第50話『継承の証と深淵の影』
アステロニア=ゼロの地表に、星の夜明けが訪れる。
だが、その静寂は、これから始まる新たな嵐の前触れにすぎなかった。
《主権継承プロトコル、第二フェーズ完了》
《銀河標準における主権者認証セクション、更新》
ナビスのシステム音声が、朔夜たちの前で淡々と響く。
それは、この星が正式に「誰かの支配下に入った」ことを意味していた。
「……これで、俺たちは本当に名乗りを上げたわけか」
朔夜が低く呟く。
彼の胸には、銀河の重圧と同時に、確かな責任が宿っていた。
*
仮設ドームの中では、簡素ながらも厳粛な「継承宣言式」が執り行われていた。
ゼロスが主導し、ナビスが手順を補佐する形で、銀河標準プロトコルに基づく正統手続きを再現していた。
「アマギ・サクヤ殿」
ゼロスが儀礼用のシグネットを差し出す。
それは古代銀河連合時代から続く、主権者の象徴だった。
「あなたはこの星、アステロニア=ゼロにおいて唯一の継承権を有する者と認められました。いまここに、旗印を掲げ、意志を示す義務を負う者として──宣誓を」
朔夜は短く息を吸い、そして宣言する。
「俺は、この星のすべての存在を、力ではなく、意志によって守る。
過去に縛られることなく、未来へと歩むために」
その言葉が、仮設ドームに静かに響いた。
そして、ナビスが宣言する。
《記録完了──主権登録完了。アステロニア=ゼロ、新主権者アマギ・サクヤ認証》
これが、銀河における正式な名乗りだった。
*
式典の終了と同時に、各勢力の動きも加速する。
《宙商族連合より経済支援プラン提案到来》
《セラフィエル聖制帝国より非公式抗議声明受領》
《第三貴族連合、観測団派遣準備中》
「始まったな……」
朔夜は、連続で届く通信ログを見ながら小さく呟く。
「これからは、“中立”であることすら、言葉だけでは済まされない」
リィナが厳しい表情で続ける。
「セラフィエルは、今後確実に“異端の星”として名指ししてくるでしょう」
「宙商族連合は、表向きは支援だろうが、内心は新しい交易拠点を確保したいだけ」
ゼロスが淡々とまとめた。
そして、そんななかでも、次の問題が浮上する。
*
「……放棄民への接触、そろそろ始めるべきだな」
朔夜はナビスに指示を出す。
北東12キロ地点に存在する微弱な生体反応──
それは、銀河文明の崩壊後もこの惑星で生き延びた、適応変異型人類群である可能性が高かった。
リィナが選抜した探索班が、慎重に接触を開始する準備を整えていた。
「ただし、無理な接触はしない。あくまで“共存”が前提だ」
朔夜は繰り返し念を押した。
*
だが、その最中──
《警告:エルグラード・ノード内部にて、未登録信号を検出》
ナビスが急報する。
「未登録……?」
ゼロスが眉をひそめる。
「封印領域……第零層だ。通常の継承プロトコルでは開示されない、最下層」
「中に、何が?」
「未知だ」
冷たい答えだった。
*
地下第5層。
封印されたゲートが、朔夜たちの前に姿を現す。
それは、今までの遺構とは明らかに異なる雰囲気を放っていた。
扉には、銀河標準では解読不能な古代文字列が刻まれている。
ナビスですら、全解読には至らない。
《推定意訳──『禁断ノ起源 触レシ者ハ運命ヲ選ブ』》
ゼロスが呟く。
「ここは、本来、誰にも開かれるべきではなかった場所だ」
だが、朔夜は迷わなかった。
「この星を守るためなら──何があろうと、受け止める」
そして、ゲートは静かに開き始めた。
*
《記録更新:アステロニア=ゼロ 主権継承段階 第三フェーズ移行》
その瞬間、星と銀河の運命が、またひとつ、大きく動き始めた。
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《次回座標、設定中……》