表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1.逆光と逆行



 俺こと茶屋道(ちゃやみち)(しゅう)はオタクである。

 二次元という存在に溺れに溺れた俺は、現実の人生のほぼ全てを消費してオタ活に励んできたと自負している。

 休日は近所の中古ショップに寄って漫画やらゲームやらグッズやらを買い漁り、平日は平日で仕事の合間にコンテンツを消費し、働いた金は貯金などせず思うままに使い切っていた。

 どうせ親兄弟、親族なんてのもいないし太く短く生きようと思った結果だ。


 初めは現実がクソだから、と逃げた先であったが今では心のオアシスと言っていいレベルでいろんなものに手を出した。

 借りている部屋は一人暮らしのくせにそこそこ広く、寝室として使っている部屋以外は収集した作品やグッズ置き場になっている。

 特にファンタジーというジャンルは胸が躍った。

 異世界ファンタジーも大好きだが、現代ファンタジーの方が好みに合った。

 そう言った作品はネット小説に多く、何より無料で読めるから好みに合わない作品に金を使う必要もない。

 更新をチェックしたり、好きな作品が書籍化、漫画化、アニメ化などのメディミックスをすることになれば初版を手に入れて、書籍版の加筆で登場人物たちの知らない一面に驚いたりもした。

 なんなら10年くらい前に気の迷いでちょっとだけ自分でも書いていたこともある。

 

 さて。

 そんな俺だが、この度あっけなく死んだ。

 40歳目前、ちょうど誕生日の前日だったと思う。

 とんでもない台風が襲来していてとても歩けるような状態ではなかったが、食料が枯渇していたから仕方なく外食しに車に乗り込んでファミレスで適当に済ませた。

 そして外に出て階段を降り切ろうとした時、自転車が強風で吹き飛んできて咄嗟に身をかがめようとしたところに自転車が激突。

 そしてそのまま倒れ込んで階段で頭を強打。

 救急車で搬送されるも、そのまま死んだらしい。


 なぜ死んだ人間が自分の死因をここまで正確に知っているのかといえば、目の前の神様と名乗る存在が教えてくれたからだ。


「はい、神様ですよ〜」と間延びした声で俺に話しかけてくる、後光が強すぎてもはや人型の光源とまで言えるレベルで光ってる人物がどうも死後の案内をしてくれるらしい。



「貴方は死にましたので、本来は三途の川を渡って記憶などを洗い流す必要があるのです。でも実はですね、私の子がですね、神としての独り立ちが近いのですよ〜」



 その後この光源は説明を続けた。

 要約すると、光源の子が独り立ちするからパラレルワールドを任せるつもりだが、この度そのパラレルのちょっとした変更点に選ばれたのが俺とのこと。

 しかも転生先の才能パラメーター振りまでさせてくれるらしい。

 自称神様は「世界の中でたった1人天才が多く産まれるだけで、世界は結構違うものになったりするんですよ〜」と言った。

 さらに、死んだ人たちの中で俺を選んだのはそれなりに理由があるそうなのだが、パラレルの分岐点として選ばれただけで好きに生きていいらしい俺には関係ないと思ってあまり聞かないことにした。


 俺の使えるパラメーターのポイントはきっかり10,000ポイント。

 神様は目安として、例えば芸人ならあの有名な大御所は芸能関係のパラメーターでポイント換算するとこのくらいの才能があるとか、ポイント振りしなかったパラメーターは前世でできた範囲までしかできなくなるとか、色々教えてくれた。


 色々見て、色々考えてから、とりあえず見た目の美しさに振れるだけポイントを振っていたが、1つ心残りがあったなとふと思って、それならばと残りのポイントをその心残りに関係しそうなものに均等に振ってみた。

 と言うかちょっとギリだったけど全部カンストできた。

 あとほんのちょっとだけ余ったポイントの使い道に迷っていた時に目に留まったのが、女性に生まれると言う項目だ。


 何を隠そう、俺はTSというジャンルと属性がだぁいすきなのだ。

 ネット小説でもファンタジーの他にTSタグを必ずつけて検索していたし、なんなら俺自身のTS願望すらあるレベルでTSが大好きだ。

 ポイントもそれで余っていた分ピッタリだった。

 正直、俺の理想の来世を作れたと思う。


 ポイント振りも終わったので自称神様の光源に話しかけようと思ったら、見える限りどこにもいない。

 キョロキョロしてると、足元に何か書かれた紙と何かのスイッチ?が落ちていた。

 紙には『子育てに戻るので、ポイントを振り終わったらこのボタンを押して来世をスタートさせてくださいな〜』と書かれている。

 なんか色々雑だなこの自称神。

 忙しそうだし、勝手に始めていいと言ってるのだから、このスイッチを押して来世をスタートさせるとしよう。


 スイッチを押したら「ポンッ』という軽快な音を耳にしたあと、気がつけば周囲には見知らぬ子供たちと数人の大人がいた。


 どうやら今世の“オレ”と言う人格の意識は5歳からのリスタートのようで、保育園のお昼寝の時間から目を覚ましたところだった。

 しっかりこの体の記憶もある。

 名前は茶屋道(ちゃやみち) (はる)、2日前に誕生日を迎えたばかりの5歳の今で、幼女の今から分かるくらいに将来が確約された容姿をしている。

 保育園でも家でも基本的に絵本を読んだりお絵描きをして過ごしていて、逆に運動が大の苦手で園庭で遊ぶことは殆ど無い、この年にしてインドアの鏡のような女の子だ。

 他の活発な子たちに引っ張られて遊ぶこともあるが、自分から誰かを誘うことはないコミュ力の低さ。

 まぁ社会性に関係するパラメーターは何も弄ってないから、元の“俺”と同じ程度のカスみたいなコミュ力しかないのは仕方ない。


 さて問題はここから。

 今日は2005年4月4日、オレが死んだ日から約20年と半年ほど前だ。

 いや、オレ逆行転生なんて聞いてないんだけど?

 流石に仕事が雑すぎるぞ、と言いたいところだけど………まぁロクに確認とかせずに飛んだオレにも非はあるし、何より逆行転生もそれはそれでありだ。

 当時のインターネットの空気感がまた味わえたり、未来ではプレミアがついて手が出ないくらいの値段になった商品なんかも定価で買える。

 そして2000年代はいろんな名作が生まれた二次元の黄金期と言っても過言ではない時代だ。

 そんな時代を若い体で楽しめるだなんてなんと素晴らしいのだろうか。

 うん、全然ありだな。

 むしろこれは誰しもが一度は話題にする『昔に戻れるならなにする?』と言う状況、実践できる立場にいる訳だ、もはや行幸まである。


 さて。

 次はこれからなにをするかだけど、オレはもちろんそれを考えながらパラメーター振りをしていたのだ。

 とは言えまだ幼稚園児のオレ、出来ることの幅は親が決めるもので、やれることはとても少ない。

 今世の親の教育方針で楽器教室には最近通い始めたみたいだが、まだまだひよっこ。

 自宅には楽器の類なんて父親が趣味で持っているギターとベース、それと幼稚園で使う鍵盤ハーモニカか。

 今世のオレには1歳の弟もいるから、家でやると「うるさい」と怒られそうだ。

 そうなるともうお絵描きくらいしかやれることがない。

 それならもう仕方ない、お絵描きで絵の練習をしつつ親のお手伝いでもして、いち早くパソコンを使わせてもらえるようにならねば。

 名作コンテンツは今も刻一刻と生産され続けているのだから。

 あ、お絵描きしながら考え事してたらもう帰りの時間だ。




◆◇◇◇◆




 家に帰ってきた。

 自宅や両親は前世と同じだが、両親の年齢が幾分か老けて感じる。

 当然、前世の最後に見た両親と比較してではないく、写真で見た“俺”が保育園の時の両親と比べてだ。

 多分だけどパラレルワールドの辻褄合わせとかの類だろう。

 オレが前世より15年も遅く生まれるにあたって、爺ちゃん婆ちゃん達が晩年婚とか高齢出産とかで両親が産まれるのが遅くなって、さらに両親も似たような理由でオレの誕生年が後ろにズレ込んだんだろう。

 そのせいか前世とは少し趣味が違っているようだ。

 前世の父さんは楽器なんて家に置いてた記憶はないし、仮面ライダーのフィギュアなんて飾ってなかった。

 母さんも母さんで、前世で見てた韓流ドラマには目もくれず何かしらのアニメを見てることが多いし、趣味でやっていた手芸がパワーアップしてるのか、よく服を作っている。

 しかもおそらくコスプレ衣装だ。


 たった数年生まれるのが遅かっただけでこうも変わるものかと思いつつ、家でもお絵描きをする。

 料理はおそらくまださせてもらえないだろう。

 普通に危なっかしくて5歳の子に料理を手伝わせたいとは俺も思わない。

 と言うか普通にシンクに届かない。

 同じ理由で食器洗いと洗濯なんかも出来ないな、物干し竿に届かない。

 掃除、買い物、アイロン掛け、洗濯物を畳むのも、オレが保育園に行ってる間に母さんがやっている。

 色々考えたけど手伝えることなくね?

 これは困ったぞ、両親に取り入る作戦は立案段階で失敗が確定していた。


 あれこれ悩みながら絵の練習という名のお絵描きをしていたら、気が付けば夕食の時間だった。

 ハンバーグ美味しい。



「春、今日はお絵描き上手に出来てたね。それにトマトもピーマンも今日は残さずに食べられてえらいわ」


「ママ、ありがと」



 こうなったら仕方ない。

 お手伝いが封じられている今、やりたいことがあった時の最終手段であるアレを使うしかない。

 食後の食器洗いをしている母さんに近寄って、一言。



「ママ、もっとおえかきじょうずになりたい。おえかきのほんがほしい」



 おねだり、幼子(おさなご)の特権だ。

 対価を支払わずに物をねだる魔法の一種で、相手に貢がせることができる。

 年齢が上がると使えなくなるのだが、5歳の今のオレならまだまだ現役で使えるはず。



「ふふ、わかったわ。明日は一緒に本屋さんに行きましょうね」


「ありがと!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ