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封印の門  作者: 冬泉
第一章「冒険者集う時」
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封印の門-03◆「創世の魔剣」

■ジョフ大公国/宮殿/大広間


「・・・エリアドか。」


 声の方に視線を振ると、旧知の顔を見つける。礼を失しているという訳ではないのだが──些か素っ気なくさえ思える朝の挨拶も、ヒラリーにとっては普通の態度だった。


「姫君は、一緒ではないのか?」


 エリアドのパートナーであるレムリアの姿はまだ無い。


「・・・彼女レムリアなら、たぶんもう起きていると思うが・・・、私は・・・」


 エリアドは腰に下げた二振りの剣の鞘を軽く叩いて、


「・・・裏にある訓練場に行っていたのですよ。」


 そのように続けた。


「奇遇だな──こちらの寝坊助もまだ高鼾だろう。」


 ヒラリーは視線を窓の外に戻した。ヒラリーの視線につられるように、エリアドも窓の外の景色に視線を移す。

 ・・・天の蒼穹の下。そこには『水晶のクリスタルミスト』の峻険な岩肌が聳え立っている。遠くに見える青みがかった山並みは、魑魅魍魎が跋扈する非常に危険な山脈だ。

 思ったより近くに感じるその魔の山並みは、冷厳と聳え立っている。


「あの山並みの彼方には、何があるのだろうな・・・」


 何気なく漏れたその言葉に、ヒラリー自身も意外そうに首を傾げた。


「・・・知っている、のですね。」


 やはり・・・と言うべきか。彼女の答えに、エリアドは内心静かな確信を得ていた。

 エリアドのヒラリーを見る瞳には、些かの揺るぎもない。

 ふと、思い立ったが様に、エリアドの翳した手に虚空から一振りの剣が現われた。優美な曲線を描く灰色の簡素な鞘に収められた一振りの太刀。


「・・・貴女あなたなら、知っていると思うが、この“阿修羅”は、そこで造られた──いや、創られた、と言うべきか・・・。」


 エリアドはゆっくりと言葉を紡いだ。


「・・・私が、真の意味で“阿修羅”のパートナーとなるために、“いつか、絶対に”行かなければならないところ・・・だ。」


「“行かねばならない”、か・・・」


 エリアドの声音に決意の響きを感じとると、漸くヒラリーの表情から硬さが和らいだ。


「“聖地”を目指すので有れば──単なる決意や衝動だけでは不足だ。己の中に、確固たる“何か”が無ければ、辿り着くことさえも叶わぬ。」


 ヒラリーの澄んだ双眸は、遠くに霞む“水晶の霧”山脈の彼方に、何を映しているのだろうか。そして、その表情に哀しみの色が浮かんでいるように見えるのは、気のせいなのだろうか。


「・・・決意や衝動だけではない、確固たる“何か”ですか。むろん、それだけの覚悟をしているつもりはあるのですけれどね。」


 エリアドは小さく微笑わらった。


「・・・けれど、貴女あなたの口から、あらためてそう言われてしまうと、自分の覚悟がそれにふさわしいものかどうか。今一度、自分に問いかけてしまいますね。」


 少しだけ間を置いて、エリアドは続けた。


「・・・まぁ、いくら考えたところで、人はその時の自分以上のものであることはできないのですし、その時々にできることを積み重ねていくしかないのでしょうけれど。

 ・・・それに。少し考えたくらいで変わってしまう程度の“想い”ならば、最初から持ちはしないでしょうしね。“時”至れば・・・。おのずと答えは出るでしょう。」


 遥かな西の彼方に想いを馳せる。翳した手の中から、スッと音もなく“阿修羅”が消える。


「・・・まぁ、難しい話は、このくらいにしておきましょう。今の私にあるのは、“いつか必ず、かの地に行かなくてはならない”という想いだけで、そのための方策も、ともに目指そうと言ってくれる仲間も、そして、そこに行く具体的なすべも、何一つありはしないのですから。

 ・・・けれど、少なくとも、貴女あなたは──いや、貴女方あなたがたは・・・なのかもしれないが──かの地に行ったことが──いや、行こうとしたことが──ある・・・。それがわかっただけで、よしとしておきましょう。」


 なかば呟くように続けて、エリアドはもう一度、小さく微笑わらった。


「・・・おや。みなさん、着いたようですね。」


 ギィという音とともに、広間の大扉がゆっくりと開く。


 そして・・・。


「・・・おはようございます。」


 エリアドは軽く会釈して、ヒラリーと共に入ってくる面々を出迎えた。




 ジョフ大公国は、コーランドへ通じる東側を除いて、周囲を山脈に囲まれています。得体の知れない魑魅魍魎が跋扈する危険地帯で、腕の立つ熟練の冒険者でさえも尻込みする地域です。

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