第十一話 返 事
シーン。
「返事は?」
「おい、返事だってよ。」
「あ、ハイ!すみません!」
朝のミーティング。
「カイ、ボーッとするな。あと、ヤオ。」
「ハイ!」
「以上の四名は、まずビンの運搬だ。
十一時頃にモルトが到着するから、それまでにやってくれ。
では、本日もよろしく。」
「ハイ!」
全員の声が響く。
⸻
ガラガラ…
倉庫のシャッターが上がる。
少しひんやり。
大きなダンボール。
高く積まれている。
きっちり並んで。
(すげぇな、まるでビルだ。)
「カイ、ハンドリフト持ってきて。
オレたちは先に、箱を下ろすから。」
「了解。」
スッ、スッ、スッ。
早足。
ハンドルを掴む。
一歩下がって、レバーを下げる。
二回、上下に動かす。
機敏な動き。
「よっと。」
ガラガラ…
フォークが動き出す。
(えーっと、パレットはあっちだな。)
ハンドリフトのフォークをパレットに差す。
ガラガラ…
メンバーの元に戻ると、
すでに箱がいくつも下されていた。
「よし、じゃぁ積もう。」
ドン、ドン、ドン。
速やか。
「目の高さまでだ。カイ、ちゃんと見渡せるか?」
「はい、大丈夫です。」
「よし、グラグラも、うん、していない。
じゃ、カイ、それは三番目のタンクだ。
足りなくなってる。
よろしく。」
「はい。」
ガラガラ…
慎重に進む。
前と積荷を交互に見る。
ウィーン。
フォークリフトがすれ違う。
倉庫から出る。
日差しが当たる。
⸻
ザー、ザー、ザー。
カシャン、カシャン。
ウイーン…
『充填場』
鉄の匂い、そしてアルコールが漂う。
「失礼します。ビン持って来ました。
えーと…
あぁ、あちらでよろしいですね。」
「あぁ、あそこでいい。黄色い線の向こう側な。
良かったぁ、間に合って。
もう無くなりそうだった。」
カイはパレットを下ろす。
(畑と同じだ。線が引いてある。)
ガラス越しに充填場を見る。
(ビールの滝だ。)
回転するビールの滝。
ビンが一列になって流れる。
その先で別の流れと合流。
小さい箱の流れ。
またその先で大きい箱の流れと合流。
鉄のローラーの岸辺に着く。
人が四人。
パレットに積む。
「フン!フン!」
ドッドッ。
「フン!フン!」
ドッドッ。
岸から箱を持ち上げる人。
パレットに積む人。
肉体が、踊っている。
横目で見ながら、カイは足早にハンドリフトを引く。
「あとのビンは、まとめて運ぶそうです。
よろしくお願いします。
失礼します。」
「ありがとう。」
(...ありがとう。
…礼儀だ。)
ふと、古い記憶。
エルアンの顔。
微笑み。
⸻
「午後は充填場に集合な。
コンテナに運ぶよ。解散。」
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「どうかしたのか?」
ヤオが尋ねてきた。
「朝、ボーッとしていたけど。」
「あぁ、ごめん。あれは、ちょっと気になってることがあってね。」
「話せることなら聞くよ。」
「ありがとう。でも大したことじゃないから。」
ブルル。
携帯が震える。
母からのメッセージ。
カイの背が伸びる。
|父は元気だよ。
カイの背が縮む。
「どうかした?」
「あ、いえ。母にメッセージを送っていたんだけど、やっと返事が返ってきた。」
ブルル。
|いつも通り畑に立ってるよ。
「さて、集合まで寝るか。」
「あぁ、そうしよう。」
ブルル。
|あなたは元気なの?
ブルル。
|ナナもあたしも元気だよ。
(うーん。)
カイは目を閉じる。
(仕事が終わったら返事しよう。)
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酒場『Oasis』
「おぉ、いらっしゃい。」
アブドゥがいる。
カウンターの中に。
カイは目を凝らす。
「不思議そうな顔だな。
いや、店が忙しいって言うから、手伝ってるんだ。」
「ふーん、そうなのか。」
店内は満卓。
店主が奥から出てきた。
炭の匂い。
「うおっ。もうこんなにいるのか。アブドゥ、注文取りに行けるか?」
「了解。んーと、紙と、ペンだな。」
「すみませーん。注文いいー?」
「おーい!ビール二本くれー!」
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ガヤガヤ…
「あぁ、やっと、落ち着いてきたな。
悪いカイ、待たせた。
何飲む。」
「んー、今日もチャパロ。あと、チキンと、揚げバナナ。」
主人が奥から出てくる。
コト、コト、コト。
三皿。
「アブドゥ、あっちのテーブルに持っていってくれー。」
(うわ、めっちゃ、いい匂いい。…はら減ったよぉぉ。)
グゥ。
カイの腹が鳴る。
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シュワー。
木製のカップに泡立つ酒。
ぶつ切りチキンの炭火焼き。
黄金色の揚げバナナ。
カイは目を閉じる。
「ボナペティ。」
片手でチキンを手づかみ。
炭火の香りが漂う。
口へ運ぶ。
無言。
再び目を閉じる。
固く。
骨を口から取り出す。
ゴクリ。
「…んーー。」
目を開く。
「うんまっ。」
低めの声。
揚げバナナに目をやる。
ツヤツヤ。
香りが甘い。
鼻先から口へ。
サクッとして、トロリ。
目を閉じている。
柔らかく。
そして細く開く。
噛む。
ゆっくり。
何度も。
喉を通る。
「あー、うまーー。あまーー。」
⸻
レコードが流れている。
(聞き覚えが、あるような…)
店主に訪ねる。
「この曲って?」
「シナトラだ。古いよな。でもいろんな歌い手がカバーしてる。」
途切れ途切れ。
大きくなったり。
小さくなったり。
「フランス人の置き土産だ。」
(...フランス人。)
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帰り道。
一人。
空を見上げる。
(...月、今日も見えない。)
ブルル。
|ねぇ、早く返事しなよ。元気?
忘れていた。
カイは、携帯を見つめた。




