著作権を犯しすぎた主人公、異世界でモザイクとなる
そんなことある?って突っ込みたくなるような物語書きたくなって我慢できなくて書いてみました。
推し活をしすぎた人間は異世界でその推しの必殺技を使おうとすると、規制音がなり、その姿に変身する能力を使うと異世界の住民たちからはモザイクがかかったあのドロドロした姿になるそうである。
そんな噓みたいな話誰が信じるかって突っ込みたいのも分かる。でも目の前の彼は実際にその能力を持っているし、ほら何度見してもドロドロして見える!
「見よ!この素晴らしきお姿を!【ピーーー!ピーーーーーー!】」
とてもじゃないが大変失礼なことを承知で言わせてもらえば周囲の誰に対してもお目汚しである。それ以外の何者でもない。だがとてもじゃないがそんなこと彼には誰も強く言えなかった。
なぜなら彼がそのお御業でギルドに乗り込んできた荒くれものたちを気前良く撃退したのだ!
「やるじゃねえか!兄ちゃん!」
「よくやってくれた!あいつら怖すぎてよお!おれたちお前さんのおかげで命拾いしたぜえええええ!」
ああ・・・。むさくるしくも今日もこのギルドは繫盛している。なぜ私は転生してからギルド受付嬢を選んでしまったのだろうか。
元々私はとある有名な漫画の幹部クラスの実力者で、原作が盛り上がるタイミングで無惨にも命を落とした。死んだ瞬間に分かった。ここは漫画の世界だったんだと。
漫画の世界の死神見習いから転生を進められ、転生して2度目の人生を選んだ私は他にも転生者が度々この世界に来ることを偶然知り、おれ強えーーーしにきた人たちに危険人物がいないか見定めるためにこの職についたのだ。
だというのに、ここ10年で転生してきたのは彼ただひとりであった。当初の予定通りに私は今日も彼を見ている。
「こちら、今回の奨励金となりますー。どうぞお受けとり下さい。」
「いいんだぜ!おれ金のために戦ったわけじゃないっていうかー。」
「受け取って下さい(ニコニコニコ)」
「は、はい。ゼナさん。すみません。お騒がせしました。」
無言の圧をかければ素直になってくれるので、いがいと悪いひとではないのだ。こちらもお仕事なので逆に受け取ってもらわないとみんなに対してしめしが付かないので困るのだ。
そそくさと立ち去っていく彼を今日も見送る。今の私の名前はゼナ元はもっと日本人で古風な名前だったが。おっとこれ以上はまずいです。
ほら・・・。なんか天界から降りてきましたよ。
「著作権天使です。今おかしいこと考えませんでしたか?」
「いいえとんでもございませんわ。ちっともこれっぽちも微塵も考えておりません。」
「お気をつけるのですよ。無垢の民よ。人間として超えてはならない境界線があるのです。どうやらあなたは賢い子のようですね。引き続き励みなさい。」
天からの後光が消え去っていく。周りの景色がようやく動きだしもとの世界だと実感する。
そう・・・。これである。この異世界は大変著作権にたいして厳しい処罰がされるのだ。なのにあの転生者はアホなので、ずっと推しといたいとか祈って手に入れたいその転生特典。
あまりにむご、いや失礼。ご苦労をなさっていらっしゃるのです。しかし周りからはそう見えても、彼が鏡を使って自分の姿をみると”推し”の姿をいつでも見ることができるんだとか。
”推し”に対して費やした時間分、その変身したキャラの能力が使えるらしい。もしそれが作中最強キャラの能力ならそりゃあぶっ壊れだろう。ズルいとは思うが、みんなあのモザモザな姿を知っているので誰も嫉妬をしなかった。だってあんなにモザモザなんですよ!?
せめて、誰もが人間でありたいってことは思っているじゃないですか!なのでそれはその・・・。うん。
あまりにもモザモザなので、いつか夕陽のきれいな日に私彼を呼び出してお伝えすることになりました。あまりにも心が痛かったので、セリフは黙秘させて頂きます。
「ゼナさん・・・。そんなに思いつめてしまっていたんですね。」
「ええ、ごめんなさい。佐藤さん。」
「構いませんよ。おれにとってでもこれは譲れないことっていうか。」
なんて返事すれば分からなかったので、コクコクと相槌を2回ほどうっておく。
「ならば、おれはこの能力を【ピクセレーション】と名付けましょう。これで謎のピーーーーー音問題は解決するのではないでしょうか。」
「は、はい。(汗)」
そこが問題なんでしょうかとは思うが、話が長くなるので余計なことに口出しはしない。
あとはそうですね。なにやら考え出したので、失礼しましたと一礼し、私はさきに一人帰宅した。隣の噴水に夕日がさしていて大変きれいだった。夕食の準備があるのだ。考える人になっている男などに付き合う義理はない。
夜満月が輝き出したときに遠くで閃いたーーーー!とはしゃぐ男がいたとかいなかったとかその後の話は私にはしる由もなかった。
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それから5年ほどつつがなく経過…。
思っていたより彼は真面目で良い人だった。ギルドでクエストたまってしまったクエストも2つ返事で必ず引き受けてくれるのだ。ギルド職員からの信頼も厚かった。時間がかかろうとも受けたクエストはほとんど彼は達成してくれるのだから。
だからというか、彼の仕事振りが見込まれギルドマスターからお誘いを受け、ギルド受付嬢らが参加する合コンに彼も度々呼ばれることとなった。
ちなみに彼はそれなりに人気はあるのだが、お相手役となるとさっぱりであった。ときどき【規制音】のBGMが止まらないのと、彼はときどき半日モザイクがかかっていることがあるのだ。
「今はお口チャックですよーー。佐藤さん。」
「は、はい。」
お、おかしい。推し活の話をしていたわけでもないのに、規制音である。おれがいったい何をしたって言うのだ。ゼナさんと話していても何も起こらないのに、他の女性と、話したらこうである。今日はなぜかモザイクが絶好調であった。
よし…帰ろう。モザイクかかってしまうとおれはダメなんだ。また合コン誘われたら、モザイクがかからないように神殿に大金貨を捧げて100度参りしてから参加しなきゃ多分ダメなのだろう。
おれの考えをよそに彼女は美味しそうに食事を足しなんでいた。
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んーこのとんかつみたいな揚げ物美味しい!と頬張っているとなぜか彼が私の顔をジッと見つめていた。
「なにか?」
「もしかして、転生者です?この世界にとんかつなんてものありませんよね。」
「そんなのどうだって良くないです?せっかくの合コンですよ!お相手探しに興味なくても美味しい料理しっかり味わってから帰りましょうよ!どうせ今日ギルマスのおごりですし!」
「ふ、ぶふっはははっ!」
あ、おいゼナ!?後でちょっと話がある。覚えてろよ。とギルマスが呼び掛けていたが私は華麗にスルーした。
突然吹き出したように笑い出した彼の笑顔は本当に純粋で、まわりのみんなにも笑顔の輪が広がって行ってしまった。どういうわけかこの日から彼に私は迷惑にもおもしれー女認定されてしまったようである。
「今日ここでゼナさんはじめ皆さんと食事を楽しめたことを嬉しく思います。」
彼は最後にそう言い残し、そのモザモザさで見えにくかったものの笑顔で帰って言った。私は特に見送ってあげる義理もなかったので、その後も美味しく食事を頂くことにした。
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そろそろ冬将軍が近づいてきた。今日も今日とてギルド受付嬢の朝は早い。いつも同じ毎日で少しマンネリを感じていたときに、この間隣に相席していた彼の忘れ物が届けられていた。
一見するとただのシンプルな1冊のノートである。だがそのページをめくればモザイクで溢れかえっていた。天地がひっくりかえってもあの人の物ねと同僚のジェニファーが言っていた。私もそう思う。
いったい何を書いているのやら。個人情報を勝手に見るのを申し訳なく思いつつも少し中を覗いてしまった。
めくって3ページめになぜか私の前世の名前を見つけてしまった。
ドアが勢い良くあき、彼が受付まですっ飛んできた。
「ゼエゼエ…。ゼナさん。ここに昨日大事なノートを忘れて言ってしまって!届けられていませんか?」
「もしかして…このノートですか?」
ありがとうございますと嬉しそうな笑顔で受け取ってクエストに出掛けた彼。
いったい私のなにを書いていたというのか。じっくりと読む時間もないままノートは彼の手に渡ってしまっていた。
仕事終わり、私は普段ならすぐに帰路につくのだが、どういう訳か城門の前まで彼を迎えに行ってしまっていた。なんと言って切り出そうか。まさか盗み見をしてしまい、私があなたの言うところの推しキャラなんですと言うわけにはいかない。彼がどんなにキラキラした目で推しについて話すのかを私は知っているのだ。
恥ずかしい。無理である。いっそこのまま帰ろうかと悩んでしまい、自分らしくもなく通りを行ったりきたりしていた。
「もしかして、ゼナさんですか?」
後ろから今会いたかったが話しかけられたくなかった相手の声が聞こえる。
「佐藤さんですか。クエストお疲れ様です。もう終わったんですか?」
「ええ。先ほどなんとか本日中に終わったので、明日また改めてクエスト終了の報告にいこうかと思ってました。ところでゼナさんも今帰りですか?」
コクりと頷き、佐藤さんと一緒に帰ることにした。なにより今は情報が欲しいのだ。どういった風に話を持っていくのか。頭を悩ましてしまう。
「昔、転生者と話したことがありまして、いろいろ教えてもらってたんです。日本という国があるらしいですね。」
「おおっ!?流石ゼナさん好奇心旺盛ですね!日本知っているのなんか嬉しいですね。」
今は金髪碧眼であるが、私も前世はそちらに住んでたとは言い出せない。こうなったら知らない体を貫くしかなさそうである。彼に私がその推しの誰かとバレたくなかったから。
「サムライって実在したんですか?もしかして、その推しにそのキャラがいたり…」
「ゼナさん。その言葉…待っていましたよ。もちろんいますよ!そう彼女こそその生きざまで全読者を震感させたのです!彼女はつねに笑顔を浮かべていました。それにはふかーい訳があったのです。以下続く…」
彼はこれでもかとその''推しキャラ''の魅力について語ってくれた。独自の見解も織りまぜながら、どんだけ推せるのかしつこくはない程度でプレゼンされてしまう。
「と、言うわけで。おれ○○○さんというキャラが大好きだったんですよねー。」
「も、もう結構です。もう十分ですから。」
自分のことをどれだけ好きでファンであったのかをキラキラした目で語られる側の気持ちになってみて欲しい。もう今この瞬間彼の顔をまともに見返せる気がしないのだ。
だが事実確認はとれた。私の動悸は正常に戻せる。ほら元に戻った。つまり私は彼に恋などしていないのである。
ようやく安心し、彼が前世の私について詳しいこともわかりました。肩の荷がおりた気がして、つい…邪推してしまったのです。
「まさかとは思うのですが…佐藤さんが言う推しって今話に上がっていた彼女だけではないですよね。」
分かりますかと澄んだ目で彼は答えてくれた。
「次の推しとの出会いはそれから1年ちょっと後のことでした。その時から私はゲームへの課金もそれなりにし始め…」
ポケットの中の万年筆を握りしめ、私は彼の話を遮ってしまう。
「その次の推しも美人だったんですか。」
ええっとそうですね。彼は不思議そうにそう答える。道ばたのゴミを広い通りのゴミ箱にいれるのを横目で流し見しながら彼の背中を追った。
「美人がお好きなんですねぇ…。へえー。」
突然彼は背中に寒気が走ったのか身震いをし、あたりを警戒しキョロキョロし始めた。
「これは、おれの尊敬する友人の受け売りなんですがね。推しって増えるほど人生が豊かになるんですよ。ビジュアルが好き、立ち居振舞いが好き。その生きざまに勇気をもらえるなどなど。みんな違ってみんな良いんですよね。」
思わず万年筆のキャップをあけてしまっていたが、やっと冷静さを取り戻し再びコートのポケットから手を取り出した。もちろんその手にはなにも持っていなかった。
「今まで"推し"のおかげで幸せだったんですね。佐藤さんは。」
はい…。太陽のように輝く笑顔の彼を誰が責められようか。
すっかり日が落ちてしまい、改めてこの街の広さを実感した。普段ここまで足を運ぶことはめったにないのだ。
「今日は天気がよいので、きっと星空も綺麗に見えますよ。」
のんきそうに言う彼をみてため息が1つでた。
「全く。危なっかしいですね。佐藤さんは。仕方がないですね。夜職のこれまた美人なお姉さんに捕まったらいけないので、私が家まで送って差し上げますよ。」
ええっそんなことないけどなあとボヤく彼をしり目に前を先導して歩く。
これは…私の良いところをたくさん褒めて下さったあなたへの、お返しですよと心のなかでお礼を言った。
「女性が夜1人で出歩くと危ないので、ゼナさんのことお送りしますよ。」
平気な顔してご親切にも気遣ってくれている。きっと私があなたが思ってい数倍強くて、危険な人物であるとはあなたは思いつきすらしないのだろう。
「あら。紳士ですのね。ではお願いします。」
冬が近く日も落ちているのに、街灯の下を通るときに綺麗な蝶々が私の髪の前を掠める。その時偶然にも振り返って私を見ていた彼は、なにか思いついた顔をしていたが、やがて気のせいだろうと肩をすくめる。
そう佐藤さんあなたは気付かなくて良いのです。私のこの気持ちがなんなのか今の私には分からないから。だから…待っていて下さいね。そう長くはお待たせしませんから。
彼に本当のことを打ち明ける日は来るのでしょうか。全てを知ったときに彼のうろたえぶりが容易に想像でき、思わず笑いがこぼれた。
フフッ。私は少し性格が悪いみたいですね。でもこれが私の今のせいいっぱいなのです。これからの私に期待していて下さいね。
「では私はここで。もうすぐそこですので。」
「お気をつけて。ではまた明日。」
「ええ…また明日。」
通りを曲がってすぐに彼が誘われている声が聞こえてきた。
「お兄さ~ん。私といいことしない?」
「すみません。今晩は推しの誕生日なので。早く家に帰らないと。」
「え…なに?推し??」
「これにて失礼します。それでは。」
スタスタスタと足音が遠ざかっていく。
彼…らしいですね。そう言えばと、私は前世の誕生日を思い出したのだった。
読んでくれてありがとう♪




