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封印の門  作者: 冬泉
第二章「開戦前夜」
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封印の門-18◆「心強き援軍」

■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋


 エリアドの意見の後、グランは渋面を浮かべて言った。


「今回の進入がただのオークどもの馬鹿騒ぎなら良いのだがな」


 やや苦笑いした後に続ける。


「それ以外の“闇の勢力”が介入しているなら、当然俺だけでは手に負えないだろう、それに備えて自由に動いてもらいたい」


 グランにしては、何時に無く饒舌に話していた。


「龍騎聖達とゆっくり話もしたかったが、それは卿らに任せるとして、俺は早急に中央軍及び第4連隊の指揮官と打ち合わせをしよう」


 グランの頭の中では、相手を迎撃するのに適した地形を選び、相手の機動力を削ぐ防御陣を形成する一軍と、そこから打撃として打って出る機動戦力の二隊の考えが浮かんでいた。当然ながら、自分自身が機動部隊の指揮を執るつもりであったが、要となる防御陣の指揮官と調整をする必要があった。


“こんな時にこそ副官だったアランが居てくれたなら!”


 まだまだ人材は不足していることを痛感してやまなかった。


「飛翔部隊は準備が出来次第敵戦力の偵察を行ってもらいたいが・・・」


 急に言葉の力が落ちると、グランはちらりとレアランを見る。正直言って、飛翔軍に関しては些か苦悩している点があった。空中偵察の大きな利点は判るものの、得体の知れない相手に対し単騎レベルの敵中進出での強行偵察は危険すぎると思うからであった。


「いや、まだ早いな、危険すぎる。今は斥候の報告でかまわないから飛翔軍のスタンバイだけは掛けて欲しい」


 だが、そこまで話を聞いて、義務に対して人一倍意識が強いこの方が黙っている訳が無かった。


「空中からの偵察は、最も効果が高いと考えます」


 グランの目を正面から見つめながら、レアランは毅然として言った。


「故に、大戦士さま。お言葉を返すようですが、飛翔軍の三騎の準備が整い次第、最も効果的に投入されることを希望します。カイファートさま、ケイセルとパリスに準備せよ、と伝えさせて下さい」

「御意。その様に致しましょう」

「おいおい・・・」


 グランが止めようとする間も無く、カイファートの指示を受けて伝令が飛翔軍の二人の騎士の元に走っていった。時を同じくして、拍車を鳴らす足音が廊下に響いた。寸刻の後、ノックが続く。


「入りたまえ」

「失礼を申し上げます。ジャン・バルトであります」

「おぉ、バルト卿。良いところに来た」


 入ってきた初老の騎士を見たグランが珍しく相好を崩した。

 レオン・“ロック”・ジャン・バルト。LAGの筆頭騎士にして、古参の騎士の一人である。


「警告の角笛を聞き、僭越ながら馳せ参じ申しました。コーランド北遣軍司令官のレスコー卿殿も、当職に同道されておりますが、入室して頂いても宜しいでしょうか?」

「構いません。入れて差し上げて下さい」

「はっ、大公女様!」


 拍車を鳴らして一礼すると、ジャン・バルトは扉の外に声を掛けた。


「失礼致します」


 外で待っていた人物は、入室するとレアラン優雅に頭を下げた。端正な表情をした、長い黒髪に黒い瞳、細身で長身の女性で、胸甲騎兵の鎧の上にコーランド近衛を顕す白と紫の外衣を身に纏っていた。


「コーランドのトリアノン・レスコーでございます。お国の危機、と聞いて参りました。コーランド北遣軍は即応体制が整っております。何時でも、ご指示を拝命致しま・・・」


 トリアノンの言葉が終わらぬ内に、レアランは非我の数歩を詰めると、白い手袋に包まれたトリアノンの手を握った。


「レスコーさま、本当に・・・心からご助力に感謝申し上げます」

「お役に立てれば、欣快に思います」


 トリアノンの方が身長が高いので、少し見下ろす形になる。理知的な輝きが宿る黒い瞳が、海の青さの優しい瞳を覗き込む。


「既にお聞きになったかも知れませんが、西の国境をオーク・レイダーに侵入されました。数は一万との報告が入っております」

「はい。状況は聞き及んでおります」

「状況は予断を許しません。大戦士さまを初めとして、心ある勇者の方々が我が国に助力を頂けますが、それでも数に不安があります」

「ご判断、妥当だと当職も考えます。例えオークと言えども、一万の戦力は決して侮れません」

「既にご援助頂いている状況で心苦しいのだが――貴国の女王陛下に更なる助力を御願いせねばならないと思うが――レスコー胸殿、如何かな?」


 二人の所に歩いてきたカイファートは厳しい表情を浮かべた。

 トリアノンは頷いた。


「私も、宰相閣下のご判断を支持申し上げます。僭越ながら、既に早馬で現状況を我が王都の女王陛下にご報告致しました。すぐに、更なる援軍のお願いを送りましょう」

「忝ない、レスコー卿殿」

「有り難う、レスコー卿さま」

「トリアノン、でお願い致します」


 微笑んでトリアノンは二人に返した。


「方々も、是非私の事はトリアノン、とお呼び下さい。肩を並べて共に戦う戦友です。少し気さくに呼んで頂いても、問題ないと思います」

「わかりました、トリアノンさま」


 レアランに和して、部屋にいた皆もトリアノンと呼びかけた。不思議と、それだけでも連帯感が深まる思いがするのだった・・・。



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