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第53話『星詠みと再起の道標』

第2章もよろしくお願いします

惑星アステロニア=ゼロ。


 主権中枢エルグラード・ノードの制御が完全に掌握されたことで、基地周辺の環境は安定を取り戻していた。




 ナビスの報告によれば、外周センサー網と気候制御ノードが連動し、局地的な気象乱れの抑制と、生活圏拡張に必要なエネルギー配分が可能となったという。人工重力フィールドも正常化され、外周の工事班や生活班の作業は軌道に乗りつつある。




 ブリーフィングルームにて、朔夜はアスファやリィナ、ゼロスらと並び、新たな通信プロトコルの確認作業にあたっていた。




「ナビス、現在の公開チャンネルの到達状況は?」




《帝国中継網、連合共通帯、セラフィエル聖制域境界、加えて未登録圏宙域──すべてに標準送信プロトコルが通達済み。返信待機状態です》




「星として、自分たちが“意思を持つ存在”であることを示すには、この第一声が重要だからな」




 朔夜の声には、かつてよりもわずかに責任の色がにじんでいた。主権継承を果たし、ひとつの星の命脈とともに歩むことを選んだ今、その言葉一つ一つが、未来への選択となる。




 だが、その静寂を破ったのは、予期せぬ方向からの干渉だった。




《警告:惑星外部宙域より、標準波長を逸脱した魔力干渉波を検出。銀河外交コードには未登録の形式》




 ナビスの音声が、わずかに緊張を含んで響く。




「……どこから?」




《解析中──波長解析完了。これは“樹宙同盟語根”による魔導通信──エルフ領圏より到達した信号です》




 その言葉に、場の空気が変わる。




 ゼロスが目を細め、低く言った。




「“星霊の声”か……久しく聞かれなかった、精霊交信型魔力だ」




 リィナが驚きと興味を交えた視線を朔夜に向ける。




「エルフの魔導交信が、ここまで届くなんて……何か特別な意図があるわ」




「交信元は?」




《エルフェリア樹宙同盟、星詠み官房より。使節団の訪問を要請──“予見に従い、継承者と対話を持つため”》




「予見……?」




 朔夜は一瞬、かつての“神託”を思い出した。だがそれとは異なる響き。もっと古く、もっと透明な感触が、その言葉の中に潜んでいた。




「来てもらおう。その声を、ちゃんと聞きたい」


アステロニア=ゼロの空に、星霊の光が舞い降りた。




 午後、迎賓ドームの上空に、光糸をまとったような輸送艦が静かに着陸した。それは樹宙同盟の公式艦──船体は植物繊維と魔導結晶で編まれ、機械的な質感よりも“有機的な意思”を感じさせる姿だった。




 朔夜とリィナは迎賓フロアで待機していた。アスファとゼロスも隣に控え、会談の初対面に備える。




 光門が開かれた瞬間、淡く木の香りが流れ込み、そこから一人の少女が現れた。




 ──ティシェリア・レヴェリオ。




 見た目は十七歳ほど。艶やかな銀緑の髪を肩に流し、精霊交信用の魔導衣を纏うその姿は、絵画の中から抜け出したような静謐さを纏っていた。




 彼女の瞳が朔夜を見つめた瞬間、空気が凛と張り詰める。




「……やはり。星は、貴方を選んだのですね」




 第一声から、確信を伴った言葉だった。




「私はティシェリア・レヴェリオ。エルフェリア星詠み官房にて“兆し”の監査を任されております」




 朔夜が丁寧に一礼する。




「アマギ・サクヤ。この星の継承者──として、あなたと話せることを光栄に思う」




「形式は不要です。ただ、貴方が“旗を掲げた者”であるなら……我々もまた、その意味を確かめに来たまでです」




 そう言って彼女は、静かにホログラム地図を展開する。




 そこには、数十年の星霊観測によって得られた“予見線”──銀河空間に走る無数の交差点が描かれていた。




「貴方の存在によって、今この宇宙の運命線が揺れ始めています」




「それは……いい兆しなのか?」




 ティシェリアは目を伏せ、小さく笑った。




「まだ、そうとは限りません。ただ──この星を通じて、いくつかの“目覚め”が予見されています。神機の起動、古代の遺構、そして……別の“継承者”の覚醒」




 ゼロスが少しだけ顔を上げる。




「……他にも継承者が動いている、というのか」




「確実とは言えません。ただ、貴方の“覚醒”に応じるように、いくつかの星で主権波動の反応が確認されている。それは“再統合”なのか、“衝突”なのか……それはまだ、定かではありません」




 朔夜は言葉を失わず、彼女を真っ直ぐに見つめた。




「なら、俺は選び続ける。“どう生きるか”を」




 その言葉に、ティシェリアは小さく目を見開き──そして静かに頷いた。


会談が終わった後、朔夜とティシェリアは仮設基地の北縁にある展望回廊を歩いていた。そこからは、アステロニアの夜空が一望できた。




 星が、静かに明滅していた。




「……あの光、揺らいでいるのが分かりますか?」




 ティシェリアが夜空を指差した。




 朔夜は目を細め、わずかに波打つ星の輝きに気づく。




「これも……“何かの兆し”なのか?」




「ええ。星霊の流れが不自然です。通常は惑星の自転と引力に沿ってなだらかに循環するのに、今は……まるで“別の意志”に呼応するように乱れている」




「それって……また何かが、起きるってことか?」




「“何か”ではなく、“誰か”です」




 ティシェリアの声が落ち着いたトーンに変わる。




「この星に、もう一つの“声”が届こうとしています。古代銀河連合が封印した──あるいは見捨てた“もう一人の継承者”」




 その言葉に、ゼロスの表情がわずかに動いた。




「……それは、どこに?」




「予見では、アステロニア星系から二星離れた空間断層付近。“存在するはずのない座標”に、波動の歪みが確認されています」




 ナビスがすかさず補足を行う。




《補足:既知の星図に該当座標なし。位置データ補完には調査航行が必要》




「……行くしかないか」




 朔夜は静かに呟く。




「アステロニアの旗を守るだけじゃ足りない。未来から来る“脅威”を知らずにいるわけにはいかない」




 ティシェリアが頷いた。




「貴方が選び取る未来を、我らエルフェリアは見届けます。ですが……」




 彼女はふと、柔らかく笑う。




「……無理は、禁物ですよ? 英雄と呼ばれる者ほど、よく倒れるのですから」




 その言葉に、朔夜は少しだけ肩の力を抜いて笑った。




「心配してくれるのか?」




「してません。ただ、星詠みとして、縁ある光を見失いたくないだけです」




 彼女の横顔は凛としていた。どこまでも高潔にして、まだ少し距離を感じさせる。だが、確かな絆のはじまりだった。







 深夜。アストラ・ヴェールの作戦室。




 朔夜、リィナ、アスファ、ゼロスが集まり、新たな調査航路の確認が行われていた。




「この“存在しない座標”に行くには?」




《現在の航行ルートを基準に、補助航法AI“プロメトラ”による逆位相演算でジャンプポイントを特定中》




「星図外宙域に突入する危険性もあるぞ」




「それでも──」




 朔夜の声に、全員が顔を向ける。




「俺は、“今”を守るだけじゃなく、“その先”も見据えていきたい。もう、誰かが作った秩序に縛られる時代じゃない」




 それが、新たな銀河の継承者──アマギ・サクヤの意志だった。




 そして物語は、再び銀河の深奥へと進んでいく。


《ログ:読了ありがとうございます》


感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。

あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。


また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。

フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。


《次回座標、設定中……》

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