封印の門-21◆「騎甲戦力で叩け」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
いつしか執務室は軍司令部の様相を呈してきていた。
グランは、自分の意見がやや抽象的過ぎたことに気がつき少々の補足説明を行った。
「作戦そのものに依存は無い。俺が思うのは先手は敵に与え、我らは『後の先』の戦術を取りたい。つまりは防御陣には高度な柔軟性を持たせ、敵を引きずり回すことにより攻勢に対処する。
当然、勢いに乗る敵前面の指揮官の苦労は察しがつくが、敵の一時的なものにせよ攻勢限界点か隊列の乱れに乗じ、側面もしくは背後から伏兵たる機動戦力を局地的に投入する。
危険な手法ではあるがより効果的に打撃を与えられるのではないか?」
周囲に考えが浸透するように一拍置くと先を続けた。
「それと、付け加えるなら我が伏兵は両翼の森に配するのではなく、片方は陽動としてダミーとし、戦力の集中的運用を図ってはどうか?」
グランの説明に、ジャン・バルトが復唱する。
「公都正面に相手を出来得る限り引きつけた後、両翼が後方を遮断して包囲殲滅戦に入るという大戦士殿のお考えには、当職も原則賛成です。しかしながら、片翼だけで包囲戦を行うことに関しては、些か懸念を覚えます。レスコー殿の重騎兵連隊は兎も角、他翼を担当する我が軍の2/3は練度不足の軽騎兵第四連隊です。包囲攻撃の“やっとこ”を形成するのが精一杯かと考えます」
場の雰囲気を乱さず穏やかに発言する辺りは、流石に経験を積んだLAGの筆頭騎士と言ったところだろうか。
「騎兵は走り続けている限り、相手に補足されることありません。故に寡兵であっても、包囲網を支えられると考えられます。しかし、そうは言っても絶対戦力自体は不足しております。故に両翼には単一の作戦目標を与えることにしては如何でしょうか」
「結構だ」
筆頭騎士の発言が終わるのを待ってグランが発言した。流石と思わせる雰囲気と内容にグラン本人も満足していたが、考えを絞り込む為に一つの質問を加えてみた。
「今回の戦闘はやはり包囲殲滅戦に持ち込むべきか? 多勢相手にしての無勢、大きな一撃を与え壊走させる事を目的とするのではやはり甘いかな?」
些かグランらしからぬ発言とも思えたが、ジャン・バルトは生真面目に返答した。
「寡兵である我が方が、相手方を完全に包囲殲滅することは非常に難しいでしょう。騎甲戦力にて出来得る限り相手方を混乱させ続け、その間に守備位置から前進攻撃に転じた基幹戦力の歩兵部隊が敵軍を追撃する計画であれば、相当の打撃を相手に与えられると思います。即ち敵を壊走に追い込み、その過程で可能な限り敵戦力を削減し、元来た場所に追い戻すことが肝要かと考えた次第です」
ジャン・バルトの言葉を引き継ぐように、コーランド北遣軍司令官のトリアノン・レスコーが穏やかに発言する。
「現在の戦力と状況ですと、とるべき方策は限られているように思えます。私たちの強みは、相手方を上回る機動力があることでしょう。騎甲戦力の有効投入が、全ての鍵を握っているでしょうね」
差し出がましい言い様ですが──と柔らかい笑みを浮かべてトリアノン・レスコーはそう結ぶ。
「ふむ──公都の城壁に寄って戦うのは下策だと言うことか。“積極的な攻撃こそが、己の弱点を補填する”と恵久美流公国の龍王が昔言ったと言われているが、苦境にあってこその逆転思考ということだな」
額に縦皺を寄せて、カイファートが溜息を付いた。
「何れにせよ、騎甲戦力が包囲作戦に入るまでの暫しの間、正面を支える歩兵部隊にとって厳しい戦いになるだろうな」
グランは唸った。一時的に、三倍もの相手を支えるのである。功囲に持ち込まれたら、逆に包囲殲滅されかねない危険性がある。
「大戦士殿。意見も出尽くしたことですし、作戦と各部隊の指揮官を決めては如何か?」
カイファートが議論を纏めるよう一座を見回して言った。