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第39話『星環の渦と契約の影』

 アステロニア=ゼロの上空、帝国の制宙艦、セラフィエルの天語機、連合の観測艦が依然として星系の軌道上を旋回し続けていた。地上では、朔夜の手による統治と開拓が静かに、しかし確実に進行していた。


 だがその均衡に、わずかな揺らぎが生じる──


《連絡:星環都市カレルス圏より緊急連絡。第三貴族連合宙域評議会が、“中立領主天城朔夜”に対する条約会議を要請》


「今度は何の話だ?」


《内容は“銀河交易安定協約第22条”の適用提案。連合側は、アステロニア=ゼロを“限定自立宙域”と認定し、領主の外交交渉権を制限付きで正式付与する意向です》


 朔夜は無言のまま、タクティカルパネルを見つめた。


「つまり……俺を“交渉の席に引きずり出す”ってわけか」


「表向きは“同盟関係の確認”ですが、実質は“影響圏への取り込み”でしょうね」


 傍らでリィナが答える。彼女の声音は冷静だったが、微かな警戒がその言葉の端々ににじんでいた。


 ゼロスも頷いた。


「連合にとって、君はただの自由領主ではない。“主権者コード”を持つ存在が、独自に星を掌握している。……これはもはや一つの“可能性”ではなく、“脅威”として認識される段階だ」


 その言葉に、朔夜はわずかに眉をひそめた。


「なら、逆にこっちから仕掛ける手はあるか?」


「はい」


 アスファが手元のホロパネルを操作しながら答えた。


「今回の会議に、連合の高位議員に加えて、“賢者階層”の技術顧問も同席するとの情報があります。連合はこの機会を使って、君の領地に対する『技術提携』と『共同開発権』の打診を持ちかけてくる可能性が高い」


「……つまり、“技術供与”を餌に、支配構造に引き入れるってことか」


「その逆も可能です。こちらから条件を提示し、対等な技術協定として契約を結ぶ道も残されています」


「交渉の場に立つしかないな」


 朔夜は静かに立ち上がった。


「ナビス、通信回線を開いてくれ。“中立宙域代表、天城朔夜”として出席の意志を伝える」


《了解。通信準備完了》



 カレルス星環都市──


 その中心に位置する《ネオ・スファエラ議場》。連合側の臨時協議会はここで開催された。光学フィールドで護られた議場空間には、各星系から招かれた代表者たちが集まり、彼の登場を静かに待っていた。


 朔夜は、リィナとゼロスを伴って入場する。高天井のドームには、透明な壁越しに銀河が広がり、まるでその中心に自分が立っているかのような錯覚を覚える。


 議席の上段。第三貴族連合の高位評議員、オルセリナ・ヴェリクタが口を開いた。


「ようこそ、アマギ・サクヤ殿。我々はあなたの選択と行動を注意深く見守ってきました。今日は、その“方向性”を確認させていただくための場です」


 その声には柔らかさがあったが、内には明確な圧力がこめられていた。


「俺は、自分の旗を掲げた。そしてこの星で、共に生きる人々と未来を築こうとしている。それは誰かに従うことではないし、誰かを拒絶することでもない」


 朔夜の声が静かに響く。


「この銀河の渦に巻き込まれながら、それでも自由に意思を貫こうとする者がいた──その事実を、ここに示すために来た」


 数秒の沈黙。


 やがて、オルセリナはわずかに目を細めて頷いた。


「興味深いご回答ですね。では、我々から一つの提案があります」


 空中に投影される一枚の契約案。


《アステロニア=ゼロにおける中立開発協定》


「あなたの技術力と、我々の流通と行政補助──その交換によって、この星に連合の保護圏としての一端を築く。もちろん、完全な主権譲渡ではありません。一定の自治と表記上の中立は保持されます」


「つまり、形だけ中立で、中身は管理下に置くってことか」


「そう解釈するなら、それも自由です。ですが、これがあなたの民を守る一つの現実的選択肢であることは確かです」


 朔夜は黙って契約案を見つめた。


 だが──


「断る」


 その一言に、議場がざわめいた。


「俺は誰にも背かないが、誰のためでもない。俺の星を守るために、俺の言葉で契約する。それができないなら、どれだけ条件が良くても意味はない」


「……ふふ、面白い方だ」


 オルセリナが唇をわずかにほころばせた。


「では、今後は“対等な関係”を模索するということで理解してよろしいでしょうか?」


「ああ。俺は敵を作りたいわけじゃない。だが、同じ旗の下に立つ者は、選ぶ」


 その言葉に、議場の空気が静かに変わっていく。



 会議のあと、控室にて──


 朔夜は一人、銀河地図を見つめていた。


 ゼロスが静かに近づく。


「……彼らのように、交渉と秩序で星を束ねる者もいれば、神を名乗り、信仰で支配する者もいる。そして君は、そのどちらにも“ならなかった”」


「でも、その道を選んだ以上──いつか、戦いになるかもしれない」


 ゼロスはわずかに微笑した。


「それでも。君は、その旗の意味を知っている。ならば、進め」


 朔夜は頷いた。


 ──次なる波は、すでに押し寄せていた。


 星環は静かに揺れている。


 だがその渦中にあってなお、一つの“旗”が、確かに立っていた。



《ログ:読了ありがとうございます》


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《次回座標、設定中……》

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