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『三郎の初夢と三頭の馬とプレスマンいろいろ』

作者: 成城速記部
掲載日:2026/01/01

 ある年の正月、長者様が三人の息子に、どんな初夢を見たか尋ねました。総領息子は、速記道具の商いで大もうけする夢を見たと答え、真ん中の息子は、速記者を集めて宴会を開く夢を見たと答えましたので、長者様は、速記にかかわる夢を見るなんてなんと縁起がいいのだと喜んで、三郎にも、夢を尋ねました。

 ところが、三郎は、夢の話をしたがりません。長者様が、初夢を見なかったのかと尋ねると、三郎は見たと答えます。忘れてしまったのかと尋ねると、ちゃんと覚えていると答えます。では、話して聞かせよと言うと、話したくないと言うのです。兄たちも参加して、話させようとしましたが、三郎は、意外なほど頑固に、初夢の話をすることを断るのです。いかにも険悪な雰囲気が漂い、しまいには長者様は怒ってしまい、三郎を追い出してしまったのでした。

 正月なので、三郎は、とりあえず、初詣に行きました。困ったときは神頼みに限ります。というか、お宮で、何かふるまいでもないかと期待したのです。残念ながら、大したものにはありつけませんでした。酒粕と水飴を混ぜたような飲み物と、ほぼお湯と言っていい番茶が飲み放題でしたので、三郎は三杯ずつ飲みました。

 そこへ、大勢の家来たちを引き連れた、お姫様が初詣にやってきました。このあたりのお殿様のお姫様です。取り立てて着飾っているというわけでもなかったのですが、やはり目を引きます。三郎も、失礼に当たるかもしれないという常識を忘れて、つい目を奪われてしまいました。

 お姫様のほうも、三郎を見ていました。気に入ってしまったのではありません。お姫様は、さすがに、身分違いの恋などには落ちません。実は、父であるお殿様から、密命を帯びていたのでした。実は、最近、お城に鬼があらわれて、お姫様を嫁にもらいたいと申し出たのです。鬼というのは、恐らく、本当の鬼ではありません。鬼のような怖い顔をした男であるとか、南蛮人であるとか、多分、そんなところです。ともかく、お殿様としては、気乗りがしませんでしたので、断りました。しかし、鬼は諦めません。お殿様の前に一本のプレスマンを放り投げまして、このプレスマンのどちらが根元でどちらが先かわかるか、という問題を出しました。お殿様はもちろん、家来たちも、そりゃ、芯が出るほうが先だろうと思ったのですが、そんな簡単な問題が出るわけがありませんので、その意図を図りかねて、お姫様が初詣に行くに当たって、知恵のありそうな者を城に連れて帰るように命じていたのでした。

 お姫様が、三郎に、この問題の答えがわかるか尋ねますと、三郎は、しばらく考えて、答えました。お姫様、木というものは、丸太にしたときに、もと根っこに近かったほうがもと先っぽに近かったほうよりも、重たいのだそうで、真ん中にひもをかけて持ち上げると、縦になってしまうのだそうです。プレスマンは、芯が出るほうに金属の部品がついていますから、真ん中で吊り上げると、金属の部品のついているほうが下になります。これを比喩的に見て、芯が出るほうを根元というという意味ではないでしょうか。お姫様は感心しました。鬼の出した問題は、恐らくとんちですから、理屈がつけばいいのです。お姫様は三郎にお城まで来るように頼み、三郎は、とりあえず、宿と食事を確保しました。

 お殿様が鬼に遣いを出し、三郎の答えをぶつけてみますと、見事に正解でした。お殿様は、遣いの報告を受けて安心しましたが、遣いの者は、第二問が出たことをお殿様に伝えました。確かに、一問しか出さないなどと、鬼は言っていません。第二問に際し、鬼は、馬を三頭連れてきて、この三頭を並べろという問題を出しました。馬は黒い馬が一頭と、白い馬が二頭でしたので、問題を聞いた家来たちは、黒を真ん中にして、左右に白を置くのが正しいと考えました。しかし、それでは、答えが余りにも簡単です。お殿様は、三郎を御前に召し出し、問題を伝えました。三郎はしばらく考え、白い馬には何か区別できる文字のようなものが書かれていなかったかを家来たちに尋ねました。家来たちの一人が、白い馬の横っ腹に、午、という文字が書かれていたことと、片方の白馬の午の字は、わざと切れ切れにしたような変な形だった、ということを思い出しました。別の家来が、黒い馬にも、午、と書かれていたこと、文字が少しかすれて見えたこと、を思い出しました。三郎は、それでわかった、と言ってひざを打ちました。お殿様、三頭の馬は、年齢が違います。プレスマンは最初、黒しかありませんでした。次いで赤や青と一緒に白がつくられましたが、今は黒と白しかありません。色つきのプレスマンが製造中止になったとき、値上げがなされ、そのときに、プレスマンと書かれた文字の書体が変わるなど、変更があったのです。つまり、三頭の馬は、プレスマンをあらわしているのです。三頭のうち、黒が一番年かさで、文字が切れ切れの白馬が一番年少です。黒を先頭にして、馬たちを一列に並べるのが、正しいと思います、と答えました。お殿様は、三郎の言うとおりにするように家来たちにお命じになり、鬼のもとへ遣いを出したところ、またもや正解でした。遣いの者は、自分が手柄を立てたかのように、うれしそうに戻ってくると、お殿様に第三問が出たことを伝えました。しかも、今度は、鬼の館まで来いというのです。お殿様は、三郎に、家来たちに混じって鬼のもとへ行き、第三問を解くように命じ、三郎はそれを引き受けました。

 鬼の館へ到着すると、庭に通され、そこには、鬼の家来たちが勢ぞろいしていました。鬼は、プレスマンを矢にして弓を引くと、土壁に矢、つまりプレスマンを射込みました。そうして、この矢を抜いてみろ、と言うのです。そんなに難しくもないと思ったので、家来たちの一人が、矢、つまりプレスマンに手をかけますと、鬼が、ただし、芯を折るなよ、とつけ加えました。鬼は、芯を出した状態のプレスマンを土壁に射込み、芯を折らずに抜けと言うのです。家来たちは、少しも考えることなく、三郎を見ました。三郎は、少しも考えることなく、家来たちに、壁を壊すように言いました。鬼の館は、風通しがよくなり、プレスマンの芯は、折れずに取り出されました。

 一瞬、悔しそうな顔をした鬼は、馳走を用意したから食べていけ、と言って、三郎と家来たちを座敷に上げました。そこそこの料理と酒が運ばれてきて、家来たちは、座敷で眠ってしまいました。鬼の家来が、布団を用意してくれたので、三郎も、寝ることにしました。夜中に、鬼が、三郎の頭に何かを結んでいったのに、三郎は気がつきました。三郎は、夜が明けるとすぐに、池に顔を映して、まげに色のついたこよりが巻いてあるのを見つけました。恐らく、ほかの家来たちから三郎を区別するためのしかけです。三郎は、鬼の館の中から、似たような紙を見つけ、ほかの家来たちのまげにつけました。しばらくして、朝食が運ばれてきて、包丁を持った鬼が、家来たちと三郎の頭を見比べた後、首をかしげて奥へ戻っていきました。鬼は、家来たちと三郎が、勝利者として帰っていくことを、認めざるを得ませんでした。

 無事にお殿様のもとへ戻った家来たちは、三郎の知恵を褒めたたえると、お殿様は、三郎に、わしが今考えていることがわかるか、と尋ねました。三郎は平身低頭して、謹んでお受けします、と答えました。お殿様は大笑いして、三郎を、お姫様の婿に迎えました。

 婚礼の式には、三郎の両親も列席しましたので、三郎は、父親の前に出て、夢の話をしなかったことをわびました。父親が、なぜ、夢の話をしなかったのかを改めて尋ねますと、三郎は、実は、お姫様の婿になる夢を見たのです。人に話すと正夢にならないと言いますので、きょうまでお話しできませんでした、と言い、父親は、自分の不明をわびて、お殿様の義理の息子となった我が子に、深く礼をしたのでした。



教訓:家来たちの頭にこよりをつけて回らずに、三郎が、自分のこよりを外してはいけなかったのだろうか。それはさておき、午年の正月にふさわしいめでたい話である。

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