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navy moon ー月はいつも丸いー  作者: A.O.C.DESIGN
第三章 Plat principal 収穫のあじわい
11/23

第十一話 返 事

シーン。


「返事は?」


「おい、返事だってよ。」


「あ、ハイ!すみません!」


朝のミーティング。


「カイ、ボーッとするな。あと、ヤオ。」

「ハイ!」

「以上の四名は、まずビンの運搬だ。

十一時頃にモルトが到着するから、それまでにやってくれ。

では、本日もよろしく。」


「ハイ!」


全員の声が響く。



ガラガラ…


倉庫のシャッターが上がる。

少しひんやり。


大きなダンボール。

高く積まれている。

きっちり並んで。


(すげぇな、まるでビルだ。)


「カイ、ハンドリフト持ってきて。

オレたちは先に、箱を下ろすから。」


「了解。」


スッ、スッ、スッ。

早足。


ハンドルを掴む。

一歩下がって、レバーを下げる。

二回、上下に動かす。


機敏な動き。


「よっと。」


ガラガラ…

フォークが動き出す。


(えーっと、パレットはあっちだな。)


ハンドリフトのフォークをパレットに差す。


ガラガラ…

メンバーの元に戻ると、

すでに箱がいくつも下されていた。


「よし、じゃぁ積もう。」


ドン、ドン、ドン。

速やか。


「目の高さまでだ。カイ、ちゃんと見渡せるか?」

「はい、大丈夫です。」


「よし、グラグラも、うん、していない。

じゃ、カイ、それは三番目のタンクだ。

足りなくなってる。

よろしく。」


「はい。」


ガラガラ…

慎重に進む。

前と積荷を交互に見る。


ウィーン。

フォークリフトがすれ違う。


倉庫から出る。

日差しが当たる。



ザー、ザー、ザー。

カシャン、カシャン。

ウイーン…


『充填場』


鉄の匂い、そしてアルコールが漂う。


「失礼します。ビン持って来ました。

えーと…

あぁ、あちらでよろしいですね。」


「あぁ、あそこでいい。黄色い線の向こう側な。

良かったぁ、間に合って。

もう無くなりそうだった。」


カイはパレットを下ろす。

(畑と同じだ。線が引いてある。)


ガラス越しに充填場を見る。


(ビールの滝だ。)


回転するビールの滝。

ビンが一列になって流れる。

その先で別の流れと合流。

小さい箱の流れ。

またその先で大きい箱の流れと合流。


鉄のローラーの岸辺に着く。


人が四人。

パレットに積む。


「フン!フン!」

ドッドッ。

「フン!フン!」

ドッドッ。


岸から箱を持ち上げる人。

パレットに積む人。


肉体が、踊っている。


横目で見ながら、カイは足早にハンドリフトを引く。


「あとのビンは、まとめて運ぶそうです。

よろしくお願いします。

失礼します。」


「ありがとう。」


(...ありがとう。

   …礼儀だ。)


ふと、古い記憶。

エルアンの顔。

微笑み。



「午後は充填場に集合な。

コンテナに運ぶよ。解散。」



「どうかしたのか?」

ヤオが尋ねてきた。


「朝、ボーッとしていたけど。」

「あぁ、ごめん。あれは、ちょっと気になってることがあってね。」

「話せることなら聞くよ。」

「ありがとう。でも大したことじゃないから。」


ブルル。

携帯が震える。

母からのメッセージ。


カイの背が伸びる。


|父は元気だよ。


カイの背が縮む。



「どうかした?」

「あ、いえ。母にメッセージを送っていたんだけど、やっと返事が返ってきた。」


ブルル。

|いつも通り畑に立ってるよ。


「さて、集合まで寝るか。」

「あぁ、そうしよう。」


ブルル。

|あなたは元気なの?


ブルル。

|ナナもあたしも元気だよ。


(うーん。)


カイは目を閉じる。

(仕事が終わったら返事しよう。)



酒場『Oasis』


「おぉ、いらっしゃい。」


アブドゥがいる。

カウンターの中に。

カイは目を凝らす。


「不思議そうな顔だな。

いや、店が忙しいって言うから、手伝ってるんだ。」


「ふーん、そうなのか。」


店内は満卓。


店主が奥から出てきた。

炭の匂い。


「うおっ。もうこんなにいるのか。アブドゥ、注文取りに行けるか?」

「了解。んーと、紙と、ペンだな。」


「すみませーん。注文いいー?」

「おーい!ビール二本くれー!」



ガヤガヤ…


「あぁ、やっと、落ち着いてきたな。

悪いカイ、待たせた。

何飲む。」


「んー、今日もチャパロ。あと、チキンと、揚げバナナ。」


主人が奥から出てくる。


コト、コト、コト。

三皿。


「アブドゥ、あっちのテーブルに持っていってくれー。」


(うわ、めっちゃ、いい匂いい。…はら減ったよぉぉ。)


グゥ。

カイの腹が鳴る。



シュワー。


木製のカップに泡立つ酒。

ぶつ切りチキンの炭火焼き。

黄金色の揚げバナナ。


カイは目を閉じる。

「ボナペティ。」


片手でチキンを手づかみ。

炭火の香りが漂う。

口へ運ぶ。


無言。

再び目を閉じる。

固く。


骨を口から取り出す。


ゴクリ。


「…んーー。」


目を開く。

「うんまっ。」

低めの声。


揚げバナナに目をやる。

ツヤツヤ。

香りが甘い。


鼻先から口へ。


サクッとして、トロリ。


目を閉じている。

柔らかく。

そして細く開く。


噛む。

ゆっくり。

何度も。


喉を通る。


「あー、うまーー。あまーー。」



レコードが流れている。


(聞き覚えが、あるような…)


店主に訪ねる。

「この曲って?」

「シナトラだ。古いよな。でもいろんな歌い手がカバーしてる。」


途切れ途切れ。

大きくなったり。

小さくなったり。


「フランス人の置き土産だ。」


(...フランス人。)



帰り道。

一人。

空を見上げる。


(...月、今日も見えない。)


ブルル。

|ねぇ、早く返事しなよ。元気?


忘れていた。


カイは、携帯を見つめた。

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