第36話『星と記憶の継承』
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アステロニア=ゼロの空に、夜明けの光が差し込んだ。
だがその星を巡る運命は、ますます複雑な渦を巻きつつあった。
漂着した旧型艦の内部。
半壊した隔壁の奥で、もう一体の《サーヴァント・ゼロス》が立ち上がっていた。
その外殻には深い焦げ跡が刻まれ、内部からは断続的にスパークが散っている。
それでも、ゼロスは朔夜の姿を視認するなり、右膝を折った。
「……第八コード……反応を確認……あなたが、継承者……なのか……」
「そう言われてもな。俺はただ、この星を守ろうとしてるだけだ」
ナビスが確認を進める。
《記録照合中。──当該個体は“第七主権領”の補佐機体“ゼロス=ユグ=プロト”である可能性大。連合末期に敵対陣営との防衛線で消失したと記録されています》
ゼロス=ユグが、苦しげに光る義眼を動かす。
「……第七領は、滅びた。主は最後の交信で“後継者が現れる時まで、守れ”と命じた……我は、ただ、それだけを……」
「お前は……ずっと一人でこの星に?」
「……星の記憶と共に。断片化された主の意識を保ち続け、眠っていた」
ゼロス=ユグの語るその言葉は、単なる兵器ではない“意志”の片鱗だった。
朔夜は一歩、彼に近づいた。
「なら、これからは俺と共に来い。俺はお前の主ではない。でも、ここに立つ理由はある」
ゼロス=ユグは静かに頷いた。
「……主の記憶も、それを選ぶだろう。あなたの中にある“希望”を」
*
その頃、基地北東部で編成された接触班が、12キロ地点の熱源に接触していた。
小型移動艇で降下した斥候班の前に現れたのは、装備も衣服も旧世代的な様相を呈する、少数の人々だった。
彼らは言葉を持っていなかった。
しかし、素早く図形と音を用いた通信体系──いわば“意図信号”に切り替え、敵意がないことを示す。
「……銀河言語は通じないか」
リィナが音声記録から周波数解析を進める。
最終的に、彼らが“銀河を離れた後も独自に進化を続けた放棄民の末裔”である可能性が濃厚となった。
彼らは惑星の神経網──つまり、古代遺構と有機的に接続された意識を“信仰”と融合しており、エルグラード・ノードそのものを“母体”と捉えていた。
「……この星は彼らにとって、単なる地面じゃない。“生きている場”なんだ」
朔夜はその報告を受け、こう結論づけた。
「なら、この地で暮らす“権利”も“敬意”も、必ず尊重する」
接触班には、恒常的な交信手段の確立と、相互文化理解のための交流計画が課された。
*
一方、ゼロス本体は《エルグラード・ノード》の中央制御と完全同期に成功しつつあった。
制御核が安定稼働を始め、惑星規模の主権インターフェースが再起動される。
《全惑星防衛システム、コア共鳴反応により同期率85.7%到達。主権フラグ進捗──認証状態:継続中》
「星が、俺たちを受け入れている……」
ゼロスの目が静かに輝いた。
「継承者よ。主権の繋がりは、この惑星だけでは終わらない。“連なる星々”が目覚める」
直後、ナビスが警報を鳴らす。
《外宙域、デシマ惑星帯にて未知信号発生。旧連合データ構造と一致率89%。断片化された人格構成体、名称識別──“ミリタリーコード:シグナ=アウレア”》
アウレア。
それは、古代銀河連合における“第六主権圏”の戦略AI名だった。
「生き残ってる……?」
「断片にすぎません。しかし、それは“呼ばれた”が故の応答」
ゼロスが言う。
「この信号、回収する必要があります。彼女は、主権ネットワークにおける“鍵”の一つ。過去と未来の接点です」
「ナビス、探索船を送ってくれ」
《承認。デシマ帯調査計画を開始──》
*
その夜。
アストラ・ヴェール艦内のブリーフィングルームでは、最新の星系地図と共に、古代銀河連合の旧主権圏ネットワーク図が投影されていた。
そのすべてが、今や眠れる断片として銀河の各地に眠っている。
「俺は、この星に旗を掲げた。
でも今、それ以上に“繋がり”を求められてる」
朔夜の声は、かすかに震えていた。
「だったら──応えよう。
記憶と意志がまだ残っているのなら、拾って、繋いで、もう一度……意味を持たせてやる」
彼の言葉に、ゼロスが静かに膝を折り、改めて主への敬礼を示した。
その背後で、惑星アステロニア=ゼロの夜空が、銀の粒子で描かれるように光っていた。
星は、応えている。
継がれた意志に。
──その先に待つものが、祝福であれ試練であれ。
同時進行でいろいろ起こりすぎだ...
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《次回座標、設定中……》