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封印の門  作者: 冬泉
第四章「闇の浸透」
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封印の門-27◆「深まる懸念」

■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋→大広間


 足早に部屋を出ていったグランをジャン・バルトが慌てて追って行った。それを見たトリアノンも、カイファートに優雅に一礼して言う。


「私もお二人とご一緒することに致しましょう」

「そうして貰えると助かります、レスコー卿」

「心得ていますよ。それでは皆さま、これにて失礼申し上げます」


 朗らかに言うと、トリアノン・レスコーもグランとジャン・バルトを追って部屋を出て行った。


「さて。我も民兵の編成を急がねばならぬ。まこと恐縮ではあるが、諸卿も今後の策を講じて頂ければ幸いに思う。では、失敬する」


 カイファートは大広間への案内を侍従に指示すると、部屋を出ていった。宰相の部屋に残っていた全員は、侍従に案内されて大広間に移動した。


「・・・さて。どうしたものか」


 大広間に移動しながら、エリアド・ムーンシャドウは状況を思案していた。

 状況はめまぐるしく推移している。


“・・・ただでさえ、ややこしい状況だったというのに、輪をかけて、ややこしいことになってきているようだな”


 エリアドはは肩をすくめて小さくため息をついた。


「・・・サリアン・リパニアンね。どこかで聞いたことがあるような気がしないでもないが、残念ながらはっきり記憶にはないな・・・」


 呟くような独り言はエリアドの癖か。無意識に考えを口に出す。


「・・・グランには悪いと思うが、ここは多少こちらの手を貸してでも、この戦いが不必要に長く続くような事態は避けた方がよさそうだ。・・・ヒラリーやディンジルが、“黒のアルカナ”たちに遅れを取るようなことがあるなどとは考えたくもないが、滅多に人里に現われぬという3人の“龍騎聖”ばかりか、“シレイナス”という謎の戦士までがこの地を訪れたともなれば、彼の言葉通り、容易ならざる事態が起きつつある可能性は否定できまい」


 エリアドは、傍らを歩くレムリアの方を見ると、真剣な眼差しで聞く。


「君はどう思う?」


 回廊に等距離で置かれた窓からは、大手門前に集った軍勢が見下ろせた。レムリアちらりとエリアドに視線を振ると、静かに言った。


「・・・最悪の予想があります。その様な事態の事を考えたくもありませんが、対処の方策は考えておかねばなりません。現在、最も危険な立場に有るのは大公女さまです。あの方に何か有った場合、公都前面の防衛戦が崩壊するばかりではなく、ジョフ大公国自体の存亡に係わります」


 難問を思考するかの様に、レムリアの眉根を寄せて考え込む。


「更なる問題は、わたしの“夢見の力”が使いにくくなっている事です。その影響はこれまで徐々に進行してきましたが、先程からは予想するのが一層困難になりました。特に、公都の事を想うと、霧が掛かったようになってしまいます」


 レムリアは、深く溜息を付く。


「これは、大公女さまに密接に拘わることだと思いますの。そして──“夢見の力”を妨げることが出来るのは“夢見”だけ。恐らく、相手方には“夢見の力を持つ者”がいるでしょう」

「・・・ふむ。」


 エリアドは暫し思案した。


「・・・もし君が言うように、相手方に“夢見”がいるとすれば、その最大の目標は、必ずしもレアラン姫とは限らないと考えておいた方がいいだろうな。・・・はからずも、君自身が“答え”を言っているのだから。『“夢見の力”を妨げることが出来るのは“夢見”だけ』と。それは、“夢見”にとっての最大の敵は、“夢見”に他ならぬということだ」


 そう言うと、エリアドはレムリアの白い顔をちらりと見る。


「・・・むろん、この戦いの最中、レアラン姫が倒れるようなことにでもなれば、ジョフは容易ならざぬ事態に陥るだろう。

 だが・・・、相手方に“夢見”がいるのであれば、君が倒れても同じことになる。“夢見の力”に対抗することができる者がいなくなるのだからね」


“物は考えようだが、こうなるとレムリアがレアラン姫の側に着いていてくれるのは却ってありがたいかもしれぬな。相手が狙ってくるとわかっているのなら、そこに戦力を集中することができるというものだ”


「・・・レムリア。難しいことは承知の上で言うが、忘れてくれるなよ。この戦い、むろんレアラン姫に倒れてもらうわけにはゆかぬ。・・・だが、君に倒れてもらうわけにもゆかぬということだ。・・・もし危地に陥るようなことになった時には、二人が共に助かる方法を考えてくれ」


 少しだけ間を置いて、呟くように続ける。


「・・・ある意味、この戦いの趨勢を決めるのは、公都前面の、その戦いということになりかねぬ。“時”が移る前に、できる限りの用意をしておかねばなるまいな。

 まずは、さきほどの“放浪の戦士”殿に。そして、“龍騎聖”の御三方にも協力をお願いするとしよう。グランとレアラン姫には、この戦さの“表”で指揮を取ってもらわねばならぬ。となれば、“裏”の戦さは、我らの役どころとなろうよ。つきあってもらえるかな?」

「わたしからも、お願い申し上げます。もしも相手に“夢見”がいるとしたら・・・わたしたちの行動は予測されていると・・・」


 レムリアは、そこまで話すと蒼白になった。どんな時でも落ち着き払った態度の彼女にしては異常なことだ。


「そんな・・・もしも、わたしたちの行動が予測されていたら・・・グランさまとレスコーさまの部隊が危ない! 急ぎ伝令を・・・」

「待たれよ。」


 廊下に通じる扉から、不思議な色に輝くスケールメールを身に纏った三人の人物が入ってきた。先頭の背の高い異丈夫は剣を、二人目は槍を、最後尾の女性は弓を持っていた。


「フラネースに名だたる冒険者たちよ。お初にお目に掛かる。我はイアン・サッコゥ、剣を司る。こちらは槍を司るハロルド・ネースビィ、そして弓を司るエスター・シトールと言う。我ら三騎、世では『龍騎聖』(ドラグーン)と呼ばれている」


 お見知り置き願いたい──そう言うと、三人とも軽く会釈した。


「我らが参ったのは、まさに今そちらの夢見姫殿が懸念したことを防ぐためにある。喜んで、力を貸すといたそう」

「相手が何方であるか、龍騎聖の方々は見当が付いておいでなのでしょうか?」

「多少はな、夢見姫殿。恐らくは、ドレッド・マスターを名乗る三騎、即ち『黒の魔王』、『黒の恐騎』、『黒の聖女』の三君がこの件に参画しているのは間違いない。我らは、“天の聖域”たる巫女のお告げによりそう聞いた」

「しかるに、ボクまでここに来れちゃっている事実から考えると、相手方のバックに付いているのは、それだけじゃないな」


 何時の間にやら、先程唐突に宰相執務室に現れた風来坊が戸口に立っていた。


「貴公は?」


 流石に龍騎聖と名乗るだけに、剣のサッコウは闖入者に冷静に応じた。


「ボク? あぁ、ボクはムーチョ・ゲメラ・・・じゃなかった、放浪の戦士ことサリアン・リパニアンさ。以降お見知りおきを頼むゼ」




 サイドビューの分岐話です。主体はエリアド、レムリア、レアラン、カイファート、ジャンニになります。

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