封印の門-30◆「全軍出撃」
■ジョフ大公国/宮殿/大手門
グランは、自分の思っていることを素直にぶつけようと思った。
“今は自分にしか出来ないことをしよう、それで良いですね姫”
守るべき対象が傍に居ない不安や不満も、今は微塵も見せなかった。響めきが収まるのを待ってからいよいよ話を始める。
「ジョフ臣民並びにコーランドの友に告ぐ。私はジョフ公国軍総帥アルフレッド・グランツェフである」
やや冷たい口調で始まったが、他を圧する声が朗々と広がる。
「諸君らが知ってのとおり、この国は復興途中であり、戦に対して十分な準備はされていない。今回、北方から進入したオークどもの戦力は報告では約1万、対する我らは友邦コーランドの軍勢を含めても5千である」
言葉を区切ると全軍を大きく見やる。
「しかし、そう悲観するな。勝つための手段は既に考えてある。それに、レアラン大公女並びに私自身も陣頭に立ち戦闘に参加する。此処にて誓う、今後我らは共に戦い、諸君達だけに無益な戦闘はさせないと!」
大きな声が全軍の中に木霊す。
「我が国臣民並びにコーランドの友よ、決死と必死は違う。諸君も私に誓って欲しい、決して無駄に死なないと!生きてこの戦いの後、我が友として再び此処に集うと!」
グランの口調は段々と熱を帯びていく。
「今生の行いは永遠に記憶されるであろう」
徐に背中の大剣を引き抜くと、天に掲げて誓った。
「天の神々よ我等の戦いを御照覧あれ。全軍出撃!!」
『おぉぉぉっ!!!』
再び、どよめきが公都前に沸き起こった。
今度は、コーランド軍の将兵も一緒になって叫んでいる。
「流石は大戦士殿。我が軍のみならず、友軍の事も考えて下さる」
「それについては、何らの疑念も有りませんでしたよ」
心配性の気がある無骨な騎士に、コーランドの近衛騎士がふんわりと笑って言った。
「それでは、私は我が軍の重騎兵を率いてHORNWOODに向かいます。大戦士さま、ジャン・バルトさまもご武運を」
「貴軍の武運長久を心より祈る」
「レスコー殿、お気を付けて。ご武運を!」
馬を早駆けにさせると、トリアノン・レスコーは自軍の所に向かった。
「颯爽とした中にも優雅さを失わない──そんな、素晴らしい騎士ですな、レスコー殿は」
その後ろ姿を観ながら、噛み締めるようにジャン・バルトが言う。
他国の所属とはいえトリアノン・レスコー、そしてLAG筆頭騎士ャン・バルトの二人に、グランは非常に期待していた。この戦いの後に酒を酌み交わすことが楽しみでならなかった。そんなトリアノン・レスコーに対するジャン・バルトの台詞に、グランは笑いながらジャン・バルトの肩を叩いて言った。
「まだまだ我が軍では、優雅さに於いてコーランド軍には及びも付くまいよ、当然ながら俺も含めてだが」
それほど長い演説ではなかったが、グランはかなりの疲労感を覚えた。鞍の上で半ば立ち上がっていた腰を鞍に再び収めると、控える忠実なLAG騎士ジャン・バルトに気づかれないように大きく溜息をついた。
“まだ今日は半分しか終わってないのによ”
体力勝負ならまだしも、会議から此処まで精神の糸は極度に張り続けていた。
★ジョフ/コーランド軍編成(ジョフ戦役開始時)