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第1話 ツノが生えてる!?



 うう…


 どうしてこんなことに…



 ここは魔族が闊歩する異世界、『アクロポリス』。


 ひょんなことからこの異世界に迷い込んでしまったわけだが、どういうわけか、帰り方がわからなくなってしまった。


 学校に行く途中だった。突然、目の前が暗くなったのは。


 その時の記憶が定かじゃないんだが、確かに俺はあの時、自転車で坂道を下っていた。そこは確かにいつもの“道”だった。俺が住んでる町はちょうど田舎で、電車も通っていないような長閑な場所だった。家は山の上にあるんだけど、まあこれが大変で大変で…


 いちいち坂道を登らなきゃいけない。辺鄙なところに家を建てた両親を恨む日もあった。それくらい、通学に苦労してた。


 それでもまだ、朝はマシだったんだ。行きは山の斜面を下りるだけだから。長い坂道を下る。カーブミラーもない山道を進んでいく。たくさんの木々に囲まれた森を抜け、苔だらけのガードレールのそばを走る。


 緑、緑、緑。


 田んぼが広がる平原がいつも、涼しい風の向こうに現れてた。真っ青な空の下に映える鮮やかな杉の葉が、さやさやと揺れる畦道の向こうにぐんと背を伸ばしてた。川のせせらぎや、ポツンと建つ家々の、——すぐそばで。



 シャーー



 回転する車輪の音。流れるように通り過ぎていく景色。朝露に濡れるブナの葉が、瑞々しい空気のそばに煌めいていた。広い川の上を泳いでいく鮎の群れが、白い水しぶきにほどけていく水面のスレスレを、跳び。


 町の静けさが、そばにあった。山の麓を走って行く車の音が、街のいちばん低いところを走っていた。急いでたんだ。その日たまたま起きるのが遅くて、朝のホームルームに間に合うか間に合わないかの所だった。昨晩降った雨の影響か、道路がまだ湿ってた。濡れた地面にタイヤが掬われて、ハンドルがガクンッてなったんだ。気がついたら世界が反転してた。


 青い空が、回転する視界のそばに見えた。


 

 ガサガサッ



 という音と一緒に、全身に激痛が走って。




 しばらく起き上がれなかった。


 自転車でずっこけたことは何度かあったが、転けた先が、掘りの深い田んぼの上にある畦道だった。斜面が急すぎるせいで勢いよく下に落っこちていく感覚が、頭の中を駆け巡った。相当高かったんだと思う。一瞬死んだかと思ったんだ。あまりの衝撃で、自転車のフレームがひん曲がってたし。


 カラカラと車輪が鳴る音。変な方向にひしゃげてしまったカゴ。カロリーメイトとか教科書とか、勢いのあまり中身の飛び出たカバン。


 イテテ…


 すりむいたおでこをさすっていると、「おーい」と呼んでくる声が聞こえた。


 声!?


 ここらへんは潮崎のおばちゃんくらいしかいなくないか…?田植えの時期でもないのに、朝から人がいるなんてことが…


 見上げた視線の先にいたのは、“女の子”だった。俺の認識が正しければ90%くらいの確率で。なんで“100%”じゃないのかって言うと、ひとつだけおかしいフォルムがあったからだ。


 見たこともないフォルムが。


 頭部から突き出ている得体の知れない物体。



 …なんだあれ?


 …ツノ?



 いや、仮装の時期じゃないよな?


 文化祭だって、こんな時期にやってるわけがない


 でも制服を着てるってことは…



 制服はうちの学校のものだったが、ここらへんに住んでいる女子高生なんていなかった。綺麗な髪。袖の下から見えるニットカーディガン。すらっと伸びた足に、白いパン…


 …いやいや!


 別に見ようと思って見たわけじゃないッ!


 声がした方向を見たら、たまたまその角度だったわけであり…



 って、ええ!?



 不可抗力で視界に映ったものを頭の中から消そうとしていると、タンッと、その女子高生が飛び降りてきた。


 …嘘だろ?


 かなり高い場所だったんだが…?



 「何してんの?」



 鋭い視線を感じた。冷え切った目というか、どこか、殺気を帯びたような瞳。


 …いやッ、だから、見ようと思って見たわけじゃないんだ!!


 大体君誰!?


 なんでこんな場所にいるんだ??


 それにその…、頭から生えてるものは…?



 目の前の女子高生は、スッと近づいてきた。


 俺は弁解しようと必死だった。


 持ち上げた手を顔に近づけようとしてきたから、絶対に殴られると思い。


 「違う違う!誤解だって!!」


 慌てて顔をガードした。防衛本能というやつだ。転けたばっかで体中痛かったが、なんとか防御姿勢は取ることができた。急所だけは外そうと思い。


 「顔、血が出てるけど」


 …へ?


 …血?


 ああ、…おでこのこと?


 女の子はポケットから出したハンカチでサッと血の痕を拭ってくれた。多少ヒリヒリしたが、思いがけない目の前の出来事に、呆然としたままだった。「大丈夫?」と心配そうに聞いてくる彼女の口から、とんがった八重歯が、チラッと見えて。


 「…だ、大丈夫、だと思います」


 「あはは。なんで敬語なの?」


 俺と同じ高校の制服かと思ったが、少し違った。


 第一に紋章がない。襟の形もポケットの位置も、微妙に違う。色が一緒だったから、なんとなくそう思ったんだ。


 …でもだとしたら不思議だ。


 この町に高校は1つしかない。


 別の場所ってなると隣町の方だが、そんなところに通ってる女子高生なんてこの近くにはいない。


 っていうか、さっきも言ったけどここらへんに『女子高生』などという生き物はいないはずだった。


 近所のガキンチョがせいぜい2人いるくらいで、歳が近いヤツなんて、今の今まで…


 「君、ツノは?」


 「ツノ!?」


 「生えてないなーと思って」


 生えてないなーってどういうこと?


 逆になんで生えてると思ったの?


 キミの頭に生えてるのって、まさかとは思うけど…


 

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