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第4話『銀河貴族と魔力の価値』


 仮滞在──という言葉に安心してしまうほど、俺の感覚はズレていた。


 与えられたのは、要塞都市の北側、魔力機関の管理棟に隣接する小さな居住区画だった。

 内装は最低限だが、魔力灯の明かりは暖かく、ベッドも柔らかい。地球と比べても違和感がないどころか、むしろ静かで落ち着ける空間だった。


 ただし、部屋の外には常に監視兵が二名配置され、俺の移動にはリィナか帝国職員の同行が義務付けられている。自由とは言いがたいが、牢屋暮らしより遥かにマシだ。


 翌朝、ノックと共にリィナが現れた。


「おはようございます。体調はいかがですか?」


「ああ、大丈夫。……慣れないけど」


「では、本日から艦内の調査を開始します。あなたの協力が必要です」


 制服の上に白い研究用ケープを羽織った彼女は、相変わらず隙のない雰囲気だ。

 だが昨日よりも表情が柔らかくなっているのは、気のせいだろうか。



 アストラ・ヴェールの元へ戻るのは、なんだか不思議な気分だった。

 自分の“家”のような、でもこの世界では異物のような──そんな矛盾した存在。


 艦の前には複数の魔導研究員が集まり、周囲には警戒線と防魔障壁が張られていた。地表のスキャン結果らしい魔力図面が空中にホログラムとして浮かび、技術者らが忙しく計測を続けている。


《ようこそ、お帰りなさいませ、コマンダー。お連れ様は、昨日の冷静な観測士殿ですね》


「……ナビス、失礼のないように」


「問題ありません。私は極めて丁寧なAIです」


 リィナは微かに笑っていた。俺がナビスにツッコミを入れる様子も、観察対象として興味深いのだろう。


「まず、艦の外殻に付着した魔力反応を測定します。これは通常の魔導艦でも見られる現象ですが、ヴェールの場合は強度と分布が異常です」


「異常って、どれくらい?」


「この艦を包むように、魔力が“流れている”んです。普通の艦は、魔力を装甲に蓄積させて強化するのですが……」


「ナビス、それってお前がやってるのか?」


《はい。艦の状態を自動最適化する“自己調整フィールド”機能の一部です。ゲーム内のアップデートで追加された仕様でしたが……》


「この世界に、それが“異常”ってわけか」


 俺には当たり前だったゲームの仕様が、この世界の研究者たちには未知の現象になる。

 その事実が、何より恐ろしくもあり、少しだけ誇らしくもあった。


「艦の外部構造は今のところ安定しています。ただし、内部の魔力流動が……奇妙なんです」


「奇妙?」


「まるで、意思があるかのように、魔力が艦内を循環しています。重力フィールドの影響を考慮しても、説明がつきません」


 リィナは魔力測定器を操作しながら、艦表に浮かぶ光のラインを見つめた。


「この艦は、“呼吸”しています。生き物のように」



 艦内の調査は、リィナと研究班数名が交代で入る形で進められた。

 ナビスが警戒しているのか、部外者には基本ルートしか通行を許可しない。だが、それだけでもこの艦の構造が常識外れであることは明白だった。


「通路の配置が動的に変化している……。まるで来訪者に合わせて“再設計”されているようです」


《はい。艦内レイアウトは搭乗者のストレス値や移動履歴に基づいて変化します。ゲーム時代の快適機能ですね》


「それが現実で起こっていることが、異常なんだよな……」


 研究員のひとりが艦内の床パネルに触れた途端、小さな魔力反応を検知したナビスが即座にアラームを発した。


《警告:無断アクセス。アクセスレベルが不足しています。対象を安全エリア外へ退避させます》


 床パネルが瞬時に光り、研究員が立っていた場所が強制的に動かされ、柔らかなクッション状の壁面に「ポイ」と弾かれるように転送された。


「わ、わっ……!?」


「大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫……です……多分」


 状況が飲み込めず混乱する研究員に、リィナが丁寧に説明する。

 その様子は、もはや科学者というより教師のようだった。


「この艦は、許可された存在以外には非常に排他的です。扱いを間違えれば、事故にもなりかねません」


 そして、彼女は静かに俺を見た。


「だからこそ……あなたが必要なのです」


 俺は黙って頷くしかなかった。



 日が傾く頃、リィナと俺は艦外の観測テラスに並んでいた。

 この世界の空は、地球と違って微かに紫がかっていて、空気中の魔力粒子が夕陽に反射して光の粒が舞っていた。


「……綺麗だな」


「ええ。魔力惑星の夕刻は、こうして“光の粒子”が現れるんです。これも魔力の性質の一つ」


 リィナは視線を空に向けたまま言った。


「この艦と、あなたが何者なのか。すぐに結論を出すつもりはありません。でも……あなたはこの世界にとって、確実に特別な存在です」


「……その“特別”が、いい意味だといいけどな」


「それを決めるのは、あなた自身かもしれませんよ」


 彼女の声は柔らかかった。

 初めて会ったときより、少しだけ、距離が近づいている気がした。





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