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navy moon ー月はいつも丸いー  作者: A.O.C.DESIGN
第三章 Plat principal 収穫のあじわい
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第十三話 深まる

酒場『Oasis』


ガヤガヤ。


「いらっしゃい、お疲れさん。」

「空いてる席、やっぱりカウンターだけだね。」


カイが腰掛ける。

アブドゥの横。


「マスター、今日はラガーで。」

カイは声を張る。


奥から店主の声。

「カイ、来たか!お疲れさん!ラガーだな、はいよー!」


「ラガー。…そうか、そういや、今日までだったっけ。仕事。」

「あぁ。」

「んじゃ、オレも次はラガーだ。門出を祝ってやるよ。」

「ありがとう。」

「次の仕事、そういえば聞いてなかったよな。何やるんだ?」

「今度は、派遣じゃない。」


トン。

一本。


「んじゃ、とりあえず乾杯。」

コン。


「それにしても、派遣はいろんな仕事があるなぁ。」

アブドゥは指で数える。

「港から始まって、ビール工場、スーパーの品出し、機械工場で組み立て作業…」

カイが続く。

「レストランで皿洗い兼調理補助。あぁ、建設、土木作業もやったっけ。

アビジャンに来て八ヶ月、いろいろ見てきたよ。」

「お前、器用だよなー。どこの職場でも順応しちまうんだから。」

「んー。一週間だけのはずが、だいたいどこでも一ヶ月以上になってたから、まぁそういう事かもな。」



「あれー?ひょっとしてカイ?」


店の客が、奥の方から急に声をかける。


「え?」

カイは振り返る。

アブドゥも同時に振り返る。


客がカウンターにやってくる。

「え?」

(誰だ?)


かすれたデニム。

白いシャツ。

サングラス。

アフロ。

小柄な背丈。


「すみません、どちら様でしたっけ?」


サングラスを外す。

「ヤオだよー。」


「…あぁ!久しぶり、です。ビール工場の時はお世話になりました。

すみません、すぐに思い出せなくて。」

「何その丁寧な言い方、やめてよ。オレの方が年下なんだから。」


「いーえ。」

カイはヤオに微笑む。

「先輩ですから。」


ヤオはカイの肩を軽く叩く。

「だから、やめろってば。」


二人は笑う。


アブドゥは微笑む。

「カイ、紹介しろよ。」



「そんっでさー、こいつったらさー。」

「そうなん?意外ー。」

アブドゥがカイの過去を語る。

「やめてくれー、掘り返すなー。」

カイは笑っている。


「あれー?ひょっとしてカイ?」


店の客が、奥の方から急に声をかける。


カイは振り向く。

(...え、また?今度は誰だよ。)


編み込まれた髪。

彫りの深い顔立ち。

カーキ色のスーツ。

捲り上げた、袖。

すらっとした細身。


(都会の女性、だ。)


アブドゥが立ち上がる。

「あ、アヤンダ?」



カイ、アブドゥ、ヤオ。

アヤンダ。


「元気そうね。」

「はい、アヤンダ、さん。」

カイは背筋を伸ばす。


「緊張してるの?まだ慣れていないのかな?」

アヤンダは軽く腕組み。

「でも、体は大きくなったようね。」

上半身を曲げて、カイを見て微笑む。


「アヤンダー、やっと来たね。待ってたんだよー。」

「え、待ってた?...あぁ、アブドゥね。あなたにも会えてよかった。」

アヤンダはアブドゥにも微笑む。


「カイ、アブドゥ、オレにもアヤンダさん紹介してよー。」


トン。

ヤオはビンを置く。



アブドゥ。

アヤンダ。

カイ。

ヤオ。


席を増やした。

狭い。


カウンター越しに、店主。

店は、少し落ち着いてきた。


「アビジャンでも珍しいですよね、カウンターなんて。」


アヤンダが店主に話しかける。


「いいだろ?手作りなんだ、これ。」

「え、そうだったの?」


カイは、カウンターを眺める。

表面を撫でる。


トン、トン。


(....しっかりしてるな。土台、構造が。)


「これを?ご自分で、本当に?マスターが?」

カイの目が大きくなる。


「あぁ。あっちの、あの通りに高級バーがあるだろ?」

店主は酒を注ぎながら話す。


「かっこいいと思ったんだ。」



古びたレコード。


酒が並ぶカウンター内。


店主に挨拶して帰る客たち。


「マスター、いつもありがとう。」


「こちらこそ。」



「さて、そろそろ出すか。」

主人がニヤリ。


「何?マスター。」

カイは顔を突き出す。


「待ってましたー!」

アブドゥが声を張る。


「なになになになに?」

ヤオがカウンターに身を預けてアブドゥにたずねる。



ドン。


鍋。


漂う、魚介とナッツの香り。


店主は白い米を盛る。


赤茶色のソースを掛ける。


魚、海老が乗る。


「特別だぞ。釣り仲間がたまたま持ってきたんだ。」


小声。



コトッ。


「さぁ、召し上がれ。」


「ボナペティ。」


声が重なる。


フィンガーボウルで手を洗う。


右手の三本指だけで、小さなおにぎりを作る。


ねっとりとしたソースと細い米。


三本指で持ち上げる。


少し上を向く。


口元に右手。


口を開く。


親指で、中へと運ぶ。


目を閉じる。


下顎がゆっくりと動く。


一回、二回、三回...


右手が徐々に上へ向かう。


親指を立てたまま。


グッと握る。


アヤンダの左右で、交互に腕が、上がり下がりする。


「どうだ?」


店主の声。


フォークを持ってうっとりしているアヤンダ。


上に伸びていた腕がゆっくりと、同じ早さで下りて、胸の高さで止まる。


グッと握る。


「おかわりある?」


ヤオ。



「マスター、美味しかったです。ごちそうさまでした。」


店主が奥から応える。

「おぉ、また機会があったら作ってやるよー。」


主人の背中。

包丁の音。


カイは父の面影を重ねる。


店内を振り返る。

人の笑顔を思い返す。


(...村のみんなは、元気だろうか。)


「それで、次は何をするの?」

アヤンダ。


「仕事だよ、次の仕事。もったいぶるなよー。」

アブドゥ。


「カイはどこでも仕事になるよな、かっこいいから。」

ヤオ。


「かっこいいって?オレが?どこが?」

カイ。



店の外は静かに深まっていく。


中は、賑やかに。


ゆっくりと。


レコードが静かに回っている。

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