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封印の門  作者: 冬泉
第二章「開戦前夜」
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封印の門-20◆「緊迫する状況」

■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋


「・・・続けましょう」


 一陣の風の様にヒラリーとディンジルは立ち去った。気を取り直す様に一座を見回したレアランの表情には、強い決意が浮かんでいた。


「空中からの偵察の利点は言うまでもありません。国と民の危機にあって、わたくしは少しでも自分が出来る事をやりたいのです」


 レアランの反応は、当然グランにも予想されていたものだった。

 心の内の動揺を押し隠し、努めて冷静にグランは言った。


「判っています。しかし、予想される危険には十分に注意してほしい。貴女の情報は確かに重要だが、それ以上に貴女の存在はこの国にとって重要ですからね」

「はい。十分に気をつける様に致します」


 グランは頷くと、視線を宰相に戻した。


「斥候と飛翔軍の情報をまとめられる情報部を急ぎ卿の配下で組織してくれ」

「その通りに手配致しましょう」


 カイファートはグランに重々しく同意する。


「偵察によって得られる情報により、オークどもの中心に何が居るのかを明確にする。ヒラリーとディンジルの情報と併せて、“それ”を速やかに無力化する。良く言って臨機応変、悪く言えば行き当たりばったりになるが。まぁ、いつもの冒険と同じレベルだな、これではな」


 にやりと笑うと、グランはぐるりと取り巻く顔を見回した。


「他に意見が無ければ軍の調整に入りたいが?」

「相手方のこの行動が陽動と考えますと、事態は大分複雑になりますな。相手に“真の目的”があるとすれば、それが何であるか至急把握する必要があります。普通に考えますと、ジョフを崩壊させる為に大公女殿下か大戦士殿を標的にするだろうと言うところですが、現状を考えると、斯様な単純な事柄ではないと思われます」


 カイファートが事態を整理して行く。


「この件の解明は、ヒラリー殿とディンジル殿にお任せするほか無いでしょう。我々に求められているのは、お二人が“真の相手”を見いだす間、戦線を支える事と考えます」

「僭越ながら、当職から軍の状況を報告致します。辺境に展開中の軽騎兵第一〜第三連隊の戦力が1,100。公都に集結している全戦力──これは軽騎兵第四連隊、親衛騎士団、装甲騎兵連隊、装甲歩兵連隊の事ですが──は837名に過ぎません」


 LAG親衛騎士ジャン・バルトに続いて、コーランド北遣軍司令官トリアノン・レスコーが発言する。


「私たちコーランド北遣軍は総数で3,500名です。何時でも、臨戦態勢は整っております」

「辺境に展開している遊撃軍の第一、第三軽騎兵連隊は動かせませんから、前線にいる第二軽騎兵連隊を含めても、戦力比は1:2ですな」


 話を引き継ぐように、カイファートが続けた。二倍の戦力比──装甲騎兵と装甲歩兵の実戦力を倍と考えても、絶対数で半分以下である。


「公都から戦える者を全員集めたとしても、1,000程度に過ぎないでしょう。この者達には意欲はともあれ、練度は全く期待できません」

「装甲歩兵の一部を彼らの中に混ぜて、補強するという手立てもあります」

「補強か──ふむ、それは悪くない考えかもしらんな、ジャン・バルト卿」

「恐縮です、宰相閣下」


 非我の戦力比は1:2で劣勢。その事実は全員の心に重石を乗せるような感じを与える。


「大公女殿下、大戦士殿。現状では、前線の遊撃軍を除き、手元の戦力はレスコー殿のコーランド遠征軍を含めて約5,000といったところです。打って出て野戦を挑むのか、公都に籠城して援軍を待つか。どの様に戦うか、方針を決めねばなりません。但し、公都は先の戦いでの修復作業が完全ではなく、東部と南部の城壁にまだ切れ目が残っています」


 カイファートの言葉を聞くグランの目に、何時に無い真剣な物が宿る。


「本来は篭城戦に持ち込むのが上策だ。しかし其処に勝機があるのか? 何れは援軍が現れ包囲する敵を挟み撃ちにすることも出来るであろうが、俺としては市民を巻き込んでの戦いは考えたくは無い」


 場の全員に対し言葉を続ける。


「これは個人的な発案だが・・・少数をもって多数を倒す戦術は基本的に邪道だ。それをして事の可能性を問いたい。肝心なのは、機動防御戦術と奇襲だ。正確には防御とはいえないが防御部隊には敢えて負けてもらいたい」


 含みありげな台詞を用いて、グランは周囲を見渡した。当然、騎士たるものに「負けよ」と言う理不尽を敢えて引用している自分の非も理解済みではあったが。


「オーク・レイダーはHORNWOOD北西部の山地から現れ、HORNWOODとOYDWOOD間の“中央回廊”を南下してきております。この両方の森に騎甲戦力を配置して、後ろからオーク・レイダーを奇襲する手が考えられます」

「騎甲戦力とは、どの部隊を使うのだ、バルト卿?」

「恐れながら宰相閣下。装甲騎兵と軽騎兵第四連隊が一翼を、レスコー殿の重騎兵連隊をもう一翼に、と考えました」

「公都への道はどうするのだ?」

「残った装甲歩兵連隊にコーランド北遣軍にて正面を支えます。市民が編成する義勇軍には、公都の城壁を護って貰います」

「その考えに、コーランド軍は賛同します」


 ジャン・バルトの計画に、トリアノン・レスコーが同意する。


「3,350名で少なくとも正面を支えて、更には後方から騎甲部隊の奇襲が始まったら、支えるだけではなく、相手を押し返さなくてはね」

「その通りです。それにより、オーク・レイダーは北へ壊走しましょう」


<ジョフ公国軍>

司令官:アルフレッド・グランツェフ

遊撃軍

 軽騎兵第一連隊 370騎(北部)<M16> 指揮:ルー・リェス

 軽騎兵第二連隊 400騎(西部)<M16> 指揮:ギー・ガルダン

 軽騎兵第三連隊 330騎(南部)<M16> 指揮:メラジム・ガントゥーム

 軽騎兵第四連隊 350騎(公都、訓練中)<M14> 指揮:マイラム・トランター

中央軍

 装甲騎兵連隊  120騎(公都)<M18> 指揮:フレム・リュティエンス

 装甲歩兵連隊  350名(公都)<M17> 指揮:カーム・ゴーター

飛翔軍

 飛翔連隊     3騎(公都)<M19> 指揮:レアラン大公女

親衛騎士団

 LAG      17騎(公都)<M19> 指揮:ジャン・バルト


<コーランド北遣軍>

司令官:トリアノン・レスコー(キャルド・シュヴァリエ)

重騎兵第二連隊  500騎 <M18> 指揮:ルージ・デ・ラ・ポルタ

重歩兵第三連隊 1000名 <M18> 指揮:アマン・トゥーロン

軽歩兵第六連隊 1000名 <M17> 指揮:フィリップ・コルベール

軽歩兵第八連隊 1000名 <M17> 指揮:カレン・ケイスナルド



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