第十話 オアシス
貨物船が出発する。
大きな音。
ボー。
響く。
耳に、顔に、胸に。
積荷を降ろすクレーンの音まで掻き消す。
港。
「うっ。お、重いー。何が乗っているんだ。」
ハンドリフトのハンドルを後ろ手に、全体重で引っ張る。
額が地面すれすれ。
作業靴が脱げそう。
だが、進んではいる。
ウイーン。
フォークリフトが横を通過する。
「ははっ、頑張れー。」
アブドゥの声援。
それは嬉しい。
だが、重い。
「ハッ、ハッ、ハッ。」
(キツイな、今日は特に。腕も膝も、パンパンだ。)
⸻
「お疲れさん!」
「おつかれー。」
「また明日ー。」
カイは帽子を脱いで、腕で汗を拭う。
(終わった。港の仕事は今日がラストだ。)
「カイ、今日までだったよな。また飲みに行こう。」
「あぁ、そうしよう。」
⸻
酒場『Oasis』。
店内を見回す二人。
すでにテーブルは埋まっている。
「カウンターでいいか。」
「あぁ。」
(カウンター、かっこいいな。
ボトルやら、道具やら、キレイに並んでる。)
「乾杯!」
ガチン!
「次の仕事、何するんだ?」
「明日から一週間、ビール工場。」
「お、それも面白そうだな。」
「やることは同じだよ。積荷を動かすだけ。」
「そうか、でもお前、ハンドリフトの扱い上手くなったよな。」
「ん?そうか?まぁ、同じことの繰り返しだからな。慣れたんだよ。」
(慣れてる人の動きを盗んだんだよ。それと、筋肉がついたな。)
アブドゥの言葉に顔が緩む。
港の仕事は結局、一ヶ月続けた。
「カイがいなくなって、オレも明日はハンドリフトだな。」
「嫌なのか?」
「んー、そう言うわけじゃねぇな、嫌いじゃねぇよ。」
アブドゥがキョロキョロする。
「どうした?」
「ん、何でもない。」
カイもキョロキョロする。
アブドゥが呟く。
「今日は来ねぇか。」
(....あぁ、そうか。)
アヤンダ。
都会の女性。
ここで数回会った。
カカオの仕入れ。
ビーントゥバー。
チョコレート。
⸻
「オレは、さ、仕事は何でもいいと思えてきた。この街に来て。」
アブドゥが両手を組む。
頭の後。
続けて言う。
「アメフト、やりたかったな。」
「アメフト?」
「子供の頃の夢だ。」
「へぇ、そうだったのか。」
意外だった。
将来の夢。
子供の頃の。
「考えたことないな、夢。」
「めずらしいな。ずっと畑で良かったのか?」
「あぁ。父のようになりたいと思っていたからな。」
「そうか....。
いや、でも確かに、クアメさんはすごいと、オレも思う。」
アブドゥは腕を組む。
「あの畑はいつもダントツだった。それは、クアメさんのおかげだよ。」
カイはアブドゥに顔を向ける。
胸が少し、締まる。
⸻
帰り道。
畑を思い出す。
シェードツリー。
マチェーテ。
豆の匂い。
空を見上げる。
飛行機の灯。
どこへ。
ポケットから携帯を取り出す。
母へ送る。
|父さん、元気にしてる?
送信。
返信を待つ。
ボー。
遠くで霧笛がなる。




