第42話『未知星系の探査と継承の影』
アステロニア=ゼロでの記録庫発見から三日後。星系全体の主権波形に微弱な変動が観測され、それはナビスの解析によって特定の方向に絞られていた。
《主権波形の揺らぎが、アステロニア外縁部──デシマ惑星帯へと延びています。以前のノードと同等か、あるいはそれ以上の規模の遺構が存在する可能性》
朔夜は、ゼロスとアスファを伴って新たな調査チームを編成し、探索艇に搭乗。デシマ宙域への航行を開始した。
艦内ではナビスが周辺空間の重力異常とエネルギー反応を逐次表示しており、リィナは後方支援として仮設基地に残り、連合やセラフィエルの動向を監視していた。
「断層波に近い歪み……ここだな」
《該当地点、惑星デシマ=エイト。自転周期不安定。大気は希薄で酸素濃度は基準値以下。外殻温度−85℃。地表に構造物の影》
着陸を終えると、目の前には氷結した地殻に埋もれるようにして、黒金色の構造物がその姿を現していた。歪みを帯びた幾何学的なアーチ状の建築群。中央には閉ざされた門と、その上部にはぼんやりと浮かぶ六芒星状の紋章。
「……あれは?」
ゼロスが一歩前へ進み、低く呟く。
「第六主権者──“ルクシオン・カイデル”の紋章です。彼の治めた星系は崩壊時、全域が断絶されたとされていました」
朔夜は認証装置に手をかざす。ナビスが即座に反応する。
《主権コード一致──継承者認証中……》
扉が開き、内部から霧のような霊素が流れ出す。その瞬間、艦内通信に割り込むように謎の音声が響いた。
『……観測ユニットへ通達。識別信号:第六領域。記憶断片回収中……』
「通信?」
「違う、これは……AIの思考残響。意思の断片が、未だこの施設のどこかで稼働している」
*
構造体内部は氷結と崩壊の繰り返しで荒れていたが、部分的に再稼働したパネルが点灯し、細い通路の先に楕円状の観測ホールが広がっていた。そこには古代語で記された記録台と、半崩壊した中枢コアが存在していた。
朔夜がその中枢へと近づくと、ゼロスの義眼が淡く光り、再び声が響いた。
『主権者は存在するのか……? 世界は……終わっていないのか』
その声に応えるように、朔夜は静かに言葉を返す。
「終わってなどいない。俺たちは──“継いでいる”」
その瞬間、中枢ユニットの最奥部から、淡い光をまとった人型のホログラムが立ち上がった。顔は判別できないが、背にある装飾フレームと発光する義眼から、それが主権中枢AI──“レムネ=カイデル”であることをナビスが確認した。
《識別:レムネ=カイデル。第六主権補佐AI。状態:崩壊寸前。記憶回路の98.2%断裂》
「まだ……間に合う……記録を……記憶を……」
ゼロスが前に出て、義眼のリンクを拡張する。
「……記録を預かろう。お前の主の想いも、声も」
*
データの抽出は断続的だったが、レムネからは一部の星間交通網、主権者間の連絡暗号、そして失われた“連合議会最終勅令”の断片が回収された。
朔夜は、それらの断片をナビスと統合解析にかけながら、ふと呟く。
「この星もまた、俺たちの前に生きていた誰かが、声を残した場所だったんだな……」
ゼロスは静かに頷く。
「そうです。継承とは、ただ主導権を受け継ぐことではない。声を、意志を、未来に渡すこと」
そしてナビスが、次なる指標を告げた。
《アステロニア・ゼロへ帰還後、残る第三ノードの活性化が予測されます。銀河の継承段階は、いよいよ最終フェーズへ》
《追記:第二フェーズ以降、アステロニア=ゼロでは以下の現象が確認されています──
・惑星核反応域におけるエネルギー循環の最適化
・主権コード信号の周辺宙域への波及強化
・外部ノードとの継続リンク構築(デシマ=エイトとの初接続)
・主権継承候補の認識拡大および他継承波形の探索アルゴリズム自動起動》
惑星を離れ、帰還航路に乗った《アヴィス・ランカー》の艦橋で、朔夜はただ一つ、自らの胸に刻み込んでいた。
(──俺が選ぶ未来は、誰かの絶望ではなく、希望であってほしい)
夜の星系を駆ける光が、新たな継承の軌跡を描いていた。
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《次回座標、設定中……》