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封印の門  作者: 冬泉
第一章「冒険者集う時」
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封印の門-10◆「迷いと決意と」

■ジョフ大公国/宮殿/大広間


長閑のどかな朝だねぇ」

「・・・」

「備え有れば憂い無しと言うけどねぇ――本当にそうなのかなぁ?」

「・・・何が言いたい?」

「この長閑な平和が薄氷の上にあるってことさ。考えてもみなよ。ついこの間まで、僕は敵だった。君も大きな負担を抱えて行動の自由がなかったし、何よりあの“彼方への門”が大きく開いたままだった」

「“門”は封じたぞ?」

「一時的にはね。だが、君の“フォウチューン”とエリアドの“震電”の封印も長くは持たなかった。ランバルトの聖剣の方がそりゃ強力だろうけど、あくまで永続的に続く封印を課せる迄の繋ぎと思うべきなのだろうね」

「・・・確かに、貴様の言うことも一理ある」


 眉根を寄せながらも、ヒラリーは頷いた。


「そもそも、神器に等しいレベルの“彼方への門”を、ランバルトの聖剣で封じるだけで全ての事が終わったとは到底思えないのからさ。あの“門”自体をどうするか、と言う点も考慮しなければね」


 そうのたまうディンジルに、ヒラリーは鋭い視線を向ける。


「ジョフのみならず、イースタンにも影響を及ぼそうとする“門”だぞ。封印するのが必然ではないか!」

「そうかな」


 ディンジルの表情からは、先程の軽薄な笑みが消え失せていた。


「“来られる”と言うことは”行かれる”と言うことでもある。こちらから相手の勢力圏に行く手段を我々が持たない今、あの“門”の重要性は説明するまでも無い。このまま座して待つだけでは足りない。レムリア姫の剣ではないが、何時も“後からの先”を期待していては駄目なのだ」

「ふむ」


 そうか、とヒラリーが頷くのと、レムリアが独りごちるのが同時だった。


「・・・確かに、それは自明の利ですわね・・・あ、お話を遮ってしまって申し訳ありません」

「いいよ。これは全員の問題だからね」


 気にしない、気にしないとディンジルは笑った。

 レムリアのみならず、いつの間にか全員が朝食を食べる手を止めて二人の話を聞いていた。


「・・・だが、戦力的に十分ではない我らにとって、“行かれる”手段は宝の道具されではないのか?」

「今のままでは、確かにヒラリーの言う通りだな」

「ならばっ!!」

「“今のまま”ではな。だから、こちらから乗り込めるだけの戦力を集める必要がある。その為の、君と僕だろう?」


 難しい表情を浮かべて聞いていたヒラリーだが、理路整然としたディンジルの話は十分に理解できる点があった。


「それこそが、我ら“守護者”(Warden)の使命というところか」

「その通りさ」

「では、ここに不在の“紅の勇者”、“蒼の賢者”、“碧の魔導師”を呼び寄せるのか?」

「出来ればそうしたいがね。彼ら三人を呼び出せれば、滅多な相手では歯が立たないからな。だが、ランバルトとダリエンを呼ぶには難しい召喚条件を整える必要がある。マクシミリアンにはさほど難しくはないが、彼奴は何処にいるかが判然としない。ましてや、白の聖者と灰の予言者は到底無理だろうしな」

「そう言うからには、何か腹案があるのだろう?」

「まぁね」


 ディンジルはグランに頷いた。


「だが、それを成すには仕掛けと時間が必要だ。その手立てが整う前に、このジョフが陥落しては元も子もない。この点、応急処置になるが打てる手は打っておく必要があるだろう」

「・・・」


 腕組みをして考えるグラン。ディンジルは悪戯っぽい表情を浮かべてヒラリーに笑みを向ける。


「お嬢さんにはお気に召さないかも知れないがね」

「その様な俗っぽい名称で呼ぶなと言っているだろう」

「お嬢さんっていうのが嫌かい? それじゃ、お姫さまっていうのはどうかな?」

「尚悪いっ!」


 何時しか本筋から逸れてしまって、何時しか二人の痴話喧嘩に変わっていた。

 だが、ディンジルが投じた一石は、十分効果を発揮していた。朝食を食べる手を止めて、レアラン、グラン、レムリア、エリアド、ジャンニは自分たちの置かれた状況を話し合った。


「公都と公民を守ることを第一に考える必要があるが、その為の戦力が不十分だ。カイファートと話して、至急手を打つ必要がある。」


 右手を左手に打ち付けながら、グランは言った。


「公都の民から募りましょう。野外の戦いには向きませんが、公都の城壁を頼りとすれば、手助けには成りましょう」

「そうだな。姫から公民に語りかけて貰えれば、必ず共に戦おうと言う者が出てくるだろう。防御だけではジリ貧だ。少しでも野外の機動戦力を増やして、こちらが行動の自由を持つことが重要になる」

「僭越ながら、わたくしも大公女様、大戦士様のご意見に賛成です。ここに集ったのも何かの縁でしょう。わたくし達も、出来ることを致しましょう」


 そうですわね、とレムリアはエリアドに視線を振る。


「ふむ。異論はないな」


 魔剣士は短く肯定の意志を示した。


「そうと決まれば、まずはカイファートのところか!」

「朝食が済み次第、伺いましょう」

「ならば、礼を失さない範囲で、手早く朝食を頂くことに致しますか」

「偶には良いこと言うじゃないか、エリアド」


 そんなグランの突っ込みに、エリアドは口元に皮肉っぽい笑みを浮かべるだけだった。


          ☆   ☆   ☆


「よし。それでは、皆も食事は済んだみたいだな。カイファートの所へ行こう」


 勢い良く言うと、グランが立ち上がった。


「グラン。私とディンジルは先に済ませねばならないことがある。後で合流しよう」


 野暮用でね~と素敵な笑顔で言うディンジルの脇腹に、フォウチューンのこじりをさり気なく突っ込む。堪らず、悶絶して崩れ落ちる黒の剣聖様。当たり前になりつつある光景を綺麗にスルーして、グランはヒラリーに大きく頷いた。


「了解した!」

「我々は同行しよう」


 エリアドとジャンニは、互いに一つ頷くと立ち上がった。

 全てがてきぱきと進む中、僅かに憂いを表情に浮かべるレアランに、レムリアがそっと声を掛けた。


「如何されましたか?」

「いえ・・・」


 思う所があったレムリアは、先に朝食の間を出て行くグラン達と少し距離を取ると、ささやき声で言った。


「大公女殿下。何を不安なお顔をされているのですか」

「レムリア姫さま・・・」

「今、皆様は大公女殿下の事を見ています。そして、あなたの中に自分たちの勇気を見い出そうとしています。今はまだ、ジョフの国民にとって未曾有の危機的状態です。ご心労は重々理解していますが、ここは気をしっかり持って頂き、国民の先頭に立たねばなりません」


 レアランは、はっとした表情を浮かべた。見つめ返してくる不思議な黒い双眸には、真摯に自分とジョフを心配する想いが込められていた。


「ご無礼を承知で、僭越なことを申し上げてしまいました」


 丁寧に一礼して、レムリアは締めくくった。


「いいえ。申し上げて頂いて、心から感謝いたしますジョフの大公女として、国民に不安を見せるようなことがあってはなりません。けれども、わたくしはまだ大変未熟で・・・しばしば感情を表に出してしまいます・・・」


 もっともっと頑張らなければ──隣に座って自分を護ってくれている愛しい人の手を煩わせないように。レアランは決意も新たに、自分の想いを言葉にした。


「それでも・・・この国に住む人々が幸福になるために、不安なく毎日を暮らして行ける為に、わたくしはどの様なことも喜んでやりたい──そう思うのです。」


「貴女は十分に頑張っていますよ。」


 思いもしなかった声に、俯いていたレアランは顔を上げた。先に行ったと思っていたグラン、エリアド、ジャンニの三人が立ち止まっていた。


「聞こえてしまったのは申し訳ない。だが、一言言わせて欲しい」


 グランは、柔らかい口調でレアランの言葉に続けた。


「いま、この国そして国民に一番大切なのは貴女の存在其の物なんだ。それ以外のことに気を使うのは俺でかまわないし、それくらいの仕事は残しておいて貰わないと困る。」

「はい・・・」


 僅かに、レアランの瞳は潤んでいた。長く虐げられていた祖国ジョフ。その再興を担う我が身ながら、レアランは不安と心細さで心が潰れそうな思いだった。


 だが、彼女の傍らには、この偉丈夫の大戦士がいる。そして、大戦士を友と呼ぶその仲間達もいる。小娘に過ぎない自分に、斯様な人々が手を貸してくれる――それが、レアランをして、自分も心を強く持たなければいけない、と思うのだった。


 しかし、その表情にまだ危うげさが消えていないことを、隣に立って聞いていたレムリアには強く感じられるのだった。



 旧編に対して、内容を大幅に改編しました。話の辻褄を合わせる為に、宰相カイファートと出会う所まで、大幅改編が続きます。

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