表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/65

第5話『帝国と辺境の現実』


 アストラ・ヴェールの調査がひと段落し、俺はしばしリィナの案内で、要塞都市の内部を見学する許可を得た。

 もちろん“視察”という名目で、監視は付きまとう。


 それでも、ようやく見えた。

 この世界の人々の“暮らし”が。


 魔力水路が走る通り。空に浮かぶ魔導灯。地上では動物型の搬送機が吠えながら資材を運び、空では魔力飛行艇が滑空していた。

 技術は明らかに高度だが、どこか懐かしさを覚える街並みだった。

 蒸気と魔力が混じったような匂いのするこの空気も、だ。


「ここが市民区画です。居住・商業・学術が混在しています」


 リィナの声は淡々としていたが、どこか誇りが混じっていた。


「帝国の辺境領でこれだけの水準なのか」


「はい、もっとも……ここは“維持されている方”ですね」


 ふと彼女の目が陰る。


「……ほとんどの辺境は、もっと荒れています。資源の奪い合い、魔力の汚染、そして小規模な戦闘が絶えません」


 それは、学術書で読んだような、どこか遠い国の話に聞こえた。

 でも今は、足元の地面がそう語っている。


「この星……アリヴェスも例外じゃありません」


 少し先の広場では、軍人と見られる若者たちが訓練をしていた。木剣での立ち回り、魔力球の投擲、そして叫ぶような掛け声。

 その横を、まだ小さな子どもたちが列をなして通り過ぎる。

 皆、静かだ。

 明るさも、無邪気さも、ない。


「戦争が……あるのか」


「あります。星系間の衝突、領土紛争、そして魔力資源の奪い合い。

 帝国は広大ですが、完全に統治しきれてはいません。むしろ、権力は“貴族”たちのものです」


 リィナは立ち止まって空を見上げる。


「この世界に生きる者は、皆、何かと戦っています」


 彼女の言葉が、胸に残った。



 案内の途中、リィナは一件の施設に立ち寄った。

 帝国の調査局支部──要するに、科学者や技術者が集まる研究機関らしい。

 その一室に通された俺は、数人の研究員たちに囲まれる形になった。


「これが……“異星由来の存在”か」


「構造は人間と一致する。だが脳波パターンが……」


「これは観測史上初の──」


 リィナが手を上げて静止を促す。


「質問は一つずつにしてください。彼は“囚人”ではなく、協力者です」


 その言葉がありがたかった。


 結局、簡単な質問と身体スキャンだけでその場は終わったが──

 途中、研究者の一人がぽつりと呟いた。


「この艦と彼が接続されているなら……下手をすれば、帝国の戦略構造すら揺らぎます」


 その言葉は静かに、しかし確実に、部屋の空気を変えた。


 俺は無意識に拳を握っていた。



 日が暮れる頃、再び艦へと戻った。

 リィナと肩を並べて歩いていた俺は、ふと、聞かずにはいられなかった。


「なあ……俺って、このままこの世界でどうなるんだ?」


 リィナはしばらく黙っていたが、やがて小さく答えた。


「……それを決めるのは、あなた自身です。

 でも、ひとつ言えるのは……あなたは既に、“知られて”しまいました」


「知られて……?」


「本日、帝都への第一報が発信されました。あなたとアストラ・ヴェールの存在は、すでに“記録”に残っています」


「じゃあ……もう、戻れないんだな」


「ええ。そして、おそらく──近く、誰かがあなたを“迎えに”来るでしょう」


 それが、どういう意味を持つのか。

 今の俺には、まだ分からない。


 ただ、この世界の“中心”が、確実にこちらを向き始めた。


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!

本日は一気に5話分の更新となりましたが、今後も定期的に続きを公開していく予定です。

朔夜の運命はこれから大きく動き出します──次回の更新もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ