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封印の門  作者: 冬泉
第一章「冒険者集う時」
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封印の門-12◆「想いを通じて」

■ジョフ大公国/宮殿/回廊→宰相の執務室


 カイファー・ジーニアス・ケルヴィン。先代ジョフ大公トーランスの盟友ながら、思想の違いからたもとを別ってしまう。『政治を全うするには、手段を選んではならない』――潔癖なトーランスはカイファートのそんな想いを理解することが出来なかった。国が、善政故に傾いていくことに失望した結果、カイファートはその心の隙を“闇の大君”に利用され、ジョフが十年もの間、魑魅魍魎の跋扈する失地となる原因を作ってしまう。


 コモン歴590年――その原因である“彼方への門”を、グランを始めとする冒険者の一団が見事に封印。悪鬼の巣窟と化していた公都ゴルナを制圧し、ジョフの領内から魑魅魍魎を全て駆逐した。踊らされたとは言え、闇の勢力をジョフに引き込んだカイファートは、ジョフ解放の際にその身を持って償おうとする。だが、トーランスの遺児であるレアラン姫にその罪を許され、残りの生を大公女とジョフ復興に捧げることを誓った。


 カイファートは希代の政治家であり、現在ジョフの宰相の地位に付き、内政外政を問わず、陰に日向に若き大公女を補佐すべく、全身全霊を挙げて使えていた。


          ☆   ☆   ☆


 一度自室に戻ったレアランは、手早く身支度を調えると、再び自室を出た。

 カイファートの執務室は、大広間と同じ階だが、建物の別翼にある。

 ちなみに、代々ジョフ大公が住まうこの宮殿だが、奇跡的に先の失地戦役を生き延び、こうしてまた住まうことが出来るようになっている。そして、この宮殿はいまだ復興途上にあるジョフ大公国民にとって国の象徴であり、大公家の心の拠り所でもあった。


──人々に安寧と豊かな暮らしを与えることが、大公家としての義務である。


 生前、常々父である先代の大公トーランスが述べていた言葉である。その言葉を、娘であるレアランは忘れる事がない。


“わたくしは、国と民と共にあって、はじめてわたくし自身であると言えるのですね”


 一途にレアランは想う。そして、その想いを支えてくれるグランと、その仲間達に心からの感謝を捧げていた。


「あ・・・」


 長い廊下を歩ききり、角を曲がると、正面の扉の前に巨躯の異丈夫が立っていた。その人物を見たレアランの表情には嬉しそうな笑みが浮かぶ。


「グラン・・・」


 人気のない回廊に立っていると、軽い靴音が響いてきた。


「姫」


 グランには、ここで姫を待っていたと思われるのも、気恥ずかしいと思う気持ちがこみ上げてくる。 


「どうも部屋を覚えるのは苦手でね・・・戦場では疾風を誇った俺も此処では形無しだ」


 どこまで本当か判らない下手な冗談でごまかしつつ、グランは姫が歩いてくるのを待った。

 グランの呼びかけに軽く頷くと、レアランは相手にゆっくりと歩み寄った。

 自分より、有に頭一つは上背がある異丈夫を見上げてみる。精悍な顔つき、広い肩幅、どっしりとした雰囲気。


“この人の傍らにいると、不思議と安心感を覚えます・・・”


 最強の戦士、アルフレッド・グランツェフ。不器用だが、実直で優しい漢。何度出会っても、何処で出会っても、自分はこの戦士に心惹かれるだろう。そう思うと、レアランは自然に浮かんだ笑みを相手に向けた。


「お待たせしてしまってご免なさい」


 レアランの自分に対する笑顔が眩く感じ、グランは内心赤面する思いだった。


“俺はこの笑顔に弱い、俺を殺るには刃物は要らんな”


 些か女性に対する免疫不全でも有るのだろうか――妙なところでうろたえる自分に、理解不能になる部分があった。


“いやいや、特別だよ。この女性にだけはな”


 そう考えていると、新たな靴音――それも複数――が聞こえてきた。程なく、レムリアを伴ったエリアドが姿を見せた。レアランが二人に会釈をする。


「先に、お部屋に入って残りの方々をお待ちした方が宜しいかと思いますの」


 如何でしょう、レアランはグランとエリアドに尋ねた。本来は、ジョフ大公国の最高権威者なのだから、『中に入って待つ』と言ってしまえば良いのだが、最初に相手の意向を尋ねるところが、如何にもレアランらしかった。


「そうだな。で、どうするか?」


 グランは出掛かった言葉を飲み込むと、エリアドの意向を確認することにした。


「・・・はて。ここはどなたの治める国で、この城の主はどなたでした?」


 グランとレアラン姫の問いかけるような視線に、エリアドは少しばかり皮肉っぽい微笑みを浮かべてそう応じた。


「私にそこまで気を遣う必要はありません。気を遣っていただけるのはありがたいことだと思っていますけれどね。けれど、あまり気を遣われてしまうと、こちらとしても、かえってやりにくい。昔のように友人だと思ってくれるのなら、あまり気を遣わないでください」


 嫌みにならないように気をつけながらも、エリアドはそのように続けて言った。


「相変わらず可愛げねぇな・・・」


 やれやれ、と頭を掻きながらグランは苦笑した。


“大体、他人の部屋の前で何を悩まなければならん・・・”


 その部屋には、現在のグランが一番重用し且つ信頼している人物がいるはずである。国内の政策面のみならず軍事面まで指導力を発揮し、阿呆なグランに取って真に得がたい人物であった。また自分の名を冠した親衛騎士団の創設も進められている。


「姫?」

「はい。」


 ジョフ大公国第一主権者の表情には、慈愛に満ちた笑みが浮かんでいた。その瞳には、自分を護る戦士とその友人たちに対する深い信頼が宿っている。


「じきに、ジャンニさま、紫の騎士さまと黒の剣聖さまもいらっしゃることでしょう。わたくしたちは、失礼して先に中でお待ちしましょう」


 レアランは扉の前に立つと、二、三度ノックして名を名乗った。


「カイファートさま、レアランです。大戦士さまとお客さまをご案内して参りました」


 お入りなさい、と言う言葉に続いてグランが扉を開ける。小声で礼を言うと、レアランはカイファートの部屋に入った。




 漸く、一番厄介で混沌とした部分を抜けました。これ以降は、もう少し改編作業が楽になろうかと思います。今後とも、宜しくお願い申し上げます。

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