封印の門-16◆「悪鬼の侵攻」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
「遅れて、すまない」
真摯に詫びる言葉を口にすると、ヒラリーは空いている椅子に腰を下ろした。にこにこ笑いながら、ディンジルも彼女の行動に倣う。
「お待たせしました」
最後に入ってきたレムリアは、丁寧に頭を下げると椅子に座った。不思議と、部屋の雰囲気が柔らかに変わっていくのだが、これも“人の和”を大切にするレムリアならでのは力なのか。
「ケインはまだみたいだけど、後で詳細はこちらから話しておくので、話を始めてもいいんじゃないかって思うけど?」
「確かに。貴重な宰相殿も時間を、我らは唯でさえ浪費しつつある。話を進めるのは賛成だ」
「他の皆様は如何でしょうか?」
話を纏めるように、レムリアが聞く。
「方々。思うに・・・」
レムリアの言葉を受けて話し始めたカイファートの言葉は、喨々と吹き鳴らされる角笛の音によって遮られた。
「む。これは警告の角笛。何か大事が起きたのか。」
冷静にも壁に立て掛けてあった己の剣を手に取るのと、伝令が扉を叩くのが同時だった。
「入れ。」
「報告です! 強力なオークの襲撃団が水晶の霧山脈より現れ、平野部に侵攻中との報告が西の砦よりありました! その数、一万は下らないとのことです!」
「ふむ・・・一万とはな」
低く唸るも、流石は偉大な宰相。躊躇したのは一瞬だった。
「大公女殿下。即刻必要な手立てを取らねばなりません」
「はい、判っております」
毅然として顔を上げ、レアランはグランとカイファートに言った。
「遊撃軍の第四連隊に連絡。訓練を切り上げて公都郊外に集結のこと。中央軍と飛翔軍の出撃準備。指揮は──大戦士殿。あなたに御願いします。それから、コーランド軍司令官のレスコー卿に、至急わたくしが話たいと伝えて下さい」
レアランの瞳には、強い輝きが宿っていた。
「カイファートさま。龍騎聖の方々にはわたくしから事態の説明に参ります。出来ましたら、戦力が出払う公都の防衛に力を貸して欲しいと、御願い致します」
「宜しいでしょう。わたくしは、戦える者全てを武器庫に送り、公都防衛の為の予備戦力を集めましょう。それから、魔導士に命じて騎士団領と王国に急をつげましょう。コーランドのラーライン女王陛下は、必ず更なる援軍を出して下さろうかと思います」
「御願いして下さい。手遅れになってからでは、どの様な助けも無駄となります」
「判り申した」
「心苦しい限りですが──皆さまも、ご助力頂けると助かります。伏して御願い申し上げます」
深々とレアランはこうべを垂れた。