第二十一話 テスト走行です
「はい!じゃーみんな、自己紹介するわよ。」
「なんでお前が仕切るんだよ。マナ。」
「知ってるでしょ?こういうの、あたしが一番慣れてるの。」
「はい。私は、ルナです。」
「ルナ!いきなりっ。」
「ルナさん、名前だけでは少し情報が不足しています。」
「そうね、レオン君。見本を見せてあげて♡」
「え、ちょっと待って!ダメよサラサラ、その振りは!」
「自己紹介します。
レオン・ヴァイス。
20歳、ドイツ出身。
工業高校でCAD設計とモデリングを専攻。
趣味はモータースポーツ観戦。
音楽はEDM、ダブステップを聴きます。
パティシエの技術や表現にはとても興味があります。」
「……」
「……長いっ!あと早い!何言ってるのかわかんないのよ!」
「マナ。文句言うなら、お前がやれ。」
「え?あたし? ふん、しょうがないわね。観てなさい。」
「あ…」
「え。ルナ、どうかしたの?」
「あ、ごめん、そういえば私、本名ルナじゃなかった。」
「あー!それ今言っちゃダメなやつ!」
「え?ルナって本名じゃないのか?」
「ルミエールさん、大丈夫よ。気にしなくて。これはまだ、本編じゃないからね。」
「テスト走行デス。」
「あ…」
「え、今度は何?ルナ。」
「たぶん、誰も名前、呼んでないよね。ローラン。」
「……」
「……影、薄っ!」
「誰がハゲだ、薄いんじゃなくて、剃ってるんだよ。」
「ルミエールさん、よく気がついたわね。
ローラン君、自己紹介やってみて。」
「オレは、ローラン・ベルナール。
23歳。
大卒っす。
文学部で、古典専攻。
…特に、詩を愛しています。
…そう、ヴィクトル・ユーゴーや、シャルル・ボードレール…」
「はいはい!長くなるからそこまでー。」
「おいこら、マナ、まだ全然紹介になってないだろ。」
「ローランの言葉、私は好きよ。」
「ルナ、本当ありがとう。
そう言ってくれるのは、お前だけだよ〜。」
「ルミエールさん、私もわかるわ。
ローランの感性は特別よね。」
「サラサラ先生も、ありがとう〜。」
「ちょっと、私はサラサラじゃなくて、サラよ。
サラ・アズール。」
「はい!ではー、先生のプロフィールは、あたしマナから。
コホン。
本校を主席で卒業。
一流ブランドのチョコレート・メーカーに就職。
その後、独立して個人ブランドを立ち上げる。
現在、マーケティングを学びながら本校の講師を務める。」
「コースから外れたのデス。」
「レオン、ストレートすぎるわよっ。」
「あ、だ、大丈夫よ。
レオン君、言葉をオブラートで包むってわかるかしら。」
「オブラートは紙デス。言葉は包めません。」
「レオンの素直なところも、私は好きよ。」
「ルナさん、ありがとうございます。
そのキレイな声で言われると、とても心が和みます。」
…ーン。
ルナの目が泳ぐ。
「私は、みんなのこと…」
…ブーン。
「あれ、なんか飛んできた。」
「…はっ!」
サラが、僅かに視線を上げる。
ガタン。
パタッ。
サササー…
バタン!
「あ!ルナー!...行っちゃったわ。
一体何よ、どうしたのよ。」
「ん、あーカメムシだ。」
「…うわ!ローラン、あんた手で掴む?それ!」
「…慎ましき虫、道をゆく蟻…」
「似合わないからやめてっ!」
「ルナさん、僕は追いかけます。」
「あ、それでは、今日はここまでね。」
「はーい。
じゃ、みんなまたねー。」
「おつかれー。」
「…あれ?
あたしは?
ちょっとー、あたしの自己紹介はー?」
⸻
レオンが追う。
「ルナさーん。」
ルナは外。
光を浴びる。
タッ。
タッ。
タッ。
ルナは、歩くように走る。
頭の上にお団子。
ほどく。
金色の髪が広がる。
ゆっくりと。
空には太陽。
風がそよぐ。
パリの街並み。
ルナは、振り返らない。
⸻
「追いつきました。」
ルナの横にレオン。
ルナは、見ない。
止まらない。
「やっとね。でもこれからよ。」
レオンは右手で顎に触れる。
「これから、お昼デス。」
歩く。
パリを。
Ooh-la-la,
Ah-la-la.




