第二十三話 パリッ -グラズール-
ローランが目の前にいる。
ホット・チョコレートを持っている。
あぁ、湯気。
あったかそうだな〜。
「ルナ、これやる。
飲んでみて。」
「え、いいの?
ありがとう。」
断熱カップ。
ほんのり、あったかい。
顔が緩んじゃう。
目が垂れてるかも。
カカオの香りが、広がるー。
「ふくるるわ〜…」
「…ふむ、なるほど。
これは、ふくるるわあ、そんで、伸ばすってことか。」
ん、ローランが何か言ってる?
「いただきますー。」
うん。
ちょうどいい温度。
んんー。
甘め。
ゆっくり口に広がってく。
濃厚なタイプだぁー。
こくん。
「…んー。」
体、とけるー。
「はぁ〜、トロ〜ん。」
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ルナは少しだけ、首を傾げる。
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「なるほど、トロ〜ん。
これは普通っぽいな。」
「あー、ルナ、ショコラ・ショー飲んでる。
良いなー。
ひとくち、ひとくちー。」
「マナ、これローランにもらったの。
ローラン、マナにひと口あげていい?」
「あぁ、いいよ。」
「はい、マナ。」
「やたー。
いっただきー。
…んぐ。
…んぐ。」
「あー、マナ。」
「ぷは。
おいしー。」
「ぜったい、今のひと口じゃなかったー。」
もう、やっぱりなー。
でも、もらったものだもんね。
それにしてもローラン、何だろう。
メモってる?
「ローラン、ルナに一杯おごって、何か裏でもあるの〜?」
「ん?
あぁ、ルナの言葉の研究。
なかなか面白い。」
あー。
そういうことかー。
私、無意識に声が出ちゃうんだよね。
お父さんにも言われてた。
気をつけないと、変なひとだと思われちゃう。
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放課後の実習室。
四名集合。
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「はーい。
じゃみんな良い?
始めるわよー。」
「だからなんでお前が仕切るんだよ、マナ。」
「あたしが進めないと、みんな喋ってるばかりで時間の無駄になるでしょ。
得意なのよ。
進行役。」
「マナさんは、合理的思考、且つ統率力に長けたリーダー的存在デス。」
「ふふん。
レオンは良くわかってるわね。
組織っていうのは、指揮者が必要なの。
トップに立つのってみんな憧れるけど、逆にみんな嫌がるものよ。
嫌われるのが怖い。
でもあたしは、それをわかった上で、そういう役に立つのよ。」
「私は、マナのそういうとこ、良いなって思う。」
「うん。
ありがとう、ルナ。
あたしは、ルナの可愛いとこが大好きよ♡」
ガララ。
「みんな揃っているようね。」
「あー、サラサラ。」
「サラ先生。」
「コンペティションの募集要項、持ってきたわ。
内容は話していた通りだけどね。
ちゃんと読んでおいてね。」
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レオンが何か持ってる。
「みなさん、僕が作ったスイーツ、デス。
試食してみてください。」
「これは、ザッハトルテね。
見事なグラズール。
上手にできたわね。」
「昨日作りました。」
ザッハトルテ。
授業でやったのよね。
ザッハグラズールっていうんだっけ。
あれ、難しかったなー。
特訓してやっとできた。
座学を学んで、その一週間後に実習だったなー。
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カッ、カカッ、カ…
ボードにチョークの文字。
『商標登録』
「ザッハトルテは、二種類あります。
フランツ・ザッハーが作ったオリジナルと、
販売権を獲得したデメル家のものが存在し…
甘い戦争と呼ばれ…」
「商標権は、現在とても重視されています…」
んー、難しいなぁ。
二種類あるってことは、三種類目はないんだよね。
何でないんだろ?
うーん、甘い戦争かぁ。
「…ルナさん。」
「あ、はい。」
やば、見つかっちゃったー。
「ユニークな絵ね。
鉄砲と、大砲と、キャンディと、トリュフ、プラリネ。
そうじゃないのよー、ルナさん。
甘い戦争って。」
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あー、思い出しちゃった。
あれ、恥ずかしかったなー。
「ルナさん、どうぞ。」
レオンのザッハトルテだ。
「うん。
ありがとう。」
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ルナは皿を両手で持ち上げる。
目線の高さ。
ぐるりと一周。
上の面を見る。
顔を近づける。
目を閉じる。
息を吸う。
吐く。
皆が様子を伺う。
「ショロンクルル…ワ〜。」
「……」
「…ショロン…何だって?」
ローランはメモを取る。
「本当にケーキと会話しているみたいね。」
「だよね、サラサラ。」
「僕も一緒に会話したいデス。」
「はーい。
それじゃみんな、試食してみよっ。」
「いただきまーす。」
マットなコーティング。
上品な光沢。
フォークの横側を当てる。
ゆっくり下へ。
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パリッ。
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一瞬、音だけが残る。
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ルナの目が、わずかに開く。
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砂糖の結晶とチョコレートの結合が作る層。
薄く、軽い。
だが、強い。
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「……これ。」
ルナは断面を見つめる。
指先で、そっと触れる。
「……つながってる。」
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「うん、これ。」
「ありがとう、レオン。」
「……これ、欲しかった。」
レオンは微笑む。
「ルナさん、お役に立てたようで光栄です。」
「ん?なになに、どういうこと?
ちゃんと説明してよね。
曖昧だとわかんないじゃない。
ねぇ、サラサラ。」
「……何よりもまず音楽を…ポール・ヴェルレーヌ…」
「あんたに言ってないわよー。」
「ふふ、マナさん。
このザッハトルテ、本当に美味しいわよ。
パリッとして、シャリシャリしてるわ。」
「うん。
おいしー。
レオン、さすがねー。
あー、あたし紅茶淹れてくるねー。」
「おーいマナー。
進行役はどうしたー?」
「紅茶、紅茶。」
「おーい。」
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テーブルの上。
紙が一枚。
募集要項。
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ー公募ー
チョコレート・コンペティション
「未来のチョコレート」
未来のチョコレートはどんなチョコレート?
一般参加を含む多くのアイデアを広く募集します。
部 門:
① 完成品部門
チョコレートを使用した製菓 1種10点
当日2時間以内で作成
審査:審査員による試食及び投票
②コンセプト部門
テーマに沿ったアイデアのプレゼンテーション
当日10分間の発表
審査:審査員による審議及び投票
一次審査 事前にレポートを提出
期 限:2026年2月末日
対 象:現役パティシエ、ショコラティエ
学生、一般参加可
公開審査 開催日時:2026年3月30日 15:00開始
場 所:フランス芸術学院パリ製菓専門学校
最優秀賞 各部門 1点(賞金 1000ユーロ)ほか
主 催:フランス芸術学院パリ製菓専門学校
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