第49話『静かなる侵食と目覚めの座標』
アステロニア=ゼロの空は澄み渡っていた。
だが、静けさの裏に潜む微かな異変を、誰もがまだ知らなかった。
《報告。惑星磁場に微弱な歪曲波を検出。異常座標展開の兆候あり》
ナビスの冷静な声が、艦橋に響く。
ボイドクラウドを退けた直後の、わずかな安堵の空気が引き締まった。
「歪曲座標……また厄介な話だな」
朔夜はモニターに目を凝らす。
異常座標は、惑星地下の《エルグラード・ノード》付近を中心に拡大していた。
ゼロスが端末を操作しながら呟く。
「この波動パターン、間違いない。遺構内部に封じられていた“深層領域”が目覚めつつある」
「……内部調査を急ぐ」
朔夜は即座に指示を出した。
*
地下第4層、封印区画入口。
厚い封鎖扉が、主権コードに反応して静かに解錠される。
中から吹き出した空気は、ひどく冷たく、古い匂いがした。
「ここが……」
リィナが思わず息を呑む。
内部には、朽ちかけた階層型の制御装置群と、中央に鎮座する巨大なコアユニットがあった。
それは心臓のように脈動しており、ナビスの光学解析にも反応を返してくる。
《主権コード反応を検出。該当:アマギ・サクヤ》
その瞬間、空間に淡く文字列が浮かび上がった。
> "主制御中枢プロトコル再起動──承認待機中"
「認証を……求めている?」
ゼロスが頷く。
「はい。継承者の意志が問われているのです。ここで応じれば、遺構は完全に君の支配下に入る」
「だが同時に……」
「眠っていたものも、目覚めるでしょう」
リィナが緊張した面持ちで口を挟む。
「ここに何が眠っているの?」
ゼロスは静かに答えた。
「──超古代兵器群。かつて銀河連合すら完全に制御できず、封印せざるを得なかったものたち」
重い沈黙。
朔夜は考える。
(支配か、放棄か。星を守るために、どちらが正しい……?)
──だが、選ばなければならない。
彼は静かに、手を伸ばした。
「認証──アマギ・サクヤ。継承者として、応答する」
光が中枢全体を包み込んだ。
*
同時刻、惑星軌道上──
《新たな航跡検出。銀河外縁から、セラフィエル聖制帝国の第七観測艦隊が接近中》
《さらに、連合外交使節団の別働隊も惑星周辺宙域に侵入》
ナビスが淡々と報告する。
「……来たか」
朔夜は静かに拳を握った。
星の“変化”を、銀河は敏感に嗅ぎ取っていた。
だからこそ、彼らは干渉を始めるのだ。
宗教の名のもとに。
交易の名のもとに。
だが、朔夜は知っている。
この星は、もう誰にも譲れない場所なのだ。
*
《記録更新:アステロニア=ゼロ 主権継承段階 第二フェーズ進行》
──形式的な支配権を得ただけだった初期段階から一歩進み、
朔夜は今、星そのものの制御権──古代ネットワークと深層機構への接続権をも掌握し始めていた。
これにより、単なる拠点保持者ではなく、
“惑星の正統継承者”として銀河における影響力を持つ存在となった。
新たな銀河の波乱が、静かに幕を開けようとしている。
第二フェーズ進んだ..
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《次回座標、設定中……》