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封印の門  作者: 冬泉
第一章「冒険者集う時」
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封印の門-14◆「緊迫する情勢」

■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋


 グランは真剣な眼差しで宰相の話に聞き入った。状況が厳しいのは至極当然で、グランも予想していた通りであった。宰相が話を一時の中断したところで幾つかの言葉を挟むことにした。


「卿以外にこれほどの事は出来まい。 苦労はかけるが引き続き頼む」


 一呼吸おいた後、グランは厳しい表情で続けた。


「先ず、遊撃軍に対しては予備兵力が欲しい。贅沢なのは百も承知だがだが此処はやはり数が勝負だろう」


“・・・我ながら無理を言う・・・”


「次に中央軍、装備や物資に関しては微々たる物だが俺の私財も自由に使ってかまわない、運搬に関しては金さえ出せば我が親父殿が如何様にでもしてくれるはずだ」


 グランにしては珍しく言葉を多用する。


「いま、中央軍に対し、特にLAGに対しては敢えて頭数を気にすることは避けたい。今ある人材は将来の幹部候補になるべく人材である。然るべき訓練の後、受け皿が出来てから部隊を充実させることも出来るだろう。まぁ、人を増やし国を富ませ軍を強化する、言うのは簡単だ。それと敢えて言えば《親衛旗》とは言え何も地位や名誉に拠るものでなく、広く一般部隊より能力に見合った者を登用したい。古くから地位や名誉が第一と思う人間には煙たいかもしれないが俺自身、平民出身のよそ者だしな」


 此処で流石にグランも溜息をついてた。改めて気を取り直すと言葉を続けた。


「早期警戒の重要度は判る・・・がレアラン姫を含めるのは如何なものか・・・。当然、俺の、いや私の考えている心配なぞ卿に判らぬ筈も無いから言う必要も無いのであろうが・・・」


 言葉を濁さざるを得ない自分が、グランは苦しかった。せめて自分が随行できるなら心配も少しは薄まったであろうが、姫を兵として扱うのは流石に強い抵抗を覚えた。


「俺もドラゴンにでも乗って空を翔られたらなぁ・・・おっと、いまのは非公式な発言だ」

「あの・・・」


 遠慮がちに口を開いたのはレアランだった。


「飛翔軍に加えて貰うことは、わたくしがカイファートさまにお願いしたのです。わたくしも、護られるだけではなく、国民くにたみを護りたいのです・・・」


 非力なわたくしですが、出来ることを精一杯やりたい、とレアランは言葉を結んだ。


「大戦士殿。確かに、大公女殿下からくだんのお話しを伺ったとき、最初はどうかと思いました。大戦士殿が指摘されたように、“前に出る”ことには危険が付き物ですからな」


 今、もしもジョフの民の“心の支え”たるレアランに何かあったら──弱小国のジョフは、ひとたまりもなく瓦解してしまうことだろう。


「それでも、敢えて私は大公女殿下の飛翔軍への編入を認めました。大公女殿下の心配は、無論私も抱いております。だが、今のジョフには例外を設けている余裕がない。一瞬の対応の遅れが、この国を容易に崩壊させてしまいます。大戦士殿のご心配も判りますが──私には早期警戒の飛翔軍を強化できる機会に目を瞑る訳には参りません」


 そっとレアランが言葉を足す。


「わたくしの我が侭を、カイファートさまには聞いていただきました。国民くにたみの安寧を護るのならば、わたくしは率先して我が身を捧げましょう」


 真剣なレアランの言葉に、有るか無しかの笑みを浮かべると。


「無論、大公女殿下の安全には十分な配慮を致しますぞ。リスクは付き物と言えども──座して待つ訳ではありませんので」

「・・・」


 グランには、何もかもが予想できる範疇であったが、途中で口を挟まず、最後まで沈黙を続けた。何度か意を決して言葉を選び発言をしようとしたが駄目であった。


「判った・・・だが絶対に無理はしないでくれよ・・・」


 漸く口にした自分の言い様にグランは些か情けなさを感じたが、これ以外に言葉が出なかったのである。


“やれやれ、苦しい台所事情は判っていたが此処まで厳しいとはなぁ。いっそ頭を下げてでも阿呆のハンスーに兵を借りるか…心の騎士団所属時の自分の配下の戦力をヴェルボボンクに行って借りられないだろうか・・・”


 どちらにせよ政治的に面倒くさく思い、グランは言葉には出さなかった。


「やれやれ」


 グランは大きく溜息をつくと、一言こぼしてしまった。


「まぁ、悲観した話ばかりでもありますまい」


 宰相カイファートは有るか無しかの苦笑いを浮かべた。グランが大公女に対してどう思っているか、大公女がグランをどう思っているか──お互いの想いを思えばこその、二人の行動だった。


「遊撃軍の増強は、第一優先で取りかかりましょう。幸い、コーランド王朝騎士団領とビセル候国が乗馬の提供をしてくれるとのことです。さすれば、あと二個連隊の編成が可能でしょう」


 机の上で腕を組むと、その上に顎を載せる。


「最後になりましたが──強力な助力の申し出が来ております。シェリドマール流域きっての手練れ、龍騎聖りゅうきせいの三君が、しばし当地に賓客として逗留してくれるとのことです。その間に、都に異変が起きれば、火の粉を振り払う手伝いをしよう――有り難いことに、斯様に申されております」


 龍騎聖──水晶の霧の山脈中の、“龍泉峡”に住まう三人の龍騎士ドラグーン。それぞれが、剣、槍、弓の免許皆伝(Mastery)だ。滅多に人里と接触しないが、時折気まぐれにも街に短期間滞在することがあった。


「剣聖のサッコゥ殿、槍聖のネースビィ殿、そして弓聖シトール殿――何れも一騎当万の方々です。今の大陸で彼らと互角と言えるのは多くはおりません。守護者ワーデンのお二人は無論の事、我らが誇る大戦士殿。グレイト・キングダムのユーリアラス・v・ドラッヘン伯爵。ヴェロンディの“龍の盾”、漠羅爾バクラニ新王朝傑都の“魔導卿”。そして・・・」


 ちらりとその方向に視線を振ると、言葉を結んだ。


「・・・ここにおられる“魔剣士”、エリアド・ムーンシャドウ殿。この方々でしょう。」





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