第46話『星継ぐ者たち』
アステロニア=ゼロの朝は、異様な静けさに包まれていた。
昨日交わされたアグラヴェインからの通信が、基地内の空気を張り詰めさせていた。
仮設司令塔では、ナビスが新たな解析結果を提示していた。
《主権波形の揺らぎは、局所的現象に留まっています。しかし、周辺宙域では未確認ノードの活性化が複数観測されました》
「つまり、銀河のあちこちで……目覚め始めているってことか」
朔夜の言葉に、ゼロスが静かに頷く。
「はい。かつての“主権者たち”の記憶、意志の残滓が、この時代に再び動き出しているのです」
リィナが腕を組み、少し考え込む。
「それだけじゃない。アグラヴェインの行動は、単なる独立じゃない……星系間支配を目論んでる」
「放っておけば、銀河に新たな戦乱を呼び込むことになる」
朔夜はディスプレイに映る星図を睨みつけた。
まだ拠点も生活圏も十分に整っていない今、正面衝突は最悪の選択肢だった。
*
一方、リセリア率いる《カナリアの枝》の住民たちは、徐々に仮設基地への交流を深め始めていた。
作業区画では、彼らが手伝いに加わり、採掘ドローンのメンテナンスや居住棟建設に協力していた。
「あなたたちの技術は……私たちが失ったもの」
リセリアは朔夜にそう告げた。
「でも、私たちにも残っている。星と共に生きる知恵が」
「なら、教えてくれ。この星をどうすれば、無理なく生かせるか」
互いの知識が交わり、アステロニア=ゼロに“新たな文明”の芽が育ち始めていた。
*
だが、その穏やかな時間は長くは続かなかった。
ナビスが緊急警報を鳴らす。
《高エネルギー波検出。アステロニア星系外縁にて、質量異常を伴う時空撓み発生!》
「何が来る!?」
《推定──ボイドクラウド。外縁部より星系内へ侵入中》
朔夜は即座に判断を下す。
「迎撃準備!アストラ・ヴェール、稼働体勢に入れ!」
あの艦──神機と呼ばれたアストラ・ヴェール。
未だ真の力を完全に解放したわけではない。
だが、今この瞬間、この星を守るために必要なのは、まさにその存在だった。
*
夜空を染める闇の雲、ボイドクラウド。
それは単なる自然現象ではない。意志を持つかのように、惑星の磁場を歪め、軌道上の衛星を次々と飲み込んでいった。
「ただの現象じゃない……これは、意志を持ってる」
リィナが震える声で呟く。
「ゼロス、何か知ってるか?」
「ボイドクラウド……銀河連合時代にも記録が僅かにある。異次元境界から漏れ出した“存在”の断片。下手に攻撃すれば、逆に呼び込む可能性も」
「……なら、封じるしかない」
朔夜は艦橋に座り、アストラ・ヴェールの制御パネルに手を置く。
星を、守るために。
旗を掲げたこの地を、誰にも穢させないために。
「行くぞ──アストラ・ヴェール」
銀河に、新たな戦いの火が灯り始めた。
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《次回座標、設定中……》