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目を閉じると本当に君がいた

掲載日:2025/11/18

彼女が亡くなったのは、事故だった。


ちょっと散歩してくる、と言い残して、

そのまま彼女は帰らぬ人となってしまった。


もう葬儀も終わって、

壺に収まるほど小さくなった彼女に、もう何ヶ月も毎日手を合わせているが、実感は全く無い。


僕は毎日毎日、彼女に会いたいと願いながら眠りについていた。


そんなある日の朝、ふと目が覚めると、

隣に彼女がいる気がした。


驚いた僕は、思わずベッドから転げ落ち、痛みに目を(つむ)った。


すると、なんと暗闇の中に彼女がいるのだ。


ハッとして目を開けると、

いつものがらんとした部屋で、もちろんそこには誰もいない。


「なんだ、勘違いか…」

と独り言をつぶやき、まばたきをすると、


いるのだ、目の前に彼女が。


僕は驚きつつも、嬉しくて涙が止まらない。

目を(つむ)りながら、彼女に話しかけた。


「なんで、突然いなくなっちゃったんだよ…!!

僕を一人にしないでよ…!!ずっとずっと寂しかったんだよ…!!」


すると暗闇の中で彼女は、うんうんと頷きながら、僕の頭を撫でていた。

だが、彼女の声は聞こえず、撫でられている感触もない。


どうやら、お互いの姿が見えてはいるが、話したり、触ったりなどの物理的干渉はできないらしい。


それでも、嬉しかった。


それから僕は、彼女と色んな所へ出かけた。

彼女が行きたいと言っていた、遊園地、海、プラネタリウム……


僕はひと時も彼女から目を離さないために、極力目を(つむ)っていた。

そのせいで、ある時はバスを降りそびれたり、ある時は仕事に遅刻したりしたが、構わなかった。


彼女とまた過ごせる、

それがなにより幸せだった。


しかし、幸せな日々が続いたある日、

僕は遅刻の多さのことで、会社から厳重注意を受けてしまった。


とぼとぼと帰宅する帰り道、

目を閉じる度に彼女が心配そうな表情をこちらに向ける。


「ごめんごめん、大丈夫だよ。これからは気をつけるから」

僕がそう言うと、彼女は考えごとをするような仕草をして、俯いていた。


「大丈夫だって!君がいてくれるんだから、どうにかなるよ!」

と僕が言うと、彼女はなんとも言えない表情をした。


そして、口パクで、

『あ、り、が、と、う』

と言ったように見えた。


突然のことに驚いた僕は、何か言おうとしたが、

次の瞬間、まばたきをしても彼女はそこにはいなかった。


僕は慌てて目をこすったり、何度もまばたきをしたが、無駄だった。


僕は、往来の行き交う道で、人目をはばからず泣いた。





ーーーそして数年後、

僕は彼女の墓の前に立っていた。


ようやく心の整理がつき、彼女に別れを告げに来たのだった。


「こちらこそ、ありがとう」

そうつぶやいた僕は、彼女の好きだったスイートピーの花束を置いて、その場を立ち去った。


どこからか、彼女の声で、

「元気でね」

と、聞こえた気がした。

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