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9:城下町で手繋ぎデート




 私とジルの休みを合わせた日、平民の服を侍女に用意してもらい、ブラウスとロングスカートとサッシュベルトに身を包む。

 今日はジルと城下町デート。髪型もちょっと変えて、お忍びスタイルだ。


「おはようございます」

「おはよう、ジル」

「じゃ、みんな行ってくるわね」




 私服に着替えた近衛騎士一人に護衛してもらい、城下町に出かけた。騎士は遠くから見守ってくれるそうなので、話の内容までは聞かれないようでホッとした。 


 広場の近くで二人きりになった。


「ジル、手を出して」

「うん?」


 右肘を差し出されたので、違うわと言ってジルの手を取った。掌を重ねて指を絡める。


「なっ……」

「ふふっ。こっちのほうが平民のデートっぽいわ」

「っ、そう、か」

 

 耳を真っ赤に染めたジルにちょっと寄りかかり、おしゃべりしながら辺りを散策した。


「あれって店?」

「宝石店よ。平民向けの少し安めのところね」

「あっちは?」


 手繋ぎになれてきたころ、ジルはキョロキョロとあたりを見回しては、何の建物なのかと聞いてくるようになった。

 そういえば、お城の敷地からは出たことがないって言ってたものね。たぶん、侍従たちも買い物などに連れて行っていいものか、悩ましかったんだろうね。


 ジルが気になったお店には入ってみることにした。


「こっちはパン屋さんよ。お昼はここのを買う?」

「うん」


 使用人たちに調査したところ、お店で食べるのもいいが、デートなら色々買って広場で食べるのが醍醐味なんだと教えてもらったので、パンはそれに最適そうだった。


 お店に入り、中に並べられた様々な形のパンを見つつ二人で話していたら、店員さんが仲のいいカップルだねと褒めてくれた。


「はい! 二人でわけっこしながら食べたいんですけど、おすすめはありますか?」

「そうだねぇ。タマゴサンドは半分にしやすいね」


 タマゴサンドはバターロールに切り込みを入れてタマゴサラダをたっぷりと挟んだものだった。


「ひとつはこれにしましょ。あとは……」


 店員さんが、ベーコンやお肉類が入ったものは噛み切らなきゃだから、あまりおすすめじゃないよと小声で教えてくれた。ボロネーゼを包みこんだパンなら、手で千切れるからとも教えてくれた。


「あとはねぇ、最近人気なのはこのフルーツサンドだよ」


 薄くスライスした四角いパンに、フルーツとクリームを挟んで斜めに切ったものを指さされた。

 イチゴや桃、バナナチョコやオレンジなどいろんな種類があったので、バナナチョコと桃を選んだ。

 代金を払おうと思っていたら、ジルがずいっと私の前に出て、払ってしまった。


「俺が払う」

「でも……」


 ジルは国からの生活費の援助がないので、働いて得た代金を生活費に充てていた。だから、あまり無駄遣いはさせられないなと思っているのだけど。


「たまには甘えてよ」


 いつもジルに甘えてるのに。


 ――――好き。


 心が愛しさでいっぱいになってきた。危うく口から漏れ出るところだった。ありがとうと伝えて、口を噤む。


 お昼を食べるため、広場に戻っている途中で串焼き屋さんのおじさまに声をかけられた。


「そこのお二人さん、これ持ってきな」

「牛串? 美味しそうね、買うわ」

「いいよ。焼いて少し時間がたってるから乾いてんだ。捨てるよか、広場で仲睦まじく二人で食べて宣伝しといてくれ」

「まぁっ! うふふ、分かったわ。ありがとう、おじさま」


 お礼を言うと、おじさまって柄じゃねぇよと笑いながらも照れていた。再度お礼を行って広場に向かった。 


 広場のベンチに二人で並んで座る。

 とりあえずはむき出しの牛串からよねと齧り付いたとき、頬にタレが付いてしまった。実は串から直接食べるのは初めてで、食べ方の要領が掴めなかった。

 肩さげのカバンからハンカチを取り出そうとしていると、ジルが私の頬についたタレを親指で拭い、それをペロッと舐めてしまった。


「ん、美味しい」


 ――――えっ、ひえっ。


 本当の恋人みたいな行動に、心臓が締め付けられるというか、止まってしまうかと焦った。

 おかげで、その後のパンたちの味をあまり覚えていない。




「次はどこ行く?」

「文具類が見たいのよね」

「ん。行こう」


 ベンチから立ち上がると、ジルが私の方に右手をさし出して「ん」と言った。また手を繋いでくれるらしい。

 指を絡めて、右腕に抱きつくようにして、また城下町を散策してよさげな文具類が売っているお店に来た。


「ビアンカ、何か欲しいの?」

「うん。ペンとインク」


 小声で、それなら皇族専用の上質なものが絶えず補充されているだろうと言われた。


「私のじゃないの」


 どれがいいかなーと見ていると、水色のガラスペンとインク壺があった。雪の結晶の模様が彫られていて、夏は涼しく見えるし、冬は冬で季節的にいい。何より雪はなんとなく思い出深いものだからと、これに決めた。

 レジで包んでもらって、入り口で待っていたジルの下に戻る。


 ジルがなんとなく不機嫌そうにドア横の壁にもたれかかっていた。


「お待たせ」

「うん…………なぁ」


 お店を出て少ししたところで、ジルが立ち止まってしまった。


「ソレ、誰にやるの? プレゼントにしてもらってた」


 その言い方でもしかしてヤキモチを妬いてくれているのかもと思った。


「これね、ジルへのプレゼントよ」

「……………………は?」

「本当は帰ってから渡すつもりだったのに」


 毎日勉強大変だけど頑張ってねと渡すと、頬を真っ赤に染めて、俯いてしまったものの、コクッとうなずいてくれた。そして、これからも頑張るとも、つぶやいてくれた。

 

「さ、そろそろ時間ね。帰りましょ」

「ん」


 デート、楽しかったわねと言うと、ジルがまたコクリと頷いてくれた。

 初デートは最高の思い出になった。




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