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第3話『魔力観測士との邂逅』

今回も読みに来ていただきありがとうございます!

 俺が連れてこられたのは、要塞の一角にある詰所のような小さな部屋だった。

 金属と石材が組み合わさった壁面、簡素だが清潔な机と椅子、そして魔力灯の白い光が無機質に照らす。


 俺は椅子に座らされ、両手の拘束具だけが外されている。

 不快感はあるが、今のところ暴力的な扱いはない。審問室というより、監視付きの控え室という印象だった。


 静かだった。

 俺の心臓の鼓動だけが、自分の耳に響く。


 ──と、扉が開いた。


「失礼します。あなたが“天城朔夜”ですね?」


 入ってきたのは、長い銀髪をまとめた若い女性だった。

 制服のような白と青のローブを身にまとい、その胸元には宝石のような魔力測定装置が輝いている。

 落ち着いた目元と、感情の波を抑えたような声。まるで科学者か医師のような印象を受けた。


「私はリィナ・アルフォード。帝国認証の魔力観測士であり、このアリヴェスの男爵家に仕える者です」


「……はあ、どうも」


 どこか形式的な挨拶だが、言葉の選び方は丁寧で、敵意は感じられない。

 ただし、完全に信用しているわけでもないのが、彼女の立ち振る舞いから伝わってくる。


「あなたの艦──“アストラ・ヴェール”と呼ばれたものの周囲から、非常に強い魔力干渉波が検出されました」


「魔力……って、さっきも誰か言ってたけど、それってつまり、オカルト……?」


「この星では常識です。無知は無礼には当たりませんが、驚かないでくださいね」


 リィナは一歩こちらに近づき、机の上に数枚の魔力測定図を並べた。


「これは、あなたの艦が着陸した際の周囲の魔力変動を記録したものです。通常の魔導艦でも、ここまで高密度な魔力流は検出されません」


 彼女の視線が俺の目をじっと見つめる。


「あなたは一体、何者なのですか?」


 ──その問いは、俺自身が一番聞きたい。

 けれど、俺は少し息を吐いて、答えた。


「天文学を専攻してる、ただの大学生。星を見るのが好きで……気づいたらここにいた」


「大学生……それは地球という惑星の教育機関ですか?」


「うん、そんな感じ」


 リィナは数秒の沈黙のあと、小さく頷いた。


「異星、あるいは次元外の個体……。記録上の理論では仮定されていましたが、まさか本当に──」


 その声には、驚きよりも“観測者”としての冷静な興味がにじんでいた。


「私はあなたを“敵性存在”とは見なしていません。ただ、理解不能な力を持つ存在として、慎重に接する必要がある。それが、私の立場です」


「そっちの方が助かるよ。いきなり銃向けられるよりはずっと」


 思わず笑った俺に、リィナもわずかに口角を上げた──気がした。


 ここから始まるのかもしれない。

 この星、この帝国、この宇宙での、俺の新しい関係が。


 会話がひと段落した頃、リィナは再び資料を手に取った。


「あなたの艦内には、独自の人工知能が搭載されていると記録されていますね」


「ああ、ナビスか。……いるよ、今も通信繋がってる」


《どうも。観測士殿、はじめまして。非合法な取り扱いを受けている我が主の代わりに、抗議の意を表明いたします》


「……こういう性格なんだ、こいつ」


「なるほど、個性が強いですね」


 リィナは静かに、しかし興味深そうにナビスの言葉を記録端末に打ち込んでいく。


「艦体自体に魔力との親和性があること、さらにこのAIがそれを制御している可能性……正直、信じられないことだらけです」


「こっちだってそうだよ。自分のゲームの艦が動いて、喋って、魔力がどうこうって……理解できるわけがない」


 リィナは数秒だけ黙り、そして告げた。


「あなたに、仮滞在許可を出すよう男爵家に要請します。最低限の監視下で、生活と調査を行うことができるように。……今のままでは、誤解が生まれるばかりですから」


「……ありがとう。それ、本当に助かる」


「ただし、一歩でも許可区域を越えた場合は即刻拘束されます。ご理解ください」


「もちろん」


 互いに静かに頷き合う。

 この世界での最初の“味方”が、どうやら彼女になりそうだった。


お読みいただきありがとうございました!



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