第35話『記録と継承の断片』
銀灰色の薄雲が、アステロニア=ゼロの上空を覆っていた。
朔夜たちは、前夜に発見された古代艦の漂着座標──惑星外縁の岩塊地帯へ、アストラ・ヴェールで慎重に向かった。
そこには、まるで時空の綻びからこぼれ落ちたかのような艦が、静かに横たわっていた。
その艦体は、戦火と風化の傷を纏い、機能停止寸前の状態だった。
「ナビス、内部構造の確認は?」
《艦体外殻の大半は損傷。内部構造は崩落寸前ですが、中枢コア区画にかろうじてエネルギー反応を検出。推定──生体中枢AI複合体》
「……ゼロスと同型か?」
《はい。戦術型サーヴァント個体の可能性が高い》
アストラ・ヴェールの着陸後、朔夜、リィナ、ゼロスの三人は艦の裂け目から内部へと進入した。
そこは、まるで止まった時間がそのまま残されたような空間だった。
崩れた廊下。静止した警報灯。半透明の格子壁を超えた先に──
一体の人影が、薄暗い光の中で膝をついていた。
機械と融合した外骨格。複数の部位が露出し、義体機能のほとんどが沈黙している。
だが、彼の義眼だけが、淡い橙の光を発していた。
「……きこえるか」
電子ノイズに混じって、かすかに言葉が発せられる。
「主権コード……確認……アマギ……サクヤ……」
《確認:本個体は“古代銀河連合”最終期に配備された高機能サーヴァント、コードネーム《ゼロス=アーカイヴ》。任務分類:記録保持、継承者識別、防衛》
ナビスの報告に、朔夜とゼロスの視線が交錯する。
「ゼロス……こいつと面識は?」
「直接はない。ただ……我々は、同じ“主の遺命”のもとに造られた」
そのとき、アーカイヴがゆっくりと顔を上げた。
その義眼が、朔夜を映し出す。
「確認完了……主権継承者、アマギ・サクヤ……記録の……再生を許可する」
彼の胸部ユニットがかすかに展開し、薄い青色のホログラムが空間に浮かび上がった。
それは、朽ちた銀河の記憶だった。
*
映像が示したのは、かつてのアステロニア星系。
そこには、眩いほどに整備された都市構造と、星核制御施設らしき巨大建造物が存在していた。
中央制御室には、複数のサーヴァントたちと──まだ若い指揮官風の人物が映っている。
「主。これが、あなたの最後の指令ですか」
『ああ。次の継承者が現れたとき、星は再び目覚めるだろう。その時が来たら、伝えてくれ。“選ぶ権利は、受け取る者の意志に委ねる”と』
その姿に、ゼロスとアーカイヴが同時に反応した。
「……我が主」
アーカイヴの音声が、わずかに震えを含んだ。
彼の記憶に刻まれた旧主への忠誠と喪失。
その感情が、静かに滲んでいた。
*
記録再生が終わると同時に、朔夜の胸に確かなものが残った。
この星は、過去から受け継がれた“意志の記録”だった。
戦争の残骸ではなく、希望を託す場所として造られた。
朔夜は静かにアーカイヴの前に立ち、手を伸ばす。
「お前の主の望みは、俺が継ぐよ。俺が──この星を守る」
アーカイヴの義眼が再び輝き、低く声を返す。
「命令確認……コード一致。継承認証、完了。サーヴァント《アーカイヴ》、新たなる主に仕える」
新たな絆が、星の中心で結ばれた。
*
同時刻、惑星の衛星軌道では異常が発生していた。
ナビスの報告により、アステロニア地下にある第二ノードが起動を開始。
それに反応するように、セラフィエル聖制帝国の艦が再び光輪を展開。
《銀河断層宙域より、新たな位相波動接近中。これまでにない量の古代コード識別子が含まれています》
「これは……他の“継承者候補”が動いたか」
ゼロスが呟く。
銀河は動き出している。
過去の遺産が応え、星々が再び“選ばれる”ために目を開こうとしている。
その中心に立つのは、天城朔夜。
彼の意志が、過去と未来を繋ぐ鍵となるのだった。
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《次回座標、設定中……》