます、大公女殿下、大公爵殿下。」


 声の方に向くと、華奢な女性が廊下を歩いてくるところだった。漆黒の髪を肩口で切りそろえ、その黒い双眸が深い輝きを宿している。中原の“夢見姫”の名も高い、マーガレット・レムリア・オフ・ヴェロンディ──ヴェロンディ連合王国の姫君にして、“魔剣士”エリアドのパートナーである。


「おはようございます、レムリア姫さま。」


 レアランは、この理知的な女性を逢った時から好きになっていた。その落ち着いた雰囲気、優雅な物腰、柔らかい話し方、優しい心遣い──何をとっても、自分が敵わないものばかりだった。


 それでいて、非常に腰が低い──イースタンでも有数の高貴な身分の出でありながら、誰彼分け隔てることなく接するレムリアの態度に、溜息を付きながらレアランは憧れるのだった。


「これから大広間にいらっしゃるのでしたら、ご一緒しても構いませんでしょうか?」

「えぇ、もちろんです。一緒に参りましょう、レムリア姫さま。」


 一方、レムリアの挨拶を聞いて暫し唖然としていたグランは、はっと我に返ると声の主に挨拶を返した。


「今度は大公爵殿下か、何度聞いても他人事にしか聞こえやしねぇぜ」


 決して声には出さなかったが、グランには苦笑を堪えるにもそろそろ慣れる時期ではあった。


“・・・まぁ、これなら大戦士様の方が100倍よい響きだ。大悪魔も有るんだから大戦士もありか・・・”


 さり気なくレムリアの手を取って、つと先導するレアラン。こうして一行が歩き出してからすぐに、先頭の二人の騎士がピタリと止まった。通路前方の壁に、長身の男性が壁に寄りかかっていた。全身に黒の色を纏い、口元にはシニカルな笑みが浮かんでいる。


「よっ。」


 すっと片手を上げて挨拶したその声は、何とも軽薄そうで軽かった。思わず、護衛の騎士が拍子抜けしてずっこける。


「大公女さん、大公爵さん、そして夢見姫さんか。とりあえずは、“おはようさん”ってとこかな」

「おはようございます、ディンジルさま」

「おはようございます、黒の剣聖さま」


 グランの肩を気軽にポンポンと叩くと、レアランとレムリアの挨拶に軽く手を振る。


「これから朝食だろ? 一緒に行ってもいいかな?」

「どうぞ。ご一緒致しましょう」


 言いながらも、その外見と態度のギャップに、思わず笑みを漏らすレアランであった。


“・・・ランバルト・・・”


 少しの間だが、グランはディンジルから剣の師として交えた男のイメージにだぶる物を感じていた。調子が狂うのも事実だが、旅の他の面子はどうも難しい面が多いので、こう言った自分に正直な相手は、グランにとって歓迎すべき対象だった。


「ヒラリーと一緒ではないのか?」


 肩を叩かれながら、あのハンスーが浮かべる様な笑顔で返した。


「お嬢さんは早起きでね。とっくに朝食の間にいってるだろうさ」


 ディンジルは俗っぽく、肩を竦めて言った。数多の尊敬を人々から集めている守護者の威厳もかくや、と言ったところである。

 だが、そんな態度もやんわりと突っ込みが入るまでだった。


「そのとても礼儀正しい言動は、紫の騎士さまから大いに評価されることでしょうね。」

「え、あ、おっ?」


 うふふふ、と口元に手を当てて笑うレムリア。釣られて、レアランもにっこりしている。いや、げに恐ろしきは強固なる女性連合軍か・・・。


「姫君。何を持ってすれば、その様な悲惨な事態から私を救い出して頂けるのでしょうか?」

「もちろん冗談ですわ、ディンジルさま。エルスでも五指に入る剣の使い手、『黒の剣聖』たるあなたさまが、斯様な事ぐらいで動揺される訳がございませんこと?」

「ぐっ・・・」


“何か、レムリア姫の気に障るようなことをしたのかなぁ”


 何とも理由が分からないディンジルは、大分情けない表情をしていたのだろう──レアランがクスクス笑いならが合いの手を入れた。


「先を急ぎましょう。紫の騎士様をお待たせする訳には行きませんわ」

「えぇ、そうね。うふふ、それはそれで・・・」


 最後は小声となったので、周囲の人には聞こえなかったが、ディンジルにはしっかり聞こえたようだった。最大限に威厳を──そんなものが残っているのならばだが──取り繕うと、不自然に明るい口調で言う。


「ははは、所謂“空腹を覚えた”って状態が続くと、急な状況に対応できないだろうから、早く朝食を食べに参ろうぞ、皆の衆!」


──いや、はちゃめちゃである。


 グランはと言うと、眼前で繰り広がられる内容に、半ば呆れ、半ば恐怖しながら事の推移を黙って見守っていた。


“女って生き物には一生修行しても勝てねぇだろうな・・・ましてや、複数揃ったら勝機は見いだせまいよ”


 茶番が落ち着いたころ、そう結論つけることにした。そして、一方的に攻められていた御仁の肩を黙って叩くと行列の人となった。


 大広間に到着すると、衛兵がドアを大きく開け放つ。


「おはよう!」


 一行は、部屋の中の人影に挨拶をした。




 「魔性の瞳」のヒロイン、レムリア登場です。魔性から六年が過ぎ、彼女の精神も態度も安定してきました。エリアドとの仲は・・・それはまた別の物語にて(笑)。

もう一人、ディンジルはヒラリーと同じく『守護者』(Warden)で、“黒の剣聖”と呼ばれています。ディンジルも長らく闇に捕らわれており、何度も冒険者達やヒラリーと剣を交えています。最終的に、“忘却の街”イスで解放され、また光の陣営に戻って来ましたが、(ヒラリー曰く)その際に性格が大きく変わってしまった様です。いやはや・・・。

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