第45話『星の声と主権の狭間』
交信を受けた翌朝。
アステロニア=ゼロの空は、まるで銀河そのものが鼓動するかのような、微細な振動に包まれていた。
仮設司令塔内では、ナビスによる交信解析結果が報告されていた。
《認識信号“アグラヴェイン・シュラード”は、独自主権コードによる自律領域を確立中。周辺宙域にて未登録ノードの活性化を確認。》
「つまり、あいつも俺たちと同じく、星を継いだってわけか」
朔夜は腕を組みながら、星図に浮かぶ微弱な主権波形を見つめた。
リィナが隣で眉をひそめる。
「でも、あまりに“孤立的”すぎる。通信プロトコルも、銀河標準に合わせていない……」
「警戒すべきだな。下手すりゃ“別の銀河秩序”を作る気かもしれない」
ゼロスが静かに頷く。
「かつて銀河連合が崩壊したのも、主権保持者同士の思想対立が原因の一端でした。注意深く動くべきです。」
*
同時に、アステロニア=ゼロ内部でも、動きがあった。
北東拠点近く──銀河放棄民の末裔と思しき集団が、ついに接触に応じたのだ。
仮設キャンプ地の外れで、数名の偵察隊と共に、彼らは小さな篝火を囲んでいた。
代表と見られるのは、褐色の肌に銀髪を持つ、若き女性だった。
その名はリセリア──放棄民の新興集落《カナリアの枝》を率いるリーダーだという。
「……ここに住まうのは、望んでのことだった。
だが、あなたたちが来た以上、私たちは自分たちの未来を選びたい。」
リセリアの言葉は慎重だったが、その眼差しは確かな意志を宿していた。
「強制はしない。だが、共に生きる道もある」
朔夜の提案に、彼女は小さく頷いた。
「……信じるには、まだ時間が要る。でも……」
彼女は、空を見上げた。
「あなたたちの“星の声”は、嘘をついていない気がする。」
小さな一歩だった。
だがそれは、この惑星で新たな“共存”の種が芽吹いた瞬間だった。
*
その夜、基地上空にて異常が発生する。
《警告:主権波形干渉検出。対象──不明ノードより接続試行。》
緊急コードが鳴り響くなか、ナビスが続けた。
《相手識別:継承者アグラヴェイン・シュラードのサブノード。通信要求:個別認証チャネルにて》
「個別……だと?」
リィナが警戒を強めるが、朔夜は静かに頷いた。
「受けろ。だが、ナビス、即時遮断できるように待機しておけ」
《了解》
短く電子ノイズが走った後、モニターに白銀の仮面をつけた男の映像が映し出された。
『アマギ・サクヤ。銀河に選ばれた者よ』
その声は異様に静かだった。
『我らは交差の道を望まない。だが、避けられぬならば……星と星の間で、血が流れるのみ』
通信は一方的に打ち切られた。
「……脅しだな」
「でも、宣戦布告でもない」
朔夜は息を吐き、空を見上げた。
「いずれ、避けられない時が来る。それでも──俺は、この星を守る」
誰かに従うためでも、誰かに屈するためでもない。
自分で選び、自分で掴んだこの旗を──もう、手放すつもりはなかった。
*
そして、また一つ。
アステロニア=ゼロに、銀河の運命を決める“波”が押し寄せようとしていた。
《ログ:読了ありがとうございます》
感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。
あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。
また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。
フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。
《次回座標、設定中……》