第44話『交差する波紋』
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断層宙域レーン93-βから届いた継承者アグラヴェイン・シュラードの応答。それは、アステロニア=ゼロの基地に新たな緊張感をもたらした。
仮設ブリーフィングルームでは、ナビスの立体投影によって受信データが詳細に解析されていた。
《受信信号:純感覚波形ベース。主権コード同調度43.7%。敵対意思なし。ただし、明確な友好意思も未検出》
データの解釈を巡り、朔夜、リィナ、ゼロス、アスファの四人が慎重な議論を重ねていた。
「純感覚波形……言葉も、映像も超えて、“存在の波”だけで交信してきたってわけか」
朔夜が腕を組みながらつぶやくと、ゼロスが補足した。
「これは非常に高度な意思疎通方法です。銀河連合後期、主権継承者同士でしか用いられなかった形式。通常の言語より誤解が少ないが、意図の“深度”が読み取りにくい」
リィナは小さくため息をつきながら言った。
「友好か敵対か、判断できないまま交渉するのはリスクが大きいわ」
「でも無視はできない。俺たちは“選ばれただけ”じゃないって、行動で示さなきゃならない」
朔夜の言葉に、皆が黙ってうなずいた。
*
アステロニア=ゼロの地表では、主権波形の影響を受けて、新たな現象が進行していた。
北西区画に存在した半埋没の塔が、さらに活性化し始めたのだ。
アスファが率いる工学班が現地調査を行い、報告をまとめる。
「塔内部のエネルギーコアが再活性化しています。どうやら惑星外との“エネルギー転送リンク”を再構築しようとしているようです」
「外とのリンクって……別の星か?」
「可能性は高いです。衛星スキャンでは、既に星間信号の微弱なパターンが複数検出されています。おそらく、他の“継承地”と無意識下で共振を始めている」
その分析に、ゼロスが静かに付け加えた。
「この惑星だけが特別なのではない。銀河のあちこちで、“失われた王座”が呼び起こされつつある」
*
その夜。
基地の通信司令塔では、ナビスとアスファが慎重に信号解析を進めていた。
《新たな波形を検出。識別信号なし。だが、明確な“呼びかけ”が存在》
「誰かが……直接、俺たちにアクセスを試みてる?」
《はい。推測ですが、おそらくは──継承者アグラヴェイン本人からの個別交信》
朔夜は迷わなかった。
「開いてくれ。フィルターだけは最大限に張った状態で」
《了解。通信開放──》
次の瞬間、基地中に微かな振動が走る。誰かが、直接意識に触れようとするような感覚。
(──アマギ・サクヤ)
内耳に響くようなその声は、穏やかでありながら、底知れぬ力を秘めていた。
(我らは争うためにあるのではない。だが、もし志が違うなら、必然として道は別れるだろう)
(君は何を望む──この星、この銀河を、どこへ導く?)
問いかけだけが投げかけられ、返答を要求するものではなかった。
だが、朔夜は応えた。自らの意志で。
「──俺は、誰にも支配されない場所を作る。この銀河に、自分自身で選び取る自由を残すために」
静かに、しかし確かな波が返ってきた。
(……ならば、いずれまた会おう。選択の時は、必ず来る)
通信は、そこで途切れた。
*
通信終了後、仮設司令室に静かな空気が流れる。
リィナがゆっくりと口を開いた。
「本当に……戦う覚悟ができてるの?」
朔夜は、夜の宇宙に瞬く星々を見上げながら答えた。
「戦いが避けられないなら、覚悟するしかない。でも……できるなら、誰も失いたくない」
ゼロスが微かに笑った。
「それが、君らしい」
未来はまだ形を持たない。
だが、選び取るための一歩は、もう踏み出していた。
次なる局面──銀河を巡る“選択の星環”の時代が、静かに幕を開けようとしていた。
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《次回座標、設定中……》