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封印の門  作者: 冬泉
第二章「開戦前夜」
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封印の門-24◆「擦れ違う想い」

■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋


 一通りの役目を終え、室内が喧騒に包まれ始めたころグランはどっか椅子に腰を落とした。


「やれやれ第一段階は無事終了と言ったとこか・・・」


 天井を眺めながら独り言を呟くと、隣でレムリア姫と話をするレアラン姫を眺める。


“エリアドはレムリアと行くんだろうな・・・

 まぁいい、他の連中にも自分の思うところで戦ってくれればいい・・・

 此処まで巻き込んでしまった俺が言うのも何だがな”


 グランは、苦戦が予想される戦闘を前に僅かながら気を抜ける一瞬を楽しんでいた。

 そして、一つ深呼吸すると、会話を終えたレアラン姫に話し掛けた。


「私は既に1年分の勤勉と言うものを使ってしまったよ。・・・この戦いが終わったら・・・」

「・・・終わったら?」


 大きな瞳を見開くと、グランの言葉を繰り返すようにレアランは聞き返した。それを見たレムリアは小さく笑みを浮かべるとその場を離れ、エリアドの元へと歩いていった。


“邪魔をしては、馬にでも蹴られそうね”


 でも、そんな温かい心があるからこそ、そんな想いを守ろうと思うからこそ戦える──そう強く思うレムリアだった。


 グランは、レムリア姫の態度を見て改めて自分が何を言ったのかに気がついた。気が抜けていたからなのか、半ば独り言のつもりだったのか、今まで何度と無く胸の内でのみ繰り返していた想い。それに自分勝手な屁理屈を重ねて今に至っていた。


“一年分の勤勉を使ったんだ、今度は一生分の勇気を示せ、この大馬鹿者が!”


 自分になけなしの気合いを入れると。


「そう、この戦いが終わったら・・・」


 命のやり取りに於いて、百戦錬磨のグランをして心臓が口からせり出しそうな緊張感が全身を包む。喧騒に包まれ、大勢が居合わせている筈の室内であったが、全てが止まって見える。 目の前にはただ一人レアラン姫がいる。


「戦いが終わったら、正式に結婚して欲しい。」

「!!」


 それは、レアランにとって喜ばしい事の筈だった。レアラン自身、グラン以外と添い遂げる事は考えてもいなかった。聞きたかった言葉を、聞かせて欲しかった相手から漸く聞けた──どんなに嬉しいことだろうか。どんなに喜ばしいことだろうか。


 だが・・・


 ここで自分の心のままにグランに同意してしまうのは簡単だ。だが、これからの戦いの中で、自分の身にも何が起きるか判らない。もしも何かが有った場合、只でさえ異国異郷のジョフと運命を共にしてくれている相手の心を、自分に未来永劫に縛り付けてしまう事にもなりかねない。


“そのようなことは・・・できません・・・”


 応えて上げたい言葉を、レアランは胸の奥に封じ込めた。どんなに望んでいても、今はまだその言葉を言う訳にはいかないのだ。そのことを、果たして判って貰えるだろうか――その結果を思うと、躰がおこりに罹った様に震えてくる。


 ともすれば挫けそうになる気持ちを奮い起こすと、レアランは顔を上げた。何処か所在なげなグランの表情を見上げると、意を決してその致命的な言葉を紡ぐ。


「大戦士さま。今は、斯様な事を語るべき時ではありません。」


 胸騒ぎを覚えて、レムリアは思わず振り返った。


“えっ・・・”


 打って変わって、蒼白な表情でグランに相対しているレアランを見て、思わず制止の声を上げそうになった。


「っ・・・」


 とっさに口元を手で押さえると同時に、致命的な言葉が発せられるのを聞く。


“あぁ・・・どうして・・・。どうしてなの・・・”


 理性ではその決断の正しさを認めながらも、感性はその理解を拒否していた。その時、はた、と思い当たる。


“もしかすると・・・。でも、そんな・・・”


 夢見になる過程で身につけた自制の力を最大限に発揮して、想いが表情に表れるのを押しとどめる。


“駄目。自分が倒れるかも知れないなってことを、決して考えては駄目っ。その想いは、貴女に負の結果を招き入れることにもなりかねない・・・”


 レアランの胸の痛みがレムリアの心を根底から揺さぶるのだった。


「・・・・・・」


 グランは思わず一つ大きな溜息をついた。こんな事態なのに、意外にもグランは徐々に自分が冷静になっていくことを感じていた。


“やれやれ、次の台詞が出てきやしねぇな”


 レアラン姫の言葉を「額面通り」受け取ったグランは、やや肩を落としながら沈黙を続ける。


“まぁ、言うべきことは言った事だし、駄目なら頭を掻いて御免なさいって事か・・・まさかな!”


 自分で気合いを入れようと無駄な努力をするが、一向に意気が上がらない。


「・・・」


“駄目だ、俺様としたことが言葉が出ないぜ。だが、このままじゃ不味い。後の戦闘に支障を来たす事になる。どうするか・・・”


「あ・・・」


 大きく溜息を付くと、グランの表情がやるせないものに変わっていく。

 後悔と自責の念が、レアランの躰の奥底まで染み通る。

 必死に、必死に踏み止まろうとする──だが、心の奥から何かが溢れ出してくる。そして、その想いは滴となって瞳を潤した。


「大公女さま、ご気分でもお悪いのでしょうか?」


 心配そうに LAG筆頭騎士が尋ねる。その、ジャン・バルトの言葉が引き金になったのだろうか。押し留めていたものが、堰を切ったように溢れ出すと早瀬となって頬を下った。


「くっ」


 失望と混乱の極地にあったレアランは、溜まらず宰相の部屋から逃げるように走り去った。



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