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1:婚約破棄からの――――?




「陛下、ビアンカとの婚約を破棄したい!」


 ――――は?


 サルメライネン王国との戦争に勝った祝賀会。まぁ、そうはなるだろうと誰もが言うほどに、帝国に対してあまりにも無謀な小国の挑戦だった。

 お父様は無駄な戦争はしたくない派だけど、サルメライネン王国が非道な攻撃を仕掛け帝国民に被害が出たため、帝国最強の騎士団を派遣せざるを得なかった。

 結果は、開戦二週間での終結。


 そんな祝賀会で、婚約者であるカッスリーノ様が、私を無視してお父様に近づき『婚約破棄』を申し出た。しかも右腕には婚約者の私ではない女性を侍らせた状態で――――。




「はぁ、全く意味が分からんな」


 お父様がイスの背もたれに全体重をかけて寄りかかり、気怠そうな表情で会場内を見渡していた。


「そうですわね。たった二週間しかもたないとは、本当に予想外でしたわ」

「お前の婚約破棄もな」

「……そう、ですわね」


 つい先ほど祝いの席にも関わらず、『幼い』という理由で婚約破棄された。確かに私はカッスリーノ様より八歳も年下で幼い。けれど、そこいらの十歳よりかなり大人びていると自覚している。


 カッスリーノ様は、ご自身と同年代の可愛らしいご令嬢を見せびらかすかのように侍らせていた。ナチュラルにイチャイチャしていたので、本当の理由は彼女と恋仲になったからなのだろうけど。


 皇帝の娘と婚約破棄するための理由付けとしては、年齢差は弱すぎる。別の令嬢と恋をしたなども、やはり弱すぎる。

 そもそも、私たちの婚約は国と侯爵家の契約のようなものなので、勝手に破棄できるものではない。普通は。

 カッスリーノ様があまりにもアホすぎて、私もお父様も呆れ返って頷いてしまった。

 

 侯爵家の次期当主はここまで頭が残念なのかと、現侯爵に憐憫の眼差しを送ってしまうほどに。




「――――ビアンカ、どうだ?」

「構いませんわよ、暇ですし」


 婚約破棄された翌日、普通の親であれば傷心の娘をそっとしておくのだろうけれど、皇帝であるお父様には一切関係ないらしい。

 婚約破棄でいろいろと暇になっただろうから、気晴らしに小国の王子を侍従に育てるかと聞いてきた。そんなお父様の言葉を引用して答えると、ニタリと笑うのだから性格が本当に悪いと思う。


 その翌週に紹介されたのは、表情が死んだ幼い子どもだった。話しかけても浅く頷くのみ。


「積極的に人質として送ってきたことを鑑みると、継承争いに負けたのだろうな」


 サルメライネン王国は長子継承ではないので、そういうこともあるのだろうと納得。ひとまず部屋に連れて帰り話を聞いてみることにした。

 こういうのは大人より子どもが相手をしたほうがいいと思うのよね。

 子どもらしくないと言われている私がその役割なのか?とかの疑問は横に置くけれど。


「さて。そこに座ってちょうだい」

「……」


 耳の下で揃えた真っ黒な髪をサラリと揺らし、浅く頷くと私が指差した一人掛けのソファにちょこんと腰掛けた。

 ローテーブルを挟んだ向かい側にある三人掛けのソファに座り、彼の顔を覗き込む。少し俯き加減で、表情が読み取れないけれど、何となく悲しみのようなものが見えた気がした。

 名前はジルベルトで、年齢はまだ六歳。そんな彼に状況が理解できているのかわからない。それも踏まえて話を聞きたかった。

 

「ねぇ、ここがどこかは分かる?」

「……」

「私が誰かも?」

「……」


 無言ではあるものの、コクリと頷いてくれるので、耳は聞こえているし、言葉も理解しているのは分かった。状況が状況だから、いまは無理強いをせず、彼が自発的に何かをしたいと思うまでは好きにさせることに決めた。


「まず、そこにいるおじさんはミルコよ」

「おじさんって、ビアンカ様……酷いです」

「私の侍従長ね。彼に部屋と服をもらってきなさい」


 ジルベルトがコクリと頷いてミルコの方を向いて、拙いものの臣下の礼を執った。やっぱり自分の立場をしっかりと理解しているらしい。


 着替えに行ったジルベルトが戻ってきた。さっきまでは一応王子様然としていたが、今はホワイトシャツと短パン、サスペンダーに長い靴下という可愛らしい従僕の格好になっていた。


「うん、似合うわね」

「服はいっぱい用意しているから、好きなものを着ていいわよ」


 使用人の幅からは出ない程度で、様々なデザインを用意させている。毎日同じデザインだと私が見飽きるから。ミルコは毎日同じもののほうが落ち着くと言って断固拒否されたけど。

 ジルベルトは私のものだから、私の好きにさせてもらう。


 何を隠そう、私はお父様からこの話をもらったときから『私の私による私のための侍従育成計画』を発足させていた。


「ジルベルト、こっちに来て」


 私が座っている三人掛けのソファの座面をポンポンと叩くと、また浅く頷いて近寄ってきた。

 本当に座っていいのかわからないのか、少し困ったような表情をしていた。


「座って?」


 もう一度言うと、頷いて隣にちょこんと座ってくれた。


 ――――うんうん、素直で良い子じゃないの!




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