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第34話『継がれし意志と動き出す星』

やっと惑星開拓だ..

 アステロニア=ゼロの朝は、まだ薄い霧に包まれていた。

 だが、その中で動き出す人々がいた。小規模ながらも着実に進められていた内政作業が、本格的な“開拓”へと進化しつつあった。


「ナビス、資源配分状況を報告」


《現在、仮設エネルギー炉の稼働率は65%。ヴォルカナイト採掘区の初期試掘が完了し、エネルギー触媒反応値は安定しています。なお、地表から第6層鉱脈へ至る坑道は現在28%掘削完了。》


「作業班の割り振りはどうなってる?」


《技術班はアスファの指揮のもと、主に採掘と精製処理ユニットの組み立てを担当。補給班はリィナが調整中。生活圏拡張に関しては、外周防壁建設と簡易居住棟の整備を進行中》


 艦橋から遠隔操作されていた資材搬送用ドローンが、仮設基地の外縁に資源パレットを運び、作業用アームで地盤に打ち込まれていく。ブレード型の削岩機が鉱石を切削し、ヴォルカナイトの粗結晶が収穫されると、すぐさま隔離容器へと封入された。


「この粒子密度……反応が強すぎるな。ナビス、精製施設に粒子安定剤を加えて。融点調整もしっかりやれ」


《了解。精製ラインに新たな対衝撃層を追加実装。暴発率を約14%低下させました》


 次に着手されたのは、通信基盤の拡張だった。

 標準規格の通信ビーコンでは、この星特有の地磁気の揺らぎに対応できず、信号が断続的に乱れていた。そのためナビスとアスファは、惑星固有の波長を取り込む“位相補正型ビーコン”の再設計に取りかかっていた。


「これは……銀河標準の通信方式じゃ無理だな。惑星特有の周波数を逆算して、専用の波形変換を挟むべきだ」


「お前の案、通す。急ごう。連合の偵察機がまた巡回してきたら、通信内容を傍受されかねない」



 朔夜はアスファの呼び出しを受け、採掘区側のブリーフィングテントに移動していた。

 基地中央の地層マップには、ヴォルカナイトとエキゾチックガスの鉱脈位置が赤くマークされている。


「地下レベル6以下の開発には時間がかかりますが、ここに採掘用モジュールと資材輸送ラインを敷設すれば、最短で三日以内には試験採取が可能です」


「ドローンの稼働率は?」


「補助AIに任せれば最大稼働。加えて、生体反応のある区域も避けて計画を修正中です」


 その言葉に、リィナがわずかに顔を上げた。


「……生体反応?」


「ええ。まだ未調査ですが、基地の北東およそ12キロ地点に、生存者らしき熱源が周期的に検出されています」


「銀河放棄民の末裔……かもしれない」


 その可能性に、朔夜は一瞬の沈黙を置いてから頷いた。


「なら、接触班を出そう。強制はしない。だが、ここが彼らの星であることは変わらない」


「了解。選定メンバーを出しておきます」



 その夜。

 仮設指令室の中央パネルに、惑星表面と地下鉱脈の立体地図が表示された。


《報告:地下レベル6にて、エキゾチックガスの揮発帯を確認。サンプル採取班を編成中》


「今のうちに、設備を全て整えてしまおう。この惑星をただの拠点ではなく、“生きた星”にする」


 朔夜の言葉に、作業班の誰もが真剣に頷いた。


 そのとき、ゼロスが静かに口を開いた。


「この星の鼓動は、徐々に蘇りつつあります。かつて我が主が望んだ“共存と進化”の地──それが今、ここで現実となろうとしている」


「だったら、やるしかないな」


 惑星に人の営みを根付かせる。

 銀河の激流の中で、この星を“意味のある場所”にするために──



 遺構エルグラード・ノードでは、ゼロスが再び中央制御塔との同期を進めていた。

 その内部では、静かに光るコアユニットが心臓のように脈動を繰り返す。


《コード継承者=アマギ・サクヤ。主権中継接続フラグ再認証中……》


 ナビスの表示に重なるように、古代語の文字列が浮かび、ゼロスの義眼が淡く輝く。


「この施設はただの遺構ではない。惑星単位の主権管理中枢だ。制御を完全に取り戻せば、星そのものが“管理可能な存在”として機能するようになる」


「この星が……俺たちの旗の下に完全に入るってことか」


 朔夜の声に、ゼロスはゆっくりと頷いた。


「はい。それが、継承者の第一歩です」



 翌朝、基地に緊急信号が走った。


《警告:アステロニア星系外縁にて未確認艦影を探知。推定サイズ、中型巡航艦。動力波長:極古型》


「……また来たか」


 朔夜はすぐに行動に移る。ナビスと連携し、観測衛星の映像を拡大。

 そこに映し出されたのは、風化と損傷に満ちた艦体。そして、かすかに見える、古代銀河連合の紋章だった。


「識別信号は?」


《識別不能。ただし、過去に記録された“連合コード”との一致率72%。内部動力は沈静中、だが微弱なコア振動を確認》


「アストラ・ヴェールで直接確認に行く。リィナ、ゼロス、準備してくれ」



 艦の漂着地点に降り立った朔夜たちは、砂礫の中に沈み込むように佇む半壊艦を目撃する。

 その船体の裂け目から、細く、光が漏れていた。


 そして──


「……きこえるか」


 機械と融合したような外骨格に覆われた影が、艦の影から立ち上がる。

 電子ノイズにまみれた声。


「主権コード……確認……アマギ……サクヤ……」


 ナビスが即座に反応する。


《確認:この個体は“古代銀河連合”の戦術中枢AI搭載生体兵──通称サーヴァント・ゼロス


 リィナが息を呑み、ゼロスは沈黙のまま相手を見つめていた。


 星が、再び語り始めようとしていた。

 それはただの遺物ではない。

 新たな記憶、新たな継承の扉だった。




《ログ:読了ありがとうございます》


感想やブックマークは、物語の“銀河航路”を確定させる大切な観測点です。

あなたの感じたことが、次の物語の推進力になります──ぜひ一言でも届けてください。


また、更新情報や制作の裏話はX(@hiragiyomi)でも発信中です。

フォローしてもらえると、ナビスも喜びます。


《次回座標、設定中……》

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