第7話『騎士と告げられた名』
22時投稿とありましたが
毎日これから7時と20時に2話投稿します!
翌日、アストラ・ヴェールの整備ブロックでリィナと合流した俺は、妙に落ち着かない空気を感じていた。
彼女の肩越しには、昨日まではいなかった新しい顔ぶれがいた。
剣を腰に下げ、艶やかな赤の軍装を纏った青年。
その隣には、同じく貴族然とした中年の男。
どちらも、俺をまっすぐに見つめていた。
「朔夜さん、紹介します。こちらはエルネス・ライアット卿。帝国軍直属、銀鷹騎士団の副団長です」
騎士団──それは、帝国の中でも選ばれた戦士たちの集団。
その名を冠する者が、今、俺の前にいる。
「初対面で申し訳ない。だが我々は君と、正式に“面会”すべきだと判断された」
エルネスは短く挨拶すると、すぐに本題に入った。
「──天城朔夜。帝国より通達があった。君の存在と、その艦は“認知された”。そして……」
彼は一歩、俺に近づくと、少し声を低くして言った。
「君には、暫定的な爵位を付与することが検討されている」
「……は?」
「この銀河では、艦隊を持つ者は、領地か爵位を持たねばならない。例外は“国家”か、“騎士”のみだ」
エルネスは言葉を切って、俺の反応を待つ。
だが俺には、何が何だか、すぐには理解できなかった。
「まさか、俺を……帝国の“騎士”に?」
「正確には“魔力適応試験”および“忠誠宣誓”を経て、仮騎士位が与えられる可能性がある」
その言葉に、リィナが少し驚いたように目を見開いた。
「それは……帝国民でも異例です。朔夜さんのような異星存在に対して……前例がありません」
「だが、前例がないからこそ、帝国は“枠”を作ろうとしている」
エルネスの視線は鋭い。だが、それは敵意ではなかった。
「君がこの艦をどう扱うか。それ次第で、未来は変わる」
*
その日の午後、俺はアストラ・ヴェールの格納区画で、エルネスと再会した。
彼は一人、艦の外観を見上げていた。
「これは……美しいな」
そう言った彼の声は、騎士というよりも、戦士としての素直な賞賛だった。
「この艦を、君一人で制御していると聞いたとき、信じられなかった。
だが今は分かる。君は、ただの偶然ではない」
「……あのさ」
俺は思わず聞いた。
「俺に“騎士”になる選択肢が与えられたってことは、逆に言えば、拒否すればどうなるんだ?」
エルネスは少し黙り、そして静かに答えた。
「その場合、君は“保留対象”となる。帝国の管理下に置かれ、艦の使用を制限されるだろう。
君が自由に動けるかは、その時の情勢次第だ」
つまり、選ぶ自由はある。
でも、選ばないことで得られる自由は──ない。
「……もう少し、考えさせてくれ」
「当然だ。帝国と契約を結ぶということは、人生を預けるに等しい。
軽々しく決めることではない」
そう言って、彼は最後に一つの言葉を残した。
「だが、もし君が帝国の名の下に“騎士”となれば──君とその艦は、“正式に”この世界で立つことになる」
*
日が暮れ始めたころ、俺は艦のデッキでリィナと並んで夕陽を眺めていた。
彼女は長い髪を風に揺らしながら、しばらく無言だった。
「騎士……名誉なことのようにも聞こえるけど、そう単純でもないんだろ?」
「ええ。騎士とは、帝国の“剣”であると同時に“盾”でもあります。
そして……場合によっては“駒”でもある」
「なるほど」
「朔夜さん。帝国は、あなたを“利用”したいのです。
でも、あなたがそのまま“兵器”になってしまうことを、私は望んでいません」
俺は言葉を返せなかった。
夕焼けに照らされた空には、いくつもの魔導飛行艇が行き交っていた。
どこか遠くで、鐘のような音が鳴っている。
「この世界で、自分の意志で立てる人間はそう多くありません。
あなたは、その数少ない存在です」
リィナの声が、静かに心に響いた。
帝国の騎士になるか──あるいは、それを拒むか。
俺の選択が、この星だけじゃなく、銀河全体の秩序にまで影響するかもしれない。
でも、それでも。
選べるなら、俺は──
この艦と、この意思で、進む道を決めたいと思った。
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