第48話『星を焦がす意志』
ボイドクラウドの中心核崩壊後、艦橋には一時的な静寂が訪れていた。
だが、ナビスの警告は止まらない。
《警告:微弱ながら残存波動反応あり。クラウドの断片が自律活動を試みています》
「……完全消滅じゃないってことか」
朔夜は静かに息を吐いた。
「ゼロス、どうする?」
「小規模な群体になっただけだ。だが、放置すれば再び拡大する可能性がある」
「封印プロトコル、続行だ」
アストラ・ヴェールのサブシステムが、空間封鎖用の光子ネットワークを展開する。
銀河の夜空に、再び網の目状の封印陣が広がった。
やがて、ナビスの報告が響く。
《残存波動、すべて封鎖完了。クラウド断片、活動停止確認》
「……これで一段落だな」
朔夜は操縦桿から手を離し、深く座席に体を預けた。
*
戦闘後、アストラ・ヴェールはアステロニア=ゼロの上空に静止軌道を取った。
艦内では損傷箇所の修復作業が進められ、リィナとナビスが連携して点検を行っている。
「表層装甲の一部を交換すれば、戦闘能力に問題はないわ」
「内部コア系統も安定しています。ただし、主砲のチャージ効率が若干低下」
それを聞き、朔夜は腕を組んだまま思案する。
「補充資材……地上拠点から引き上げるか?」
「いや、今は急がないほうがいい」
ゼロスが静かに口を挟む。
「本体修復よりも、次に備えるべきだ。あのボイドクラウドは単なる前兆──次に来るのは、もっと異質な存在かもしれない」
「……わかってる」
朔夜は、窓越しに星空を見上げた。
その視線の先には、微かに歪む星間空間──異質な波動の名残が、かすかに脈動していた。
*
同時刻、地表の仮設基地でも静かな緊張が続いていた。
採掘班のアスファは、ヴォルカナイトの精製ラインを調整しながら、ナビスと連携して資源運搬計画を進めていた。
「このエネルギー反応……やはり通常のヴォルカナイトとは異質だ。銀河標準の設備では完全制御できないかもしれない」
「星自体が異質だからな。ここは、特別だ」
リィナは、資源管理モニターを見つめながら呟いた。
そして、その片隅に小さく表示される新たな異常信号──
《未確認小規模魔力波動、北東区域にて検出》
「……また何か、いる」
「ボイドクラウドの残滓か?」
「わからない。だが、慎重に行動すべきだ」
朔夜は静かに命じた。
「探索班、編成しておけ。無理な接触は避けるが、星の異変は放置できない」
「了解」
アステロニア=ゼロ──
この星は、まだ何もかもが未開拓で、未知だった。
そして、その未知の先には、きっとさらなる脅威も、可能性も眠っている。
*
再び静まり返った艦橋。
朔夜は、ゆっくりと拳を握った。
「──何が来ても、この星は守る」
それは、かつてただ星を見ていただけだった少年が、銀河に向かって立てた、確かな宣誓だった。
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