目を閉じると本当に君がいた
彼女が亡くなったのは、事故だった。
ちょっと散歩してくる、と言い残して、
そのまま彼女は帰らぬ人となってしまった。
もう葬儀も終わって、
壺に収まるほど小さくなった彼女に、もう何ヶ月も毎日手を合わせているが、実感は全く無い。
僕は毎日毎日、彼女に会いたいと願いながら眠りについていた。
そんなある日の朝、ふと目が覚めると、
隣に彼女がいる気がした。
驚いた僕は、思わずベッドから転げ落ち、痛みに目を瞑った。
すると、なんと暗闇の中に彼女がいるのだ。
ハッとして目を開けると、
いつものがらんとした部屋で、もちろんそこには誰もいない。
「なんだ、勘違いか…」
と独り言をつぶやき、まばたきをすると、
いるのだ、目の前に彼女が。
僕は驚きつつも、嬉しくて涙が止まらない。
目を瞑りながら、彼女に話しかけた。
「なんで、突然いなくなっちゃったんだよ…!!
僕を一人にしないでよ…!!ずっとずっと寂しかったんだよ…!!」
すると暗闇の中で彼女は、うんうんと頷きながら、僕の頭を撫でていた。
だが、彼女の声は聞こえず、撫でられている感触もない。
どうやら、お互いの姿が見えてはいるが、話したり、触ったりなどの物理的干渉はできないらしい。
それでも、嬉しかった。
それから僕は、彼女と色んな所へ出かけた。
彼女が行きたいと言っていた、遊園地、海、プラネタリウム……
僕はひと時も彼女から目を離さないために、極力目を瞑っていた。
そのせいで、ある時はバスを降りそびれたり、ある時は仕事に遅刻したりしたが、構わなかった。
彼女とまた過ごせる、
それがなにより幸せだった。
しかし、幸せな日々が続いたある日、
僕は遅刻の多さのことで、会社から厳重注意を受けてしまった。
とぼとぼと帰宅する帰り道、
目を閉じる度に彼女が心配そうな表情をこちらに向ける。
「ごめんごめん、大丈夫だよ。これからは気をつけるから」
僕がそう言うと、彼女は考えごとをするような仕草をして、俯いていた。
「大丈夫だって!君がいてくれるんだから、どうにかなるよ!」
と僕が言うと、彼女はなんとも言えない表情をした。
そして、口パクで、
『あ、り、が、と、う』
と言ったように見えた。
突然のことに驚いた僕は、何か言おうとしたが、
次の瞬間、まばたきをしても彼女はそこにはいなかった。
僕は慌てて目をこすったり、何度もまばたきをしたが、無駄だった。
僕は、往来の行き交う道で、人目をはばからず泣いた。
ーーーそして数年後、
僕は彼女の墓の前に立っていた。
ようやく心の整理がつき、彼女に別れを告げに来たのだった。
「こちらこそ、ありがとう」
そうつぶやいた僕は、彼女の好きだったスイートピーの花束を置いて、その場を立ち去った。
どこからか、彼女の声で、
「元気でね」
と、聞こえた気がした。




