第8話『騎士の試練と隠された視線』
その日、帝国軍から正式に“試練の通知”が届いた。
天城朔夜、異星由来の存在にして、銀河級戦艦アストラ・ヴェールの操縦者──
帝国騎士としての資格を測るための、第一段階。
内容は単純だった。
“魔力適応試験”の実施。
つまり、朔夜の体がこの世界の魔力にどの程度干渉・適応できるかを測るもの。
「試験は、都市北部の訓練場で行われます。術式、体術、精神抵抗、三部構成です」
リィナは淡々と説明したが、どこか落ち着かない様子だった。
彼女自身が懸念しているのだろう。
魔力に適応できない場合、騎士の話どころか、艦の操縦者としての“資格”すら剥奪される可能性がある。
「準備はできてる……たぶん」
「朔夜さん、無理をしないでください。この試験、形式上は“受け入れの儀式”ですが……正直、かなり過酷です」
訓練場は、魔導障壁に囲まれた広大な石畳のフィールドだった。
空中には観測用の魔力球がいくつも浮かび、周囲には帝国関係者や士官候補生たちが集まっている。
注目を浴びているのが分かった。
“異物”を見る目だ。ある者は好奇、ある者は敵意、ある者は……畏怖。
そして──試験は始まった。
「第一試験、術式干渉──開始!」
試験官の声と同時に、目の前の石板に古代文字が浮かび上がる。
これは、魔力を流し込むことで“反応”するらしい。
「ナビス、俺に魔力って流れてるのか?」
《確認中──微弱ながら、“非汚染型魔力因子”が検出されました。あなたはこの世界の魔力に“対立”せず、共鳴しています》
「つまり、俺は“適応してる”……?」
《はい。想定よりも高い適応率です》
そのとき、石板が淡く光った。
試験官たちがざわつく。
「まさか、初見でここまで……」
「魔力因子の変換反応が常人の三倍……いや、これは“純化”だ」
続く第二試験、体術。
魔力を纏った兵士との模擬戦闘だったが、アストラ・ヴェールの自動訓練記録に従って行動することで、最小限の動きで全ての攻撃を“流す”ようにかわした。
加速する相手の動きを読み、足運びと体捌きだけで受け流す。
まるで自分が“動かされている”ような感覚すら覚えた。
「これが……AIとの連携による反応か?」
周囲の視線がさらに鋭さを増す。
最後の第三試験、精神抵抗。
これは一番警戒していた。
幻術により、強制的に精神世界へと引き込まれ、自身のトラウマや執着を暴かれる。
光が弾け、視界が歪む。
周囲の音が消え、地面が崩れ、俺の意識が──“故郷”の記憶に飲まれていく。
夕暮れのキャンパス。
天体観測のノート。
誰もいない研究室。
その空気、匂い、感触までもが“本物”だった。
だが、そこには何かが欠けていた。
「……ナビス?」
《ここは現実ではありません。幻術領域。あなたの脳波が異常信号を発しています》
「わかってる。でも……こんなにリアルだと……」
《それでも、あなたはここにいるべきではありません》
その声に引き戻されるように、意識が浮上した。
目を開けたとき、試験官の一人が呟いた。
「この精神安定度……魔力との融合率が異常だ」
「適応率、96%……これは、魔力因子との“同質化”に近い」
騒めく観客たちの中、俺は静かに立っていた。
帝国の目は、確かに俺を見ている。
ただし、期待ではない。
それは、監視だ。
そして、その視線の中に、一つだけ──異質なものがあった。
格納席の陰。フードを被った少女。
彼女だけは、俺を“知っている”ような目で見ていた。
その視線は、観察や好奇ではない。
それは──“再会”だった。
試験が終わったあと、俺は待機室に戻され、しばらくの間一人きりになった。
沈黙の中、ナビスの声が響く。
《コマンダー。先ほどの少女について、顔認識記録がありません。ですが──奇妙なことに、あなたの記憶の“空白領域”に反応がありました》
「空白……?」
《はい。通常、脳の記憶領域には連続した時間軸がありますが、あなたには幾つかの“不連続”があります。
そのひとつが、あの少女を見た瞬間に微弱な活性を示しました》
「まさか……前に会ってる?」
《それを証明するには、さらなる解析が必要です》
俺は考える。
帝国にとって、自分は脅威。
でもあの少女──あの目は、違った。
知っている。探していた。確信している。
そして彼女の存在は、きっとこの先、俺の選択に大きな影を落とす。
騎士の試練は、単なる通過点に過ぎなかった。
本当の意味で、この世界が“俺”に向き合い始めたのは──この日からだった。
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