第二十話 変わるよ
「ねぇ、新しい作業着、これどうかしら?」
カタログ。
写真を指差す。
エルアンは二度見る。
「ん?これ?
いやー、どうだろう。」
「N.A.V.Y.らしくて良くない?」
「わざわざ海軍に寄せなくてもいいだろ。」
「あなた言ったじゃない。
意味を変えてやるって。」
「言ったけどさ。」
クレールは付箋を付けてカタログを閉じる。
はっとする。
「あ、いけない。
忘れていたわ。
手紙が届いているわよ。
クアメさんから。」
「なんだって?
すぐに持って来てくれ。」
エルアンはクレールを追う。
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窓。
外の光。
古い時計。
カチ、カチ…
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かさ、かさ。
バナナの葉が風に揺れる。
光が照りつける。
「それって、海軍?」
カイが胸元を見る。
「あぁ、この刺繍のことだね。
海軍じゃないよ。
昔は憧れたけどね。
映画を観て。」
「違うんだね。
それじゃ、どういう意味なの?」
「自然な農業と葡萄の庭。
意味を変えたいんだ。
NAVYの。」
エルアンはカイを見る。
カイは首を傾げる。
「海軍もさ。」
「…そのうち、変わるよ。」
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…カチ、カチ。
音が戻る。
ポ、ロン。
ポ、ロン。
静かに音が増える。
エルアンは目をゆっくりと開く。
机の上。
手紙と写真。
クアメから。
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『ただ駄目になるよりは、試した方が良い。
あなたの畑の知恵を借ります。』
写真。
新しい苗、稲穂の列、細い水路。
枯れ草が広がる地面。
写真。
土に触れる手。
水を流す手。
バナナの葉を割く手。
写真。
村人たち。
堂々としたクアメ。
青年。
見開いた目。
固く閉ざした口。
カイの面影。
⸻
ポ、ロン。
ポ、ロン。
クレールが紅茶を淹れる。
小皿にチーズと菓子。
羊皮紙の本。
波打つ皮の上。
『秋の日のヰオロンのためいきの…』
クレールがページをめくる。
「…うーん、この言葉、何かしら。」
「ん?何だい?」
『月に代わってお仕置きよ。』
「…何だろな。」
本をゆっくりと閉じる。
「ねぇ、新しい作業着、あれでいいでしょ?」
「いやー、どうだろう。」
バン!
扉の音。
タッ、タッ、タッ。
足音。
「ただいま!」
ルナの声。
「お父さん!
アフリカのこと、
もっと聞かせて!」
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窓の外。
赤い空。
大地に沈む太陽。
細い月。
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鳥が旋回する。
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静かな時間。




