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8/20

8:誕生日プレゼント




「ぐえっ。もう締めなくていいわよ」

「デビュタントの日ですよ!? 駄目です」


 今日、十八歳になった。帝国では成人の年齢だ。

 十八歳になると、令嬢・令息たちは近い夜会で社交界デビューをする。

 今日の夜会は何年も前から決められていたので、この日に合わせてデビューしてくれそうな令嬢たちに声をかけまくっていた。

 せっかく莫大な予算が組まれているのだ、皇女のためのデビュタントボールというよりは、みんなのためのデビュタントボールとして予算を使いたい。


 侍女数人がかりでコルセットを締められた。デビュタント用の真っ白なドレスと、ダイヤの宝石とティアラ。久し振りに正装したなぁと鏡の前で、侍女たちの傑作『ビアンカ皇女』を見る。


「うん、いい出来ね。みんなありがとう」


 お礼を言うと、侍女やメイドたちが瞳を潤ませて、お誕生日おめでとうございますと言ってくれた。

 

 部屋の扉がノックされて入ってきたのは、燕尾服に身を包んだジル。

 ジルには、今夜のエスコートを頼んでいた。

 短い黒髪をジェルでピシッと固めて、いつもより少しだけ大人っぽく見える。


「まぁ! ジル、カッコイイじゃない!」

「……どうも」


 皆の前だからなのか、照れてボソリとしか返事をしてくれなかった。

 クスクス笑いながらジルの右肘に左手を添え、ジルの顔を覗き込んだ。

 

「私は? どう?」

「………………綺麗、ですよ」


 無理やり言わせても虚しいかなと思ったけど、予想外に嬉しかった。スンとして言ったジルの耳の先や頬が、ちょっとだけ赤かったからなのかもしれない。


「会場に行きましょ」

「はい」


 皇族専用の入場口に向かうと、お父様が鷹揚に頷いて「うん、美しくなったね」と褒めてくれた。ますますお母様に似てきているらしい。

 たまにしか顔を合わせないお兄様にも褒められた。今日は本当に珍しい日だ。


「いや、流石に愛しい妹の誕生日でデビュタントだからな。カテリーナ姉様も公爵と参加すると言っていたぞ」

「まぁ! お姉様に会うのも久しぶりね」

「プレゼントは後で部屋に届けるよう手配している。楽しみにな」

「うふふ、ありがとう存じます」


 全員が顔出しする必要のある公務くらいでしか会う機会はないけれど、家族仲は普通にいいと思う。

 私を妊娠した直後に病気が発覚し、四歳のときに命を落としたお母様。皆からお母様を奪ってしまったと謝ったときのことをいまでも覚えている。

 お姉様もお兄様も、お父様でさえも、私を抱きしめてくれた。私が生きている、それだけでいいのだと。


 お母様は私を産むために、病気の治療をしなかった。それがお母様の選択だった。


『毎日、楽しく、幸せに生きてね。さみしがり屋のお父様を支えてあげて』


 亡くなる前日、お母様に言われた言葉。

 お父様がさみしがり屋なのかはいまでも謎だけど、皇帝という大きな役割を背負っているお父様や皇太子であるお兄様を支えたくて、ずっとここまで走ってきた。……まぁ、時々息抜きはしていたけど。


 社交界デビュー、つまりは結婚する年齢に達したということ。

 いまは特に政治的な問題もないので、私の婚約者の席は空のまま。

 それでもいつかは誰かに決まるのだろう。帝国に、お父様に有利に働く家の者でいいと伝えている。

 お父様はニヤニヤと笑うだけで「まだ空席にしておくよ」と言うだけなんだけど。




 会場に入場し、お父様の挨拶の後にデビューする令嬢と令息が『デビュタントの抱負』を交えて皇帝に挨拶する。その後は、ファーストダンス。

 ジルは普段からダンスの練習相手になってもらっていたから、いつも通りにおしゃべりしながら楽しく踊った。


 二曲踊って、喉が渇いたのでドリンクなどが並んでいるところから、アップルのスパークリングジュースを取り飲んでいた。


「ビアンカ! 遅くなってごめんね。お誕生日とデビューおめでとう」

「っ、お姉様!」


 お姉様には四人の子どもがいて、一番下の子が二歳のイヤイヤ期絶頂らしく、なかなか家をでられなかったらしい。

 私的には来てくれただけで嬉しいのでお礼を伝える。


「プレゼントは部屋に届けさせているわよ」

「ありがとう存じます」


 我が家のルールのようなもので、誕生日プレゼントはその日の夜に部屋に届けることになっている。お父様いわく、最高の一日だ!で、眠れるじゃないか、とのこと。

 それはなんとなく分かる気がする。

 興奮しすぎて夜更かしになっちゃうのは、お父様的にオッケーらしい。




 夜会が終わり、部屋に戻った。

 私のためにアイスチョコレートを作ってくれていたジルに「ジルからの誕生日プレゼントは?」と冗談で聞いてみた。

 今日デビュタントボールに参加してくれて、エスコートしてくれた。それだけで充分に誕生日プレゼントだった。一生の思い出が出来てふわふわと夢心地だった。


「僕が渡せるのは……時間と体だけですよ。そんなのいらないでしょう?」


 ジルがお父様たちからのプレゼントをチラッと見たあとに、嘲笑めいた顔をした。

 なんでそんなに自分の価値を落すのよ。


「あら、じゃぁ提案通りに、ジルの体をもらうわね」

「ビアンカ様っ!?」


 慌てるミルコを手で制す。別に変な意味はない。

 ジルの体を一日だけもらって、城下町をデートがしたいだけだ。むかしお姉様が旦那様である公爵とデートして一生の思い出になったと聞いていたから。

 護衛は極力減らし、変装してデートがしたい。


 ジルがそういうことならと渋々了承してくれた。

 

 ――――あぁ、興奮して眠れないかも!




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